第81話:グレイソン様に避けられています
その日の夜
「お父様、グレイソン様が、部屋から出ていらっしゃらないのです。夕食もお部屋で、1人で召し上がっていましたし。一体何があったのでしょうか?お父様、様子を見て来てください」
「グレイソンは今まで、部屋に閉じこもる事なんてなかったわ。あなた、グレイソンを見てきて」
お父様が帰ってくるなり、お母様と一緒にお父様にグレイソン様の事を話した。私が何度話しかけても、”1人にして欲しい、僕の事は放っておいて欲しい”と言われてしまうのだ。
今までそんな事は一度もなかった。一体どうしたらいいのだろう…
「2人とも落ち着きなさい。わかったよ、一度私がグレイソンと話をしてみよう」
そう言うと、お父様がグレイソン様の部屋へと向かった。でも…
「今は誰とも話をしたくない様だ。グレイソンも年頃だからな。1人になりたい事もあるのだろう。グレイソンの心が落ち着くまで、そっとしておいてあげよう」
どうやらお父様でもダメな様だ。本人が今はそっとしておいて欲しいと言っているのだから、そっとしておいた方がいいのだろう。でも、私は心配でたまらないのだ。馬車から降りて来た時のグレイソン様、ここに来た時と同じ、絶望に満ちた目をしていた。
1度目の生の時、処刑される前の時と同じ目…どうしてあんな目をしているの?一体グレイソン様の身に、何があったというの?
自室に戻って来たものの、グレイソン様の事が気になって仕方がない。もう一度グレイソン様のお部屋を訪ねてみようかしら?でも、また避けられたら…
ふと1度目の生の時の事を思い出す。あの時もグレイソン様と仲良くなりたくて、色々と話しかけていた。でも、私を避けるグレイソン様を見て、次第に彼に関わる事を止めたのよね。
あの時のグレイソン様と今日のグレイソン様、よく似ているわ。もしかして私、グレイソン様に嫌われてしまったのかしら?
一気に不安に駆られる。
「お嬢様、差し出がましいようですが、お坊ちゃまもお1人になりたい事もあるのでしょう。どうか今は、そっとしておいてあげてはいかがでしょうか