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怒りを放つ

―次はどんな箱だろうね。

「えっ? あなたも知らないの?」

わたしは思わず声を上げていた。

―うん。もちろん知らないよ。だって、ここは霞さんの心の中だもの。

そういって少年は柔らかに笑った。ここまできて霞は、自分が年端の行かぬ傍らの少年に心を許し頼っている自分を感じた。

白い靄の中を少し行くと細長い筒状の箱のようなものが見えてきた。金色の装飾が施されているが、下のほうが黒くくすんでいる。こちらの方まで温かい温度が空気を伝って感じられた。その箱はストーブのように熱を発しているようだ。

「あっつい……」

―うん。この箱自体がとても熱くなっているんだろうね。

―箱の蓋をつまめるかしら。

そう思う霞をよそに、少年はどこからともなく、トングのようなものを持ってきて、霞に手渡した。

―あなた、いつの間に?

―必要な物は、勝手に用意されるみたいだね。ここは。少年は再び柔和な笑顔を見せる。

霞はその心細いほどに小さなトングを使って、蓋についた取っ手を掴み上げた。すると中から熱い空気が、出口を見つけたようにして飛び出してきた。

「熱い!」霞は驚いて顔を背ける。

―きっと、怒りの感情に包まれている何かがこの箱に入っているんだろうね。

霞はその黒い包みのようなものを手にとって見た。熱いと感じたのは幻想だったのか、はたまた本当か。両手にしてみても、熱いはずのものが、手にもてるのである。

―それは、きっと霞さん自身の熱さだからもてるんだよ。

「私自身のものだから・・・・・・」そう聞き返しながら、わたしには彼の言うことが妙に腑に落ちた。

自分はこんなにも熱く感じられるほどの怒りを身体の中にしたためていたのか。そのことが信じられなかった。

 怒り。

 自分には縁のないものかとも思っていたからだ。

 熱さは手を伝ってわたしの中に入り込んでくる。知らぬ間に目からは涙が流れている。やり場のない熱さが胸を破りそうになる。わたしの胸だけに収まらない何かは、身体中に行き場を探すように隅々にまで勢い凄まじく流れる。自分の心も身体も壊れてしまいそう。わたしは、どうしようもなく足踏みをして、地面を何度も踏みつける。

「ちくしょー」

少年を睨みつける。

「どうしたらいいの!」

叫びにも似た声で少年に救いを求めた。

―さあ、それも空に上げてしまおうよ。

わたしは、微かな重みを感じさせる黒く熱を帯びたものを中空目掛けて思い切り放り上げた。

どれくらいの間だっただろうか?それは一塊の形を保っていたが、しばらくすると黒い蒸気のようになって空にちりちりばらばらに拡がりながら昇っていき、やがて見えなくなった。

 気がつくとわたしは少年の手を握って立っていた。



                 つづく


               


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