表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

箱の中

 私はいつの頃からか、朝の通勤の時間が嫌いではなくなってきた。席を探せば座れないこともない。しかし、ドアの側に立って、流れる景色を見ているのが、ルーティンになっている。野菜が日々畑の上で生長していく様を確かめるのが楽しみの一つになっている。

 

「一緒にわたしの心の中に入るの?」

―そう。霞さんの。あくまでものの例え。

「どうゆーこと?」

 おぼろげになりつつある少年との出来事の記憶が、小さな水溜りの底から水が湧き出てくるように音もなく浮き上がってきた。


頑丈そうな立方体の箱が見える。真鋳か何か。とても固くて重そうだ。それには蓋がしてある。

「重い。とても一人では持ち上げられそうにないわ」

―一緒にやってもいい?

「お願い」

―せーの。

その蓋は擦れる音を響かせながら開いた。中に黒い塊が見える。

―それは、霞さんの恐れ

「わたしの恐れ」

―まずは、それを外に出してみて

「また手伝ってくれる?」

―今度は一人でやった方がいい。

そう言われて私は戸惑った。改めてその黒い塊をじっと見つめる。

「分かった。やってみる」

―がんばって。

手触りは無いに等しい。初めての感触だった。重みは微かに手に感じられる程度だ。

―そう。

私は安心したくて少年を見る。彼は微笑んで頷く。

―外に出してみて。

私は言うままに、両手でそれを拾い上げる。

―そう。

「次にこれをどうしたらいいの?」

―そのまま空に放り投げるようにしてみて。少年はパントマイムのように、何かを頭の上に放り投げる真似をする。

私はそれを頭上に放り投げた。

―そう。それでいいよ。

少年は声を上げて笑った。手を叩いて喜んでいる。私は少年の気持ちについてゆけないで、少年には反応できずに、自分が放り投げた物を、空に浮ぶ雲を見上げるように見てみる。

黒いそれは、無色透明の空気に水玉のようにばらばらになりながらシャボン玉が上がっていくように高く上がっていく。

「うわぁ」思わず声が出た。


                  つづく


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