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第9話:地獄の様な日々をただ堪えていた~グレイソン視点~

 “グレイソンは本当に賢いな。この分だと、私よりもずっと立派な侯爵になるかもしれない”


 “本当ね。私達の可愛いグレイソン。ずっと笑顔でいてね”


 僕は侯爵家の嫡男として、両親の愛情を一身に受け、幸せな日々を送っていた。毎日が幸せで、この幸せがずっと続くと思っていた。でもそんなある日、両親は不慮の事故でこの世を去ってしまったのだ。


 優しかった両親を失った僕は、ショックで食事も喉を通らない程落ち込んだ。当時7歳だった僕は、侯爵家を継ぐことは出来ない。その為、侯爵家は残念ながら取り潰しになってしまったのだ。


 さらに7歳の僕を誰が引き取るかで、親戚中が揉めていた。既に父方も母方も祖父母は他界していた。父上の姉に当たる伯母上の元にいくか、母上の弟でもある叔父上の元にいくかなのだが、2人とも僕を引き取りたくないと猛烈に喧嘩をしていたのだ。


 ただ、僕に莫大な遺産が託された事を知った叔父上が、僕を引き取る事で話は纏まったのだ。


 ただ…


「いいか、お前は居候の身だ。絶対に部屋から出るなよ。それから、私に迷惑をかけるなよ」


 そう言われたのだ。それでも最初は一緒に食事をしていた。ただ、僕がフォークを落としたりすると、殴る蹴るの暴行を加えられるのだ。痛くて泣くと


「ビービー泣くな。目障りだ」


 そう言って鞭を取り出し、打たれる事もあった。さらに従兄弟達からも


「疫病神のグレイソン。お前のせいで、両親は死んだのだろ。見ているだけで、虫唾が走る。あっちにいけよ」


 そう言って殴られたり蹴られたりしたのだ。どうして僕がこんな目に合わないといけないのだろう。


 さらにどんどん暴力は悪化していき、次第に食事も別々。固いパンと少しのスープしか与えられなくなった。部屋から出る事も禁止され、毎日暗い部屋で過ごす日々。


 使用人すら付けてもらえない。日に日に僕の扱いは酷くなり、食事すら数日に1度のペースでしか与えられなくなってしまった。


 仕方なく部屋から出て、厨房に忍び込み、食糧を調達していたのだが、見つかると酷い暴力を振るわれるのだ。まさに命がけの食料調達。


 そんな日々が3年続いたある日


 この日も食料調達に失敗し、酷い暴力を受けた。


 どうして僕は、生きているのだろう。いっその事、このままずっと食事をしなければ、大好きな両親の元にいけるのかもしれない。そうだ、こんな暗くて狭い部屋に閉じ込められ、感情も取り上げられ、ただ生かされているだけの僕は、このまま生きている意味なんてない。


 その日から僕は、全てを諦め与えられた分だけの食事をする事にしたのだ。どんどん衰弱し、意識がもうろうとしてきた。やっと両親の元にいける。そう思っていた時だった。


「おい、今すぐグレイソンに食事を与えろ。それから、体を磨き上げて、綺麗な服を着せるんだ。いいな、後3日間で、ある程度の人間に仕上げろ。分かったな」


 何を思ったのか、急に叔父上が使用人を連れ、僕の部屋へとやって来たのだ。そして僕の傷の手当をした後、体を綺麗に洗われた。さらに僕の目の前には、今まで与えられてこなかったご馳走が並んだのだ。


 ただ、ほとんど食事をしてこなかった僕は、さすがに胃が受け付けない。その為、食べやすい果物が少しずつ与えられたのだ。一体何が起こったんだ?


 よくわからないが、僕はその後3日間、使用人たちから手厚い看護を受けながら、人並み程度の食事がとれる様になるまで回復した。


 そして3日後。


 立派なスーツを着せられた。一体今から何が始まるのだろう。もしかして、人買いにでも売られるのかな?あの人達ならやりかねない。そう思っていたのだが…


「グレイソン、随分と大きくなって。君のお父さんの子供の頃にそっくりだ」


 優しい瞳をした男性と女性が、僕の前に現れたのだ。


「グレイソン、今日からこの方たちがお前を引き取って下さることになった。ヴァレスティナ公爵、本当にこいつを引き取って頂けるのですか?こいつは本当にろくでなしで、根暗でどうしようもない奴です。はっきり言って、疫病神みたいなものですが」


 どうやら僕はこの男性と女性に引き取られる様だ。次はどんな酷い目に合うのだろう。でも、もうどうでもいいや…


「ガブディオン侯爵、彼を悪く言うのはお止めください。彼は私の大切な親友の忘れ形見です」


 さっきまでの穏やかな表情とは打って変わって、叔父上を怖い顔で睨みつけている。やっぱりこの人も恐ろしい人なのだろう。極力怒らせない様にしないと。


「申し訳ございません。グレイソン、さっさと行け。それじゃあ、達者で暮せよ」


「それじゃあグレイソン、行こうか?」


 僕は彼らに連れられ、馬車に乗り込んだのだった。

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