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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【ホラー 怪異以外】

善人ばかりのオークション

作者: 小雨川蛙

 

 一般人は存在すら知らないとあるオークションがあった。

 参加することの条件は幾つもあるが、最も大切且つ重視されるのは『善人』であること。

 ただそれだけが求められる。

 それだけがあれば良いのだ。


 さて、今宵もそのオークション会場は沸き立っていた。

「皆さま!」

 とあるオークション会場の司会者が大声を張り上げて言う。

「長い間お待たせしました! こちらが本日のお品物になります!」

 その言葉と共に全裸のまま全身を鎖で縛られた男が粗末な台車に乗せられて運ばれてきた。

 屈強な男だった。

 晒された肌には数えきれないほどの傷が存在しており、見るのも痛々しいほどだった。

 しかし、それでも男は問題なく生きており、今この瞬間にもオークション会場に集まった者達を目を見開いて睨みつけている。

 その口にはきつく猿轡をされており、それ故に彼は何も言うことは出来ない。

「おぉ、恐ろしい。これが人間の瞳でしょうか。私には人間には全く思えません」

 そう言って司会者が男を茶化すとそのまま淡々と品物の説明に移る。

 集まった者達はその説明を聞いて時には感嘆の声を漏らし、時には歓喜の声をあげ、そして時には侮蔑の声を送った。

 そして、その度に司会者は行儀良く反応をし、同時に集まった者達にこの商品が如何に素晴らしいものであるかを説いていた。

 やがて、説明が終わった。

「では、まず100から!」

 快活な声で司会者が叫び、待ってましたとばかりに参加者たちは次々に値段を吊り上げていく。

 その様を縛られた男は憎悪の目で見つめていたが、最早、誰もそのようなことは気にもしない。

 やがて、一人の老婦人の挙げた額を最後に値段の吊り上げは終わった。

「他にいませんか? よろしいですか? はい! では、決定です!」

 拍手を受けて老婦人は立ち上がり、そのまま舞台場と足を運んで司会者の前へとやって来た。

「おめでとうございます。これで権利はあなたのものです」

「本当に嬉しいわ。もう何回も参加しているんですもの」

 その言葉を聞いて他の参加者たちから祝福の声が上がる。

 思わず心が安堵してしまうような穏やかな笑みを老婦人は皆に向けて片手をひらひらと振っていた。

 そうしている内に司会者は小切手を彼女に差し出す。

 それを受けて老婦人は先ほど自分が宣言した額を丁寧な文字で書きこんだ。

「ありがとうございます。事前に約束しましたようにこのお金は孤児院へと寄付されます」

 司会者が深々と頭を下げ、その直後に会場に割れんばかりの拍手が響いた。

 そう。

 このオークションで支払われるお金は全て寄付に充てられるのだ。

 参加者からしたらこんなにも心地良いオークションも少ないだろう。

 何せ、自分の目的を果たしつつ他者を救うことが出来るのだから。

 ひとしきり拍手が終わった後、司会者が切り出す。

「さて。事前にいただきましたアンケートでは皮剥ぎと書かれていましたが」

「ええ。体の右腕から始めてほしいの。それで、出来たゴミを当人に食べさせるの」

 人々から感嘆の声があがり、同時に縛られていた男の顔が青くなる。

「食べなかったらどうしますか?」

「体に熱した鉄を当ててちょうだい。そうすれば叫び声をあげるでしょうし、その瞬間に口に放り込んでくださいな」

「必死に耐えて口を閉じ切っていたなら?」

「左頬を切り抜いてそこから入れてくださる? 私、人間が自分の体を食べるところをどうしても見てみたいの」

 オークションの品を買えたのは老婦人だがそれを楽しむ権利は皆にあるのだ。

「そのあとは出来る限り……そうね、可能な限り長く生かしてほしい。せっかくだから、お医者さんも連れて実験もしてほしいわ」

 つらつらと上がっていく自分に行われる非人道的行為を聞いて男は遂に暴れだした。

 しかし、鎖に絡んだ体はギシギシと僅かに動くばかりで、猿轡を強くかまされた口からは隙間からよだれと微かな息が漏れるだけだった。

「それから、えーっと……ごめんなさい。私には思いつかないわ。せっかくだから皆さんもご一緒に考えてくださる?」

 老婦人の言葉にスタンディングオベーションが起こる。

 にこやかに続く老婦人の注文の傍らに先ほど司会者が読み上げた商品の説明書が落ちていた。

 そこには、これから悲惨な末路を遂げる男が犯した数えきれないほどの残酷な罪の内容と被害者の末路がつらつらと書き連ねられていた。

 その内容を読めば誰もが思うだろう。

 出来る限り苦しんで死ぬべきだ、と。

 ここに集まった者達は皆、疑いようもないほどに善人で、だからこそ何よりも悪人を憎んでいた。

 故に彼らは悪人を出来る限り苦しめて殺すことに躊躇わない。

 繰り返しになるが、彼らは皆『善人』なのだから。


 必死に抵抗する男の横で善人たちが悪戯を計画するような無邪気さで、男に何をするかの話し合いはまだまだ続いており、むしろ勢いづいているほどだった。

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