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2:やっぱお前、異世界転生者じゃね?

どうも皆さん、俺です。モブルです!


「凄いわアレン君!もうこんな所までわかるなんて!」

「えへへ、先生の教え方がすごくわかりやすくて、僕もっと色んな勉強したいなって思って予習が捗りました!」


こっちは学舎で無双してるアレン!

おかしいやろがい!





基本的に『学校』ってのは、安定した収入がある家の子供が行くもんだ。教育にも金がかかるしな。

超金持ちになると逆に学校には行かずに『家庭教師』とかになるんだけど。ちなみに俺は家庭教師がついてる。


え、金持ち自慢かって?いやーそれほどでもー!


いや、実際のところは父ちゃんや母ちゃんの仕事ぶりをなるべく見るために、学校に行ってる暇が無いってのが正解。


「それじゃあ次の内容に移りましょうか!」


で、アレンは残念ながら『安定した収入がある家の子供』ではない。

だけどアレンの母ちゃんとしては息子に勉強をさせたい。(アレンはとても頭が良いらしい。まぁ文字も読めるしな。)

そんな家庭が使う手段が、教会やら孤児院やらに併設されてる『学舎』に通わせること。

週に2回?3回?くらいのペースで、教会のシスターやら孤児院の院長やらが子供達に最低限の勉強を教えてるんだな。

最低限の知識を得られるってのは良い。腐らずに、無駄に利用されずに生きる糧になる。


「はい!よろしくお願いします、シスター!」


ここは教会であり、孤児院もあり、学舎でもある施設。

俺は、時々様子見に行って来いって母ちゃんに言われてるってわけ。


「あ、モブルじゃん!」

「ようモブル!」

「クソ生意気なガキ共がよぉ……」


孤児院の子供2人がバタバタと近づいて来る。


「あの新入りすげーよな。シスターがあんなにテンション上げてんの初めて見た!」

「俺らと歳そんなに変わらねーのに、もう全然先の勉強までやってんだぜ!」

「へー、すげー。ってかそれを難なく対応して色々教えられるシスターがすげーわ」

「そう!シスターってすげーんだよ!わかってんなーモブル!」

「痛ぇっての!加減しろ!」


よし、アレンにヘイトが向かずに『シスターが凄い』って話で落ち着いたな。

変に嫉妬を買っても過ごしづらいだろうからな。


「ねぇモブル坊ちゃん?」

「ぎゃー!?」


アレンに勉強を教えてたはずのシスターの声が背後からして、俺達は叫んだ。


「シスター!?いつの間に背後に!?」

「やぁねぇ、そんなに叫ばなくても良いじゃない?」

「シスター、たまにマジで気配しねーんだよ!」

「どうやってんの!?」

「まさかシスターの前職ってスパイ!?」


アレンは、シスターお手製の問題集を黙々と解いている最中らしい。

いや、でも、ホントにさっきまで向こうに居たのに……!?


「ふふふ、企業秘密!」


女には秘密が付き物とは言うが、シスターは謎が多過ぎる!


「ほら、貴方達は外で遊んでらっしゃい!私はモブル坊ちゃんとビジネスの話をするんです!」

「うげ、難しい話はわかんねーや」

「じゃーなモブル!」

「おー元気でやれよ生意気坊主共。」

「私からしたら、貴方も随分と生意気なお坊ちゃんですよ」


ふわりと微笑むシスターは、確か40手前くらいだったかな。

庭師の兄ちゃんがシスターに明らかにアプローチしてるけど、あれ気付いてるかなぁ。


「で、ビジネスの話ってのは何ですかいシスター?」

「ビジネスというか、投資に近いかしら」


投資。投資かぁ。投資はまだ勉強中なんだよな。


「アレン君、凄く優秀なの。近いうちに私じゃ何も教えることが無くなっちゃうくらいに」

「そりゃ凄い。神童ってやつかねぇ」

「でも、本人のやる気もあるし、あんなに優秀な子にはもっと学ばせてあげたいの……だからお願い!」


シスターは手を合わせて言った。


「モブル坊ちゃんのところの家庭教師さんに、アレン君も一緒に勉強教えてもらえないかしら!?」


ん?

うーーーん??


