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「ささやかながら、わが社もお国の発展に協力させていただきたく存じます」


「もしこの先、新工場建設が実現するなら、我が国の発展もさらに加速するでしょう」


「ご期待にこたえられるようにしたいものです」


「いや、それ以上にあの新しい魔道具技術が我が国へもたらせられるなら、我が国に技術革新が起き、国の産業全体に大躍進をもたらすかもしれませんね」


「ははは、そうなると素晴らしいですね」


「いいえ、きっとそうなるに違いませんわ。そして、ようやく我が国にも新しい光が差すことでしょう」


 


 とても楽観的で明るい未来図を描いているようだ。


 まあ、俺の見解では、そういうことにはならないだろうが。


 もちろん、魔道具技術が入れば、広範囲に革新的な技術革新が起こって、一時的にせよ、経済の盛り返しに成功するだろうが、それでもツ・ルーミの『越冬四十年』と呼ばれる長期の停滞を打破(だは)するような決定打にまではならないだろう。


 一時的に景気が良くなることはあっても、しばらくすれば元の停滞へ戻っていくだけだろうな。


 だって――


 


「おや、なにか気になることでもおありですか?」


 


 会談が終わり、参加者たちが三々五々ワイングラスを手にして歓談している。そんな中王女殿下の従者のひとりが俺のうかない顔に気が付いていたようだ。そっと耳打ちしてきた。


 普段の俺なら『いいえ、なんでもございません。当方にとっての些細(ささい)なことなので』とかなんとか言ってごまかしているところなのだが、この時だけは、どういうわけかポロっと本音がでてしまった。


 きっと、会談自体は成功といえるにしても、終始ツ・ルーミ側のペースだったせいでたまってしまっていたストレスのせいだろうな。


 


 俺は手近なところにあったメモ用紙を引きちぎり、ペンをとり、大きな円を二つ並べて描いた。


 左の円には『ツ・ルーミ』を、右の円には『カナーガッファ』を書き加える。


 ツ・ルーミにとって、カナーガッファ帝国は最大の貿易相手だ。


 そして、それらの二つの円にかかるように中央に大きな四角形を書き込んだ。


 


「それは?」


 


 気が付くと、俺のまわりに王女殿下の従者たちがあつまり、俺の手元のメモをのぞいている。


 


「ツ・ルーミにとってカナーガッファ帝国は最大の貿易相手国ですよね」


「ええ、よくご存じで。して、この四角形は?」


「両国を(また)にかけて活動している多国籍企業です」


 


 すぐに口々にいくつもの企業の名前があがった。


 


「仮に、この多国籍企業を『プリンセス工業』とでも名付けましょうか。取り扱っている商品は、なんだろう、そうですね、魔法使いの杖などはいかがでしょうか?」


「それはツ・ルーミの特産品だ」


「山間部で原料の木がとれ、丈夫で壊れにくく、杖全体に魔力をよく伝えるとして、全世界の魔法使いのあこがれであり、その実用性の高さからも評価されていますよね。さらに高価なものになると、ツ・ルーミの職人の手でしかなしえないような精緻(せいち)で華麗な装飾がほどこされ、各地の貴族たちの間では居間に飾る観賞用の美術品としてもとても人気があります」


「ああ、その通りだ」


 


 従者たちは、どこか誇らしげにうなずいている。


 


 次に、ツ・ルーミの円と四角の重なっている部分に『工場』を書き込んだ。そして、カナーガッファの円と四角の重なっている部分には『店舗』を書き加える。


 


「ツ・ルーミの工場で製造された魔法の杖はカナーガッファの人たちに販売されるとします。とすると、製造した魔法の杖をカナーガッファへ送り出す必要があります」


「当然だ」


「つまり、輸出が発生します」


 


 俺はツ・ルーミの円からカナーガッファの円へ向けて矢印を書き加えた。


 


「受け入れたカナーガッファの店舗は、それをカナーガッファの顧客たちに販売し、代金を受け取ります」


 


 カナーガッファの円のなかに魔法の杖の販売と代金の受け取りを示す反対方向の二つの矢印を書き加える。


 そうしてから、俺の手元のメモをのぞき込んでいる従者たちの顔を見回した。そして、告げた。


 


「さあ、これでこの魔法の杖に関しての取引はすべて完了しましたよね?」


「ん? いや、まだだ。この後、カナーガッファで回収した代金をツ・ルーミへ送って――」


「いいえ、そうではありません。そもそも、どうして()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 

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