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5・裏:

「これは……」

「招待状でございます」


ある日、お爺さん執事から渡された封筒。

封蝋を見てみると……これは、確か。


「これって、王家の紋章だったような……」


執事さんを見るとスッと頭を下げる。


「ご存知だったようで何よりでございます」


そ、そうだよね!

ってことは……ついに王子との邂逅イベントだ!






「き、緊張する……」


物語の展開はわかっているけど、やっぱり緊張する……

呼び出されたのは、学園内で1番豪華なゲストルーム。

アドルス王子に『一度話がしてみたい』と言われてここに来ているわけだけど。


「ア、アレン、同行者は本当に俺で良かったのか……!?」


僕以上に緊張しているエヴァンは、つついたら倒れてしまいそう。

『同行者を連れて来ても良い』って書いてあったから……エヴァンを連れて来てみたけど。他に連れて来られる貴族も居ないしね……


「ぼ、僕だけだと流石に……何か失礼なことしたら止めてくれる!?」

「それは止めるが!」


扉の前でわちゃわちゃしていると、扉が静かに開いた。


「どうぞ此方へ」


招待状を届けてくれた執事さんだった。気配がしないし、動作が全部静かだ。


「ひゃえ、」

「さ、騒がしくしてすまない。アレン、行くぞ」


執事さんに一言詫びを入れて軽く咳払いし、エヴァンはネクタイを締め直した。

わぁ、流石は貴族。こういう場は慣れてる……


「招待されたのはお前だ、お前から入るのが礼儀だろう」

「そ、そうか、そうだよね!」

「大声を張り上げる必要は無いが、聞き取れる明瞭な声で御挨拶を」

「はいっ!」


大丈夫、この部屋の中に居る人は、僕の友達になる人だ。

深呼吸をして、部屋に足を踏み入れた。




「やぁ。君が『妖精の寵愛を受けし子』、アレンだね」


とても広い部屋には、重そうで高価そうなテーブルが置いてある。

そのテーブルの1番奥の席についているのが……この国の第2王子、アドルス・ガラハッド・フォン・クラリオン。

王家特有の銀色の髪に、深い青の瞳。


「は、はい!アレンと言います!ご招待いただき、ありがとうございます!」


独特の雰囲気というか、迫力に気圧されて深々と頭を下げてしまった。


「そんなに畏まらないでくれ。君と話がしてみたくて、此方が一方的に招待したのだから」


クスクスと笑い声が聞こえるけど、頭を上げられない。


「おや、そちらは?」


そちら、と言うのは……恐らくエヴァンのことだろう。


「え、と」

「ハルフィード伯爵家長男、エヴァン・ロナルド・ハルフィードでございます、第2王子殿下!」


僕から紹介しようかと思ったけど、声が上手く出なかった。

少し緊張している声だけど、ハキハキと名乗ることが出来るエヴァンは流石と言うべきか。


「ハルフィード……王宮騎士団の第2部隊隊長は、貴殿の血縁かな?」

「ハ!叔父上でございます!」

「あぁ、そうだったか」


王宮騎士団の第2部隊……って、何だったっけ。聞いたことあるぞ……


「第1部隊は王都全体の守備を、第2部隊は王宮内の守備を担当するだろう?第2部隊隊長には、剣の稽古を付けてもらっているんだ。いつも世話になっている」

「恐縮でございます!」

「そうだ、確かに私と同じ歳の子が居ると聞いたな……貴殿だったか。会えて嬉しいよ」

「あ……有り難き幸せにございます!」


良かった、物語の描写だと誰を連れて来てるのか明確にはわからなかったから……エヴァンで正解だったみたいだ。


「さぁ、いつまでも頭を下げていないで。美味いと噂になっている茶を用意したんだ、飲みながら話をしよう」

「は、はい!」

「ハッ!」


