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 太った男の方が庭から先に明かりの方へ出てきた。


 予想どおり、王弟ドナルド。現国王ヨーゼフ三世の弟にして、現在、ヘンリー王太子、ユリウス王子、そして、ミレッタ王女に次ぐ、王位継承権第四位にある王族だ。


 もっとも、ユリウス王子の場合はなにかことがあれば人間の代表として人々を率いる『勇者』の立場。古くからの慣例に従うなら、一国の王位に長くつくのは避けるだろう。でないと、いざというときに、他国の王たちが勇者の命に従うのを拒否する可能性が高くなるのだから。それに、ミレッタ王女はというと短命で病弱の体(と世間では見られている)。とても国王の任を(まっと)うすることなど不可能だろう。


 というわけで、実質的に、王弟ドナルドはヘンリー王太子に次ぐ王位継承権第二位の人物なのだ。なのに、先日正式に発表された王太子妃の懐妊によって、その子が無事に生まれたら王位継承権は繰り下がり、ドナルドが王位を継げる可能性が遠ざかってしまう。


 


 となると、あの長身の男は……?


 


 ドナルドに遅れて庭の暗がりから出てきた男は、俺も何度か顔を見たことがある東宮付きの武官の男だった。


 明かりの方へ出てきた男は、やれやれとでもいうように、大きくため息を吐き出し、それから顔を引き締めて、建物の方へ入っていった。


 さっきから二人に見ていたことが気づかれないように、バルコニーの手すりの陰に身を(ひそ)ませている。


 考えを整理した。


 


 あとで、あの変態王太子の耳にも今見たことを報告しておかなければな。それとなく王太子妃の身の回りにも注意するよう執事さんにも話しておかなければ……


 


 もちろん、俺の方でもできるだけのことはするつもりだが。


 しかし、相手は東宮付きとはいえ武官。王太子の家族のそばへ近づける機会はそうそうない。つまり、直接あの者の手で王太子妃に危害を(くわだ)てることはできない。意のままに動く仲間が東宮内にいるのだろうか。


 念のため、あの男の身元だけでなく、周囲との人間関係も含めて、徹底的に調べ上げておいた方がよさそうだ。


 そうして、俺はきらびやかな光があふれるホールの中へ戻った。


 


 


 


 途端、目に入ってきのは……


 


「まあ、そうなんですの。オホホホ」


「ええ、どうしてもそうせざるをえなかったもので」


 


 困ったような表情を浮かべているユリウス王子の横で、華やかな満面の笑みを向けて話しかけているソフィア王女の姿があった。


 


 って、そうだった。当面の問題はこっちだ!


 


 ソフィア王女は、大胆にカットの入ったドレスを着て、誘惑するような口元に含んだ笑みをユリウス王子におしげもなく振りまいている。よく手入れされた豊満な肉体をみせつけ、その目はハンターの目だ。


 そして、そのハンターが狙いを定めている獲物の方は、困り顔ながら、かといって立場上失礼な対応もできず、なんとか受け流すので精いっぱいの様子。


 と、王子と目が合ってしまった。


 途端に『助けてくれ~!』というように、俺の方を見てくるわけで。


 


 はぁ~ そろそろ助け舟を出さないと、ああは言っていたが、あのおバカが何をしでかすか……


 今ここで魔獣なんかが出現なんかした日には目も当てられない!


 


「これはこれは、王女殿下。お初にお目にかかります」


 


 もちろん、俺が話しかけようとしても、ソフィア王女の視線はユリウス王子にロックオンしたまま。俺の言葉を聞いている気配もない。


 とはいえ、俺が話しかけてきたのを渡りに船とさっそくくらいついてきたのは王子の方。


 


「おお、スミス殿。久しぶりだな」


「はい、お久しぶりにございます」


 


 実際には、昨夜、ユリウス王子とミレッタ王女のお(とも)をして観劇をしていたのだが。


 


「王女殿下、この者は我が国の三大商会の一つスミス商会を率いるロジャー・スミスという申すものです。お国の企業とずい分親密に取引をしていると聞き(およ)んでおりますが?」


「あら、そうですの」


 


 ユリウス王子の口()えで、ようやく俺がそこにいることに気が付いたようだ。今にも舌打ちしそうな表情で俺の方を見た。


 


「たしか初めましてになるのかしら。よろしくね」


「はい。よろしくお願いいたします」


 


『ユリウス王子の顔を立てて、ちゃんと挨拶はしたわよ。だからもういいでしょ』といわんばかりの露骨な態度だ。そのままユリウス王子へ笑顔を向けなおしそうだ。


 慌てて、注意を引くように言葉を継ぐ。


 


「ツ・ルーミの各企業は、どの企業も独自の技術をもち、高い品質の商品を我々に提供してくださいますので、我々大いに感謝申し上げております」


「ホホホ。そんな風に()めていただけると、誇らしいですわ。我が国のものたちにもその言葉をきっと伝えますわよ。さぞ大喜びいたすでしょう」


 


『さあ、今度こそ挨拶はすんだわ。とっとと私の前から立ち去りなさい!』と心の声が聞こえてきそうな視線。


 正直、むっとはしたが、その隣で期待の表情で俺を見ている王子がいる。


 


「ありがとうございます。そこで王女殿下に置かれましては、我々の日々の感謝の気持ちを表したく、あちらにささやかなプレゼントをご用意いたしております。いかがでしょう。これから皆様にご披露いたしたいのですが?」


「あら、まあ、なんですの? 私にプレゼントだなんて」


 


 プレゼントと聞いた途端、これだ! なかなか現金な姫様のようだ。まったく!


 


 ともあれ、ソフィア王女はさっきまでとは違って、興味津々な様子で、俺にいざなわれ、ホールの中央に進み出てきた。


 そして、ちらりと視界の隅に入ったのだが、露骨にホッとしている王子が一人いたのは気づかなかったことにしよう。


 


 


 

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