2のあらすじ
不本意ながら、ヨックォ・ハルマの魔王にして、ウェスト王国の王女であり、この国の聖女でもあるミレッタ王女に仕えることになった俺、ロジャー・スミス。
なんやかんやで、ヨックォ・ハルマの勇者にして、ウェスト王国の第二王子(つまり、みれった王女の兄)であるユリウス王子とも友人となってしまった。
で、ひょんなことから、俺は、そのユリウス王子の護衛官の中に宰相とつながりのあるスパイがいることに気が付いたのだ。早速、そのスパイを逆に利用して宰相側に情報を流すことにした。
かつて、俺を無実の罪でコーナン監獄へ放り込み、最終的に火あぶりにして、俺の命と未来を奪ったミ・ラーイの市長と王国一の商会であるファブレス商会。ついに、そいつらへ復讐するときがきたのだ。
のだが、ミ・ラーイの市長の方は、俺の流した情報によって、首尾よく失脚させることには成功した。だが、ファブレス商会の方は、多少のダメージを被っただけで思ったほどの損害を受けることがなかった。
偶然にも市長の不正が発覚する直前に代替わりしたばかりで、新しい当主には不正へのかかわりが認められなかったからだ。
もっとも、そのファブレス商会の新しい当主というのが――トム・ファブレス。かつて、アルテナにからんできたゴロツキ野郎だ。そして、俺の幸せな未来を奪う原因になった男。
許せん!
ということで、俺は、何重にも罠を張り巡らせて、トム率いるファブレス商会を破綻へと追いやることにした。
まず、初めに取り掛かったのは、魔法もないような辺境の異世界・地球から、病気療養を名目に引退することになった聖女ミレッタ王女の後任を連れてくること。
その結果、新しい聖女たちとともに、ヨックォ・ハルマとはまったく違う異世界の珍しい文物がウェスト王国の王都へと流入し始める。
で、狙い通りに、ファブレス商会がそれへ飛びついてきた。
『ハンバーグ』だ。
ヨックォ・ハルマでは存在しない地球のハンバーグを自分たちで再現し、それで儲けようという魂胆なのだ。
そして、最終的には、彼らは彼らなりに苦労してレシピを手に入れ、ハンバーグの材料を調達することに成功した。もっとも、その過程で、カッワ・サキーからの避難民たちの開拓村に多額の資金を落とすように仕向けたりしたのは秘密だが。
そうして、ファブレス商会はついにハンバーグ店を出店することになった。
そのハンバーグ店は、すぐに人気を博して、どんどん規模を大きくしていった。
もちろん、ファブレス商会のライバルたちも黙っているわけもなく、すぐに競合店も参入して、さながらハンバーグ戦争の状態に。そうしたこともあって、またたくまにハンバーグはウェスト王国王都の代表的な料理とまで呼ばれるようになった。
もっとも、ここまでは、こちらの計画通りでもある。
満を持して、俺のスミス商会傘下の店を出店することにした。
俺の店は、ファブレス商会やその競合店のハンバーグと違って、このヨックォ・ハルマの食肉用家畜の肉を使ったものではなく、地球から連れてきた『牛』の肉をつかったもの。臭みがすくなく、えぐみもなく、やわらかい、味わい深い肉。
たちまち、俺の店はファブレス商会の店から客を奪い、大繁盛し始める。
負けじと、ファブレス商会の方でも牛肉を確保しようと、大胆な手を打ってきた。俺の店に牛肉を卸している牧場を見つけ出し、飼っている牛もろとも、牧場を買収するなんてことをしかけてきた。当然、そんなことをすれば、多額の資金が必要になる。
一方で、仕入れ先の牧場を失った俺の店は牛肉を仕入れられなくなり、窮地に陥ることになるだろう。
作戦としては、悪くない判断だ。ただし、それは、代わりの仕入れ先を俺たちが見つけ出すことができなければという話だ。もっとも、そんなことはありえない。そもそもの話、彼らが買収した各牧場で飼っている牛たちは、俺の部下が各牧場へ子牛を預けているものなのだから。
そうとも知らず、ファブレス側は牛を飼っている牧場を見つけるたびに、どんどん牧場丸ごとを買収をしていく。目に見えてどんどん資産が目減りしていく。
しかも、折角、手に入れた牧場も、新しい子牛を手に入れることができない(俺たちがファブレス側に売るわけがないし、買っていた牛自体はすべて雄なので、子牛を産めない)ので、どんどん空になっていく。
ついに白旗を上げたのはファブレス側だった。
大打撃を受け、人員整理を始めたファブレス商会。俺のスミス商会にまで整理した人材の受け入れを打診してきた。
もちろん、快く移籍を希望する人材を受け入れた。俺自身、トムには恨みしかないが、その従業員たちにまで恨みなんて持ってはいないのだから。
その中でトムの右腕のマリナスとも知り合った。これが、なかなか見どころのある人物だった。
大ダメージを受け、立て直しをはかるファブレス商会が次に目をつけたのは、聖女たちが地球から持ち込んできた化粧水。幸い、そのコピーはヨックォ・ハルマでも容易に製造できる。
王都で大々的に売り出し、大成功を収めるかに見えたのだが、そこへまたしても、俺の介入が入る。
ファブレス商会が売りだした化粧水に対抗して、俺は地球から来た聖女たちがヨックォ・ハルマの人々とコミュニケーションが取れるように開発した魔道具の原理を応用した水差しを売り出したのだ。
あっという間に、ファブレス商会の化粧水は売れなくなり、大量の在庫を抱えることになった。
あげく、トムはこれまでの一連の失敗の原因をマリナスへ押し付け、ファブレス商会から追い出してしまった。
ここまで経営者としては無能としかいいようのないトムをトップにいただくファブレス商会がなんとかやってこれたのはすべてマリナスの手腕のおかげ。そんなマリナスを追い出したらどうなるか火を見るよりも明らかだろう。
トムが手掛ける商売は失敗の連続。ついには、トムはいずこかへと姿を消してしまった。
一方で、俺はファブレス商会が関わってきた事業の大半を掌中に収め、ついには王国一にまでスミス商会の規模を拡大したのだ。
だが、失踪したトムはそんな俺に恨みを抱いていたようで、ミ・ラーイの闇ギルドに依頼して、俺や俺の部下になったマリナスを暗殺しようと企んできた。
それらの襲撃をことごとく退け、ついに直接対峙することになった闇ギルドのギルドマスターに俺はある仕事を持ちかけるのだった。
ついに、ミ・ラーイの市長が火あぶりにされる日、市長と並んで刑に処せられたのは、トムだった。
トムは、俺がかつて受けたように、他の重罪人の身代わりとされて、処刑されることになった。