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15

 次の日、王宮では国賓を迎えての儀式が丸一日行われていた。


 もちろん、昨日のこともあり、俺は万が一のことを考えて影の中に(ひそ)んで、目を光らせていたが、なに事もなく。


 その翌日から王女殿下の視察が各所で行われた。


 我がスミス商会もツ・ルーミ側からのたっての希望でその視察対象の一つに組み込まれている。


 王女を迎える準備を万全に整えて待っていると、予定時刻ぴったりに我がスミス商会の前に王女たちを乗せた数台の馬車が止まった。


 


「ようこそ、おいでくださりました、王女殿下」


「ええ、先日はとても素敵なものを頂戴(ちょうだい)して感謝しておりますわ」


「滅相もない。あのような些細(ささい)なものでは、王女殿下のうるわしさには到底(およ)ぶことなく、恐縮のかぎりでございます」


「オホホホ 口がお上手ですこと」


「いえいえ、本当のことでございますから」


「オホホホ」


 


 王女は手に持った扇子(せんす)を開いて、口元を隠した。その目はまったく笑ってはいない。駆け引きはすでに始まっているってことか。


 


「では、ご案内させていただきます」


「ええ、今日はよろしくね」


「はい。僭越(せんえつ)ながら私が王女様一行を先導させていただきます」


 


 王女と随行(ずいこう)する者たちは、俺の後ろについて、ぞろぞろとスミス商会の本部ビルの中へ入っていく。


 玄関ホールの脇に飾られた商会が(あつか)っている商品(もちろん、その中にはツ・ルーミ産の工業製品もあるが)の見本を披露しつつ、ビルの上階へ案内し、会長執務室へ一行を招き入れた。


 


 向かい合うソファーへ王女殿下をいざなうと、いよいよ俺たちは対面で話をすることになる。


 俺の背後に控える社長のFマリナスたち幹部たちの紹介をおえると、ツ・ルーミ側からも、王女の背後に控える者たちが順に自己紹介をはじめた。


 予想通り、数人の王女の従者以外はツ・ルーミの大企業の幹部たちがズラリ。さながら、王女自ら行う商談会とでもいうような雰囲気だ。


 まあ、こちらとしてもいいビジネスチャンスなので願ったりかなったりなのだが。


 


「あらためて。今日は時間をとっていただき、感謝しているわ」


「いえ、こちらこそ、このような場所にまでご足労(そくろう)いただき、ありがとうございます」


 


 そして始まった商談会、商談相手としての王女殿下は、なかなかの巧者だった。事前によくリサーチをしており、こちらの望むところをチラつかせつつ、ツ・ルーミ側にとっての有利な条件でうまく釣ってくる。


 もちろん、こちらも対抗してあれこれ条件を持ち出して話をコントロールしようとするのだが、なかなかこちらのペースにはならなかった。


 商談の間に観察している限りでは、あちらの従者たちと王女殿下の息がぴったりと合いすぎているように感じる。まったく合図しあっているという雰囲気ではないのに、タイミングよく資料が手渡され、その道に精通した者から助言を受けたかのように王女殿下が口を開く。まるでチーム全体が一心同体とでもいうかのようだ。


 


 なにか魔法的なものでも?


 だが、王女殿下にも背後の従者たちにもさほど強い魔力の気配は感じない。となると、王族たちに宿る例の神託のスキルなのだろうか?


 神託のスキルで従者たちとの間で言葉を介さずとも意思疎通を図れる能力が備わっているのだろうか?


 だとしたら商談相手としてはやっかいすぎる!


 


 結局、俺の印象としては見事にしてやられたとしかいいようのない会談になってしまった。


 だからだろうか、最後に言わなくてもいいようなことを口にしてしまったのは。


 


 


 


 


 王女殿下の商談会で想定よりも多くの合意が成立した。


 とはいえ、厳しい条件を飲まされはしたが、成立した商談自体は、かならずしも悪くはないものばかり。双方ともに十分に満足のいくものだ。


 最後にお互い握手して、満足した笑みを交わしあっていたのだが。


 


「最後にひとつお聞きしておきたいことがあるのですが?」


 


 王女殿下のうしろに控える従者の一人が口を挟んできた。


 


「はい、なんでしょうか?」


「おとといのレセプションのおり、ロジャー・スミス殿は例の魔道具に関してその情報を公開なさるとおっしゃっておられましたが?」


 


 ああ、あの件か。おそらく水を加工する以外の用途があると判明したことで、それを軍事利用できるかどうか聞きたいのだろう。もちろん、それはあのおバカに説明した通りの理由で、ノーなのだが。


 


「はい。もちろんそのつもりで、現在、公開のための準備をしておりますよ」


「そうですか。では、あの魔道具類は他の魔法にも応用できるものなのですね?」


「ええ、そうです」


「では――」


 


 ほら、来なさった!


 


 次に伝えるべき言葉を頭の中で整理しつつ、相手の言葉の続きを待つ。


 


「スミス商会としては、あの水差しのみを製造するつもりではなく、他の便利な魔道具の製造もされるつもりなのですね?」


「ああ、その件ですが、元来(がんらい)攻撃魔法というものは…… えっ?」


 


 予想外の質問だった。


 軍事関連への応用についての質問がくると思っていたのに!


 


「も、もちろん、あの技術は水差しのみにしか使えないというものではなく、王女殿下に献上した品物のようにもっと幅広い用途で使えるものでございます。なので、他の種類の魔道具の開発・製造に関しても、もちろん、今後も予定しておりますが?」


「おお、やはりそうでしたか」


「ええ」


 


 な、なんだ? どんな意図があって、こんな質問をしてきたのだ? しかも、こんな会談の終わりに?


 


「実は、こちらからご提案があるのですが?」


「と、申しますと?」


 


 ツ・ルーミ側からの提案というのは、あの魔道具技術をつかって新商品を製造販売するときには、工場の増設が必要になるだろう。そのときには、ツ・ルーミが用地の提供や各種助成の用意があるので、ぜひツ・ルーミでの工場の建設を検討してもらいたいというものだった。


 つまり、新工場誘致のお誘いだ。


 実のところ、あの水差しを販売するようになってから、そんなことを提案してきたのは、ツ・ルーミが初めてだ。みな目の色を変えて兵器への転用の話しかもってこなかった。


 さらに、ツ・ルーミが提示してきたものはどれも魅力的なものばかり。


 なるほど、かつて国を挙げて工業化を推し進め、経済的な大発展を勝ち取ってきた人々の子孫たちというところか。


 話を聞いていたFマリナスも乗り気な様子だった。もちろん、俺も。


 


「ええ、ぜひそのときには、皆様のお力をお貸しいただければ幸いです」


「よろこんで!」


 


 再度、力強い握手を交わした。


 

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