執事に促されるまま、僕とエヴァンは椅子に座った。






「なるほど、そんなことが…」


王子が興味津々だったのは、やっぱり妖精女王の話だった。

ぜーんぶ詳細に話しても胡散臭いかな、と思って要所要所をぼかして伝える。


「『妖精女王の湖』なんて、本当にあるものなのだな。御伽話かと思っていたぞ」

「ぼ、僕も半信半疑で……見つけた時は本当に驚きました。この世の物とは思えないほど、綺麗な場所で……」

「見てみたいものだ」

「選ばれし者が行くことのできる湖……妖精は武力を好まないと聞きます、私は……嫌われるでしょうか?」


エヴァンが自嘲するように言う。


「そうかなぁ?武器庫とか結構居るよ?」

「何!?そうなのか!?」

「人間の作る物に興味があるみたい」

「成る程……母上がな、以前髪飾りを無くしてしまったのだ。銀細工の美しい飾りだったそうなのだが」

「王妃様の髪飾りが?」

「アレンの話を聞いて、もしや妖精が……と思ってしまったよ」

「あはは……有り得るかと……」


妖精は本当に好奇心旺盛だ。人間が作る料理や工芸品は特に好きで、度々こっそり拝借している。


「アレン、君は妖精女王の加護をどのように使いたいんだ?」

「え、」

「その力を使って、何か偉業を成し遂げたいかな?」


これは知ってるぞ!物語の中にも王子との問答があったからね!


「偉業…いいえ、僕はそんな大きな事を成し遂げられるような……そんな人間ではありません」


間違えるな。間違えたらどうなるかわからない。落ち着け。


「ただ……僕の手が届く人のことは、妖精のことは、助けたい。幸せにしたい。そう、思います」

「ほう?」

「な、何が出来るのか、学園内で沢山の人と出会って、沢山知識を付けて、模索したいと思います」


よし!なかなか上手く言えたと思う!


「うん、話によると同年代の人間とこんなに交流するのも初めてなのだろう?」


あれ、王子の返答はそんな言葉だったっけ?


「そ……」


その時、扉がノックされる音がした。


「失礼いたしますわ、殿下」


涼やかな声と共に女生徒が入って来る。

金色の髪をなびかせる、綺麗な人。

流石、女子の方がより貴族らしいというか、煌びやかだよね。


「せっかくの殿下からのお誘いですのに、遅れて申し訳ございません」

「構わないさ、大規模なサロンを企画しているのだとか?」

「ふふ……男子禁制ですから、殿下はお誘いしなくってよ?」


王子と親しげに話すこの子は誰だろう……と思っていたら、エヴァンに腕を掴まれて無理やり立たされた。


「御機嫌麗しゅうございます、ノルマン公爵令嬢!」


ついでに頭も下げさせられる。


「御機嫌よう。どちら様だったかしら?」

「あぁ、ハルフィード伯爵家長男のエヴァン・ハルフィードだ。そして、手前が……噂の、アレンだよ」

「は、初めまして、アレンです!」


ノルマン公爵令嬢。

その名前は覚えがあるぞ。確か……確か……!


「あら、初めまして。ノルマン公爵家が娘、レイチェル・ノルマンです」


そう。レイチェル。


『アレン』の婚約者になる人だ……!


「せっかくのお茶が冷めてしまいますわ、どうぞお顔を上げてくださいな。私もお仲間に入れてくださいませ」


レイチェルはそう言いながら席に着く。

これは……ど、どうやって話を進めれば良いんだ!?


「え、と……な、なんてお呼びしたら……ノルマン公爵令嬢?」


頭を上げて、僕(と、エヴァン)も席に着く。


「ご随意にどうぞ、アレン様?」

「あ、いや、僕は全然様付けは……」

「うふふ、ではアレンさん?」


物語の中のレイチェルは、所謂『お姫様』という人だった。

金髪の巻き髪が特徴の、可愛らしい人。

でも何と言うか、この人は……強そう!顔は可愛いけど!