「シスター……流石にそれは俺の判断じゃ何とも言えないよ……」

「モブル坊ちゃんのよく回る口で何とか!」

「褒められてる?貶されてる??」


全く、シスターも食えない人というか何と言うか……

しかし参ったな。家庭教師も安くはない(むしろ高い。家庭教師を雇うなら学校に行かせた方が安い。)んだけどな。

タダで見てもらえるとも思えねーし……


「シスター!終わりました!……って、何々、何の話?」


問題集を抱えたアレンがこちらにやって来る。


「あのね、ここ数ヶ月アレン君にお勉強を教えて来たけど……そろそろ私が教えられることが無くなっちゃうの」

「え!?で、でも、僕まだ色んなことをシスターから学びたいです!」

「ありがとう、教師冥利に尽きるわ……でもね、アレン君にはもっと色々な、もっと難しいことを学んで、この先の人生を豊かなものにしてほしいの」


おぉっと俺の話を一切聞かずに話が進んで行くぅ!


「それでね、モブル坊ちゃんの家庭教師に、モブル坊ちゃんと一緒にアレン君も学ばせてもらえませんかってお願いしてみようと思うの。どう?」

「え!そ、そんな、モブルと一緒に!?」

「今よりもずーっと難しくて大変だけど、沢山のことを学べるはずよ」


アレンはおろおろしつつ、俺の方を期待の眼差しでチラチラ見て来る。


「ねっアレン坊ちゃん。良い感じに説得を……ねっ!」


この人も大概強引だよなぁ!


「モブル……僕、全然ついて行けないかもしれないけど……」


うっ、仔犬のような潤んだ瞳っ!

その横のシスターのガン決まりの瞳っ!!


「あの、せめて、見学だけ、とか……無理かなぁ……?」

「えぇ……」


更にウルウルするアレンの瞳。更にギラギラするシスターの瞳。

異世界転生者って総じて圧強くない!?何で!?




と言うのも?このモブル??






に対して『言うことを聞け、さもないと酷い目に遭わせるぞ』とでも言いたげな視線を送るシスター??


異世界から来た人間らしい。

元の世界では小さな子供に勉強を教える先生をやってて(子供の教育には国が金を出しているらしい。どういうこっちゃ。)、働き過ぎ及び先生仲間からの圧力で潰れかけてたところをとうとう潰れて……

っていうか働き過ぎって何?夜中まで仕事して早朝から仕事に行くらしいんだけど何?怖過ぎん??

そりゃ心身共に壊しますわな。


で、気が付くと教会の前で倒れてて、それを神父様が保護したんだって。

最初、シスターは何を問いかけてもぼんやりしてるか、怯えたように『ごめんなさい、すぐにやります、大丈夫です』と繰り返すばかりで、意思の疎通もままならなかったとか。

これは心がぶっ壊れてるぞと思った神父様は、『ここで心穏やかに過ごしなさい』と言って、衣食住を提供していたそうな。神父様マジ良い人過ぎ。


ていうか、このシスターの過去聞いた時には流石にこのモブルもビビったね。おぞましいったら無いよ。

俺の父ちゃんと母ちゃんも働くの好き(っていうか商談が好き)だけど、同じくらいバカンスも好きだからな?

人間余暇が無いと死んじまうよ……


話が逸れた。で、しばらくは何もせず、身体が動くようになったら教会の掃除とか雑務を細々と手伝い始めたシスター。

ある日、孤児院の子供になんとなく簡単な計算を教えたらしいんだよな。足し算とか引き算とか。



『そんなもん覚えてたって役に立たねーよ!』



ガキのそんな一言で、どうやらシスターの先生魂に火が着いた。

何の役に立つのか、この先どう役立てて欲しいかを懇々と説明して子供達を圧倒し、更に教え方が上手かったもんだから孤児院中の子供が集まってシスターから色々教わる、みたいなことが数日続いた。

