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順一少年の名残

 年の瀬も近付いてきて、教室は冬休み前の浮き立つ空気で膨れている。子供達の話題はクリスマスプレゼントに何を貰うかとか、冬休みはどこに出かけるかとか、休み時間だけでなく、授業中にわたしが隙を見せるとすぐにひそひそ話が始まる。


 2学期の終業式を明日に控えて、今日は大掃除だ。いつもの掃除は15分だが、特別に45分間で普段は手の届かない隅まで子供達と一緒に掃除をするのだ。綿棒を持参して、窓のさんをきれいにする子。机や椅子の脚について固まった埃を爪楊枝で取り去る子。棚の上に備え付けられたテレビモニターの後ろにたまった埃を水ぶきしている子。


 普段は黒板けしできれいにするだけの黒板も今日は水ぶきでわずかなチョークも消し去るとこにしている。黒板の担当になった女の子が何やらにこにこしながらわたしに話しかけてくる。


「どうしたの?」


「せんせー、わたし見つけちゃったの」得意げに、そしてどこかいたずらっ子っぽい笑みを浮かべている。


「はなちゃん、一体何を見つけちゃったの?」わたしも楽しくなって笑いをこらえながら彼女に応じる。


「誰かが落書きを隠していたの」


「えー?」わたしは目を丸くする。彼女の笑みは黒板のどこかに落書きが隠されて残っていたのを発見したと得意げになっていた笑みだったのだ。


「どこどこ?」


はながわたしの袖をつまんで黒板の端に連れて行く。


「これ!」


 はなが勢い良く12月の「月」のマグネットを捲ると、そこには男の子の顔のイラストが描いてある。マグネットの下で多少時間の経ったであろうその男の子は、ほっそりとした面長の輪郭におかっぱの髪型をしてにこやかにわたしを見ている。


「せんせー、これ誰が描いたんだろうね?」


「本当ね。でも、これ誰かに似てない? 誰かの似顔絵じゃないかしら?」


「えー?」


今度は、はなが目を丸くして考える。


「でも、うちのクラスにはこんな感じの男子はいないよー」

「たしかに、そうね」

わたしも少し考えて自分の考えを打ち消した。誰にも似ていない。

「せんせー、消しちゃうよ」

「お願いしまーす。大掃除だから」

「後で描いた人に、消したわたしが叱られたら、先生わたしを守ってよね」

はなが笑いながらそう言って、濡れた雑巾で黒板を拭いた。わたしははなが男の子の絵を消すのを見ながら、一体誰がそんなものを描いたのか不思議に思ったが思い当たることは、何も浮かばなかった。



                   つづく

                  


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