「あら殿下、ザイフリートは?」

「呼ぶわけが無いだろう。来ないだろうし」


え、ここからどうやってこの子が僕の婚約者に……王子とすごく仲が良さそうだけど……ザイフリート?ザイフリートって誰だったかな……


「あ、ねぇ、エヴァンって婚約者って居るの?」

「ぐっ……!」


僕の小声の問いかけに、エヴァンはお茶を吹き出しかけて、ギリギリで耐えた。


「いきなり何だ貴様!?」

「いや、貴族って何か子供の頃から婚約者が居たりするイメージだから!急に気になっちゃって!」

「おや、内緒話が盛り上がっているね?」

「いいえ、何もございません殿下!」


エヴァンは取り繕うように言い、ついでに僕の肩を殴る。痛い。


その後もお茶会は進み……

王子は結構お茶目、というかやんちゃなこと。

レイチェルは王子の幼馴染であるということ。

もう1人、公爵家の幼馴染が居るけど、仲がどうにも悪いこと。

などを聞いた。


「妖精について、是非また話を聞かせてくれ」

「は、はい!」


そんな話を王子と交わして、お茶会は終わった。






お茶会から数日後の、とある放課後。


「こら!」

『アレン、怒った?』

「怒るよ!それ、どう見ても誰かから盗ったでしょ!?」


キラキラした何かを持った妖精を捕まえた。


『これ、綺麗。大事されてる』

「大事にされてる物なら尚更盗っちゃ駄目なの!」


妖精からキラキラした何かを奪い取ると、ペンダントのようだった。

えーと、何ていうんだっけ。蓋が開いて写真とかが入るような……あ、ロケットか。

金色の、細工がとても綺麗なロケットだった。


「どこから持って来たの!」

『アっち』


妖精は反省してるのか、はたまたぶーたれてるのかわからないが、一応素直にとある方向を指差す。


「返しに行くよ!」


これが何か盗難事件になってしまったら大変なことになる。

騒ぎになる前に返しに行こう。




『アイツ持ってた』

「えーと……」


学園内の広大な庭の一角。

大きな木の下で誰かが寝っ転がっている。

こ、このシーンは知ってるぞ。まさか…!


「あれって……ジークフリート!?」


アレンのもう1人の親友になる生徒、ジークフリートとの初対面シーンだ!


ジークフリートの出自は少しややこしい。

公爵家の次男……というか双子の弟として生まれた彼は、跡取りが生まれなかった親戚(侯爵家だったかな?)に、養子に引き取られる。

でも、その後奇跡的に跡取りが生まれて……ジークフリートは居場所を無くして、すっかりグレてしまう。

で、グレてる状態で学園に入学するんだ。


つまり、あそこで寝転がっているジークフリートはグレてるジークフリートってわけ。

そんな人にどうやってこのロケットを返せば良いの……!?

ええと、ここは誤魔化しても仕方ない気がする。ここは……素直に……!




「ごめんなさい!!」

「……は?」


開口一番に謝った僕に、ジークフリートは怪訝そうな声を出した。

銀髪は……つまり、ジークフリートは『王家の遠縁』であることを示している。

確か、ジークフリートの生家が王家の分家?みたいな感じだっけ?

王位を継がなかった人が公爵の爵位を貰って、出来上がったのがジークフリートの生家……だったかな。

適当に伸ばしたような銀髪、角度によっては赤に見える茶色の目。

整った顔立ちは、すごく険しい表情を浮かべている。


「ごめんなさい!これ、貴方のらしいんだけど、妖精が勝手に取っちゃったみたいなんです!ごめんなさい!」


とにかく頭を下げて、ロケットを差し出す。


「!それは……!」


ジークフリートはポケットを探すと、僕の持っているロケットが自分の物だと確信したらしい。

僕の手からロケットを乱暴に取り、ギラリと睨んできた。


「お前!これを俺からどうやって盗った!?」

「よ、妖精がぁ……!」

「妖精?妖精が何だ?妖精に盗らせたとでも!?」

「僕の指示ではなくてぇ……!」


こ、これどうやって収めるんだろう!?

物語の中だと『落とし物を拾ってあげたので、学年1の乱暴者と仲良くなりました』としか書いてなかったような……!