それでシスターが『座って机に向かって勉強するべきだわ!』って言ってとりあえず神父様に相談。

その時のシスターの目は、今までとは打って変わってキラキラと輝いていたそう。

で、孤児院長(神父様の兄弟らしい)にも話が行き、孤児院内でシスターが勉強を教える時間を設けることになった。

もうね、これが馬鹿ウケ。わかりやすいし面白いし、シスターには先生の才能があったんだろう。

シスターを失った元の世界の奴はざまぁ見ろっての。


そんなシスターの授業の話を聞き付けた街の奥様方、『うちの子も是非!』って言ってどんどん集まり、当然ながら孤児院内の部屋じゃキャパオーバーになった。

じゃあもう専用の学舎を建てるか。ってんで街の旦那方を集めて学舎を一棟建設。土地は余ってたからな。

シスターは決まった曜日に決まった時間割で勉強を教えることを提案。好きにして良いよと神父様。

で、シスターが無双した結果、今では街の『金が無い家の子供』が学べる立派な学舎になりました。


ちなみに、運営費がどうしてもかかるけど、孤児院から出て行った子供達が立派に外で稼いで運営費として幾ばくか還元してるらしい。

そんな子供達の姿に感動して、ますます加速するシスターの気合い。働き過ぎてないか心配で、胃痛がするようになったらしい神父様。

そんなこんなで表向きはシスターだけど真の姿は教育者として走り続けたシスター、そろそろ異世界10年目ですよっと……


俺がシスターと対面したのは多分3年くらい前。

謙虚さと情熱と聡明さと、ある種の狂気を兼ね備えた姉ちゃんだと思ったね。

しかも俺……というかウェイカー商会を利用して、どうにか教育の場をもっと確固たる物にしようという圧がエグい。

方針としてはあってるかもしれないが圧が強過ぎて母ちゃんですらちょっと気圧されるほど。そんなの初めて見たわ、俺。




「えーと……とりあえず明後日家庭教師が来るからさぁ、母ちゃんにアレンも同席させて良いか聞いてみるわ……」

「うん!ありがとうモブル!」

「流石よモブル坊ちゃん!」


いや、おかしくない?

アレンが使ってる問題集さっき見たけど、明らかにそこら辺の8歳の学力じゃねーよ?

解くのも速い、全問正解、おまけにシスターが悪戯に仕込んだ難問も解いて来る化け物ぶり。しかもその難問に対して感想すら無い。


やっぱお前異世界転生者じゃね??

『歳に見合わない異常な学力を持ってたら、前世が大人でその時の記憶を持ったまま転生してるタイプの奴』ってウチの執事長(ギリッギリひぃひぃ爺ちゃんのことを知っている超爺。)が言ってた。

いや、異常な学力を持ってる奴は本当にごく稀に居る。

だけど、そういう奴は大抵どこかで年相応というか逆に年齢よりも明らかに下の振る舞いというか、そういう部分を見せて来る。

アレンにはそれが一切無い。完璧超人なんだ。


「良かったわねアレン君、家庭教師さんにも熱意を見せるのよ!きっとアレン君の凄さを認めてくれるから!」

「はい!頑張りますシスター!」


窓の外を見るとガキ共がボール遊びをしている。そうそう、あれが子供のあるべき姿だろ。


「アレン、シスターに気圧されてんなら無理すんなよ。圧が強すぎるんだからこの人。」

「無理?無理なんてしてないよ!明後日すっごく楽しみ!」


ニコニコと笑うアレン。


「……なぁお前さ、」

「うん?なぁに?」




「お前、異べぇっ!!」




俺の顔面を襲う衝撃。


「やべ。悪いモブル!」

「あ、こら!建物に向かってボールを蹴らないってあれほど言ってるでしょうに!」


シスターの怒る声から察するに、開いていた窓からクソガキの蹴ったボールが飛んで来たんだろう。


「……上等だコラァ!モブル様のボール捌きを見せてやらぁぁぁ!!」

「うわ、モブルがキレたー!」


ボールを拾い上げて窓から外へ出る。

貴様ら、このモブル様のビューティホーフェイスに傷を付けたことを後悔しなァ!!


「あ、ほらアレン君!今日の勉強はお終い!皆とボールで遊んで来なさい!」

「え!?あ、はい!待ってモブル!僕もー!」

「コラ!窓から出ない!!」


俺を追って窓から出て来るアレンは、少し年相応に見えたと思う。



その後、ボール遊びでも無双するアレンにますます疑惑が深まりましたとさ。





シスターは日本で小学校教師をしていた女性です。

過労と同僚からのセクハラ、パワハラで限界だった頃にポックリと。


異世界に来てしばらくしてから思ったことは、『こういうのって普通健康な身体になって転生するもんじゃないの……?』だそうです。

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