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ツ・ルーミの王女様が、数日中にここウェスト王国の王都を訪問すると教えられたのは、変態王太子との何度目かの茶会のあとだった。
例によって例のごとく、今回の茶会もなんとか俺の口から禁書に書かれている魔道具製造方法を引き出そうと、その当人の目の前であれこれ算段するのに付き合わされた。
ホント、ここの兄妹は面倒くさい……
というか、あーでもない、こーでもないとあれこれ悪だくみしている姿、どこか楽し気にさえ見えるのは、忙殺されている膨大な公務から、このひと時だけは解放されて、のびのびと好きなように振る舞えるからだろうか。
そう考えると、俺との面会が王太子のリフレッシュに一役買えるというのなら、まあ付き合ってやるのも悪くはない。
「いっそのこと、宮廷魔法使いたちに洗脳の魔法をかけさせてしまうのはどうだろうか? 場合によっては、脳が破壊されて、廃人同然になってしまうが、この際だ、致し方あるまい。うん」
「おい、こらっ! そんなわけあるか!!」
で、そんな茶会を終えた帰りがけに、一声かけられたのだ。
「近々、ツ・ルーミ王国からソフィア王女が親善訪問されることが決まったぞ」
「ツ・ルーミのソフィア王女殿下ですか?」
「そうだ」
ソフィア王女といえば、ツ・ルーミの国王の一人娘で、ひと月ほど前に正式に王太子として立てられたばかり王女様。次期国王として、近いうちに摂政に任じられると聞いているのだが。
「なにゆえ、ツ・ルーミの王女様が?」
「それはもちろん――」
変態王太子は笑みを含んだ顔をしている。
「将来の夫を物色するためだな」
「……」
「いずれ王位を次いで女王になるときに、かたわらで寄り添う夫を見つけに各国を訪問する途中で、我が国に立ち寄られるのだ」
「な、なるほど……」
なんだか、そこはかとなく嫌な予感が……
「当然、その夫君の第一候補に挙げられているのは――」
「ユリウス王子ですか……」
「その通りだ。当代の勇者だが、二番目の王子。しかも、兄の王太子には妊娠中の妃がいる」
「なるほど…… それは、格好の婿候補――ッ!?」
驚いて言葉を失っている俺に、うれしそうに微笑み返してくる。
――今、この人、この国にとって、とても重要なことをサラッともらしたぞ!
「そ、それはおめでとうございます!」
「うむ。今朝、妻から教えられたばかりだ」
「それは、それは…… 次の茶会のときには、なにか贈り物を」
「それならば、そなたの知っていることを洗いざらい白状して――」
「それはなりません!」
「ぐぬぬ……」
というか、ユリウス王子目当てで、他国の姫君が王都へやってくる? それって……
そのことをあのおバカが耳にしたら。
「そなたの方で、なんとか言いくるめて、何事もなく姫様の訪問を終えられるようにできないものか?」
「な、なんとか善処してみます」
「頼む」
という感じで、妙な仕事を押し付けられたのだった。
絶対、怒り狂うだろうな。
――私のユリウス兄さまにちょっかいをかけようだなんて、万死に値する。全魔族につぐ、あの無礼者を討ち取れ!
眉を逆立てて、そう喚き散らすのが目に見えるようだ。
帰りの道中、馬車の中で何度も大きなため息をついたものだった。
で、サクラギ離宮へたどり着き、さっそくあのおバカと顔を合わせ、ソフィア王女の訪問のことを話したのだが、案に相違して、おバカはおとなしい。ただ、そっけなく、
「あ、そう」
それだけだった。
――なんだ? どういうことだ?
かたわらに控えるサヌも意外そうな顔をしている。お互いに顔を見合わせて首をかしげるしかなかった。
しかたなく強く困惑しながらも、おバカの前から退出した。
「魔王様、よろしいのですか?」
「えっ? なんのこと?」
「さきほど、あやつが申していた人族の王女のことです」
「ああ、別にいいんじゃない」
「しかし、この世界の勇者のことを――」
「そうね」
「なら……」
サヌは、ここしばらくの魔王の様子を思い返していた。
中央大神殿での聖女の仕事から解放され、ここサクラギ離宮へ療養と称してひきこもるようになってから、魔王は少しずつ、なにかが変わってきたようにサヌには思えた。
以前よりも、ほがらかに笑うようになったし、人当たりがよくなってきたようだ。
魔王としての傍若無人な言動は相変わらずだが、それでもその中に含まれているトゲのようなものが以前よりも減ってきているように思える。
特にあやつとあれこれ計画を立てているときには、くったくなく笑う姿をよく目にするようになった。
――あやつと接するようになって、すこしずつ変わってきていらっしゃる。
それがいいことなのか、悪いことなのか、サヌには判断がつかなかった。ただ、そんな姿を見るにつけ胸の奥の方に温かいものが沸き上がるのを確かに感じていた。




