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 俺が鋭くはなった質問に全員が顔を見合わせた。


 何度もまばたきを繰り返しながら、従者のひとりが答える。


 


「我が国から輸出を行ったのだから、その代金を回収するのは当然なのではないか?」


 


 まあ、そう考えるのは国家に仕えている者にとっては当然なのだろうな。他国へモノを売ったのだからその代金を受け取る。当然の話だ。


 だが、


 


「では、この多国籍企業であるプリンセス工業の枠組みで考えてみましょう」


 


 そうして、強調するように、四角を指でなぞる。


 


「この企業では、工場で作られた品物を店舗へと移動させています。この移動は国境を越えるものなので、統計上においては輸出にあたります。ですが、この移動を多国籍企業を基準にしてとらえてみるとどうでしょう?」


 


 プリンセス工業を表す四角形の中に輸出を表す矢印がすっぽりと収まっているのが見えやすいように示す。


 


「この企業にとっては、単に製造拠点である工場から販売拠点である店舗側へ商品を移動させただけにすぎません。送り手も受け取り手も、同じプリンセス工業です。つまり、単に企業内で保管場所を変更したというだけにすぎません」


「……」


「この時点においては、企業内で品物を物理的に移動させただけで一切売買がからんではいないのです。それなら、どうして代金の受け渡しが発生するのでしょうか?」


 


 従者たちの間で沈黙が支配した。だれも一言もしゃべらない。そして、そのだれもが必死に自分の頭の中で思考をめぐらせているのが見て取れる。


 


「国を基準にすれば、確かに、これは輸出です。ですが、複数の国で活動している多国籍企業にしてみれば、ただの商品の移動すぎないのです。たしかに国境を越えた輸出に見えますが、それでも単なる保管場所の変更(・・・・・・・)にすぎないのです」


 


 結構な時間、俺の周りで沈黙がつづいた。やがて、一人の従者が顔を上げて、呆然とした顔をして俺の方を見つめてくる。


 


「つまり、これは…… 今まで我々は国の発展を支えようと輸出に精をだしていたというのに、肝心のそれに見合う富の回収ができていないということなのか?」


「ええ、その通りです」


「い、いや、そんなバカな……」


「多国籍企業が関わっている場面において、一生懸命輸出を頑張ったとしても、それに伴う代金の回収ができない。つまり、国レベルにおいては、輸出品という価値の流出ばかりがおきていて、それに見合うだけの他国からの富の流入が起きてはいないということを意味しています」


「……」


「富が流入しないために、それをもとにした賃上げや投資が制限され、景気の向上へとつながることはないのです」


「くっ……」


「しかも、この状況は、グローバリズムの進展や企業の成長に深くかかわるものであり、年々、規模が拡大することはあっても、ほぼ縮小することはないと考えられるものです」


「ぐぬぬ……」


「こんな、いわば傷口がぱっくり開いていて常に大量に出血している怪我人(けがにん)のような状態では、どんなに大胆な景気刺激策を講じたとしてもまともな効果を発揮することは難しいでしょうね。まずはちゃんと傷口を閉じて止血をしなければ」


「……」


「結局、こうしてみると、なんちゃらノミックスだとか、だれそれバズーカというものは、最初からまったく何の役に立つこともなく、不発に終わるしかない代物(しろもの)だったとしかいえないでしょう」


「……」


 


 


 


 従者たちは黙り込み、必死に何かを考えこんでいる様子だ。


 と、


 


「しかし、そのような状況が――」


「大臣たちは固定観念にとらわれていて――」


「国民の納得をえるには――」


 


 早口に話し始めるのだが、聞こえる会話は全然かみ合っていない。それでいて、妙な一体感が感じられる。


 これは、やはり神託のスキルなのだろうな。


 言葉を介しない自分たちの思念で議論を戦わせているので、ときどきポロリと漏れる言葉に整合性がないのだろう。


 本当にやっかいなチームを相手にしていたわけだ。


 


 やがて、見守っている俺に従者のひとりが質問をした。


 


「なるほど、スミス氏の見解はよく理解した。我々これまで不思議に思っていたことが、完全に()におちた」


「それならなによりです」


「だが、問題はこれで終わりではない。我々が置かれているこの状況を理解するというのはまだ出発点に立ったというだけに過ぎない。重要なのは、その先にあること。すなわち、この状況を打破(だは)するには、どうすればいいかを考えなければいけない。スミス氏にはその良策がおありか?」


「良策といえるかどうかは分かりませんが、この状況をどうにかする方策に関してならヒントぐらいは出せるかと」


「ほお」


 


 その従者は俺の顔をじっくりと眺めている。もちろん、こちらからも安心させるようにうなずいてみせる。


 


「そのヒントとやらを聞かせてはもらえないだろうか?」


「ええ、もちろん」


 


 そうして、王女殿下の従者たちに俺の腹蔵(ふくぞう)の案を披露した。


 従者たちは俺の案を聞き、驚いたようだが、俺がさらに説明を加えると、すぐにどういう狙いがその背後に隠されているか理解したようだ。


 


「なるほど……」


「もちろん、この案が絶対というわけではありません。おそらくこれよりもいい案を考え出すことは可能だとは思います。なにしろ結局は私はお国の人間ではない外国人なのですから。お国の事情に精通しているわけではありません。そして、お国は『越冬四十年』といわれる長い停滞に(おちい)っていたわけです。その間に物事が複雑に絡み合って、一筋縄(ひとすじなわ)ではいかなくなっていると考えるのが自然でしょう。まずは、状況にあわせて最善の道を探すことが肝要です」


「うむ」


 


 


 

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