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神の来訪

作者: 雉白書屋

 ある晩、自分の部屋で眠っていた男はむくりと体を起こした。

 自分が今、なぜそうしたのか自分でもわからない。寝惚けた目とぼんやりとした頭。しかし、何度も瞬きを繰り返すうちに、その理由が自然と分かった。そして、眠ってなどいられないのも当然だと思い、笑いそうになったが、込み上げる緊張感に口を強く結んだ。

 彼の目の前には眩い光を纏った老人が座っていたのだ。


「神様……?」


 彼はまだうまく回らない舌でそう訊ねた。それもまた神の力なのだろうか、溢れる威厳を前に、それ以外の何物でもないと思えた。

 その老人は彼の問いに対し、ニッコリと笑って頷いた。

 彼は驚きと喜びのあまり飛び上がりそうになったが、それを必死で抑え、そして、ハッと気づくと慌てて正座し、唾を飲んだ。

 話を聞く準備ができたようだなと神が軽く頷き、口を開いた。


「……よし。では、どんな質問でも一つだけ答えてやろう。お前がこれまで抱えてきた疑問。謎。なんでも教えてやる。特別だぞ」

 

 彼は息を呑んだ。神が何でも答えてくれるというのだ。こんなチャンス、人生に一度あるかどうか。

 しかし、いきなり訊かれても、思いつかない。何かないか? 人はなぜ生き、死ぬのか。人生の目的とは何か。幸福になる方法とは。天国地獄の存在。地球の誕生、宇宙の始まり。彼の脳内はそれと繋がる眼がぐるぐると回るほど思考が激しく渦巻いていた。


「ほら、早く質問しなさい。早く」


 神に急かされ、彼は「あっ、あっ、あ、あっ」と口を開け舌を出すが言葉までは出てこない。

 そもそも神とは地球の神か宇宙の神か。何でもと言うが、どこまで答えられるのか。神がいるのなら聞くまでもなく天国や地獄は存在するということか。イエスキリストは実在したのか。恐竜が滅びたのはなぜか。徳川埋蔵金はどこにありますか? 三億円事件の真相は? 宝くじはいつどこで買えば大当たりしますか? もっと他にないだろうか。質問、質問質問。たった一つ、一つだけ。一つ一つ…………。


「早く、早く。三、二、一」


「あ、あ、あ、あ、あ」


 追い込まれた彼は、ついに質問をした。それは果実が潰れ、ピュッと飛び出た汁のように突発的かつ矮小だと、言い終わったあと自分でも思ったほど、ささやかなものだった。しかし、その質問をしたのは神と相対し最初に浮かんだ疑問だったからなのかもしれない。


「あ、あの、なんで、僕のところにお越しになられたのでしょうか……?」


 神はニッコリと笑って答えた。


「それが、お前の最期の質問になるからだ」

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