「お前……そうかお前が噂になってる『妖精の加護持ち』か……」


ジークフリートは僕を嘲笑して続ける。


「やはり平民は平民だな。金目の物には手が出るか?」

「違っ……!誓って!僕の指示では無いです!」

「では何故俺の所持品をお前が持っている!何のために!?」

「よ……妖精は高価そうなものに興味を持つんじゃなくて!『大切にされている物』に興味を持つんです!」


どう説明しても怒らせそうだが、説明する努力はしよう。黙っていても、ただただ謝っていても、何も伝わらないだろう。


「君の、そのロケット!すごく大事にしてるんでしょ!?妖精はそういうのに敏感なんだ!どんなに高価で美しい物でも、人の手に触れずに飾られてるような物には興味無い!人の手で、大切に手入れされて、特別な思い入れのある物、そういうのに興味を持つんだ!」

「何……?」

「でも!だからこそ!急に無くなったらつらいのはわかる!妖精のせいだって言われても、受け入れられないのもわかる!」


妖精は『人間が大事にしている物』はわかる。

ただ、『それを失った時の悲しみ』までは想像すらしていないだろう。だから勝手に盗ってしまう。悪気無く『素敵な物だから』という理由で。


「だから、僕は妖精が人から何か盗ってたら!返しに行くようにしてるんです!無くしたら絶対に悲しいから!」


大事な物を隠されたり、壊されたりする悲しみはわかるつもりだ。

僕は、それが妖精の仕業じゃなくて、人間の仕業だったけど。


「お前……大層な考えだな。妖精と会話が出来るなら、躾の努力でもしたらどうだ?」

「しつ……!?……人間の勝手で支配出来るような相手じゃないよ!」


ジークフリートの眼光に負けないように、僕も見返す。


「僕に出来ることは、妖精が何か盗ってたらその都度取り返して!元の持ち主に返しに行って!謝ること!それしか出来ない!」

「な……」

『アレン』

「今度は何!!」


あ、しまった。普通に妖精に向かって声を出してしまった。

視界の端でジークフリートが、あらぬ方向に大声を出す僕のことを奇異の目で見ている。

ついでに僕に大声を出された妖精は……びっくりして泣き出してしまった。


『ゴメンネ、アレン』

「謝るならこっち!持ち主に謝るの!」

『ゴメン』


シクシクと泣きながら、妖精はジークフリートの額にキスをした。

勿論、ジークフリートに妖精は見えていないのだけど。


『アレン、これ、離したくない。この人間ついてく』

「え」


間抜けな声を出す僕をよそに、妖精がジークフリートの髪にしがみついた。


「お……おい、気でも狂ったか……?」


ジークフリートは引き気味に聞いて来る。


「あ、えーと、あの、ロケットを盗っちゃった妖精が……よっぽどそれを気に入っちゃったらしくて、君について行くって……」

「は?」


先程までの迫力はどこへやら、ジークフリートも間抜けな声を出した。


「えーと……この子は光の妖精だね」


そうだ。物語でジークフリートは『光の加護』を持つ戦士として描かれている。

アレンとの交流で光の妖精に気に入られて……という話だったけど、ここだったんだ!


「お、お前、何を言ってるんだ……」

「えーとね、たまにあるの……どうしても気に入った物を返さないといけない時、離れるのが嫌で人間について行くこと」

「はぁ!?」

「多分、そのロケットを触媒にして光の妖精の力が使えるようになると思う……慣れて来るとたまに姿も見えるかも」

「……頭が痛くなってきた!」


ジークフリートはぐしゃぐしゃと前髪をかき上げる。

そりゃあ、姿は見えないけど存在すると言われている物が、急に「君について行くらしいって言ってる」と言われても……困るかな。


「それって、大切な物なんでしょう?誰かから貰ったとか?」


確か……誰かの形見、という設定だったような気がする。


「黙れ。誰が教えるか」


ジークフリートは諦めるように吐き捨てると、立ち上げった。


「もう良い、コレについては不問にしてやる……」


ジークフリートはロケットを上着の内ポケットにしまい込んだ。

ついでに妖精は上着のポケットにすっぽりと収まる。


「精々、『妖精を利用する屑』などと揶揄されないようにしておけ」

「う、うん……でも、君はそんな噂流さないでしょ?」

「そんなくだらん噂を流すほど、俺は暇じゃない」


ジークフリートは僕に背中を向けて、学生寮の方角に歩き始めた。

うーん……あんまり仲良くなれなかった気がするんだけど。

これから親友になれるのかなぁ?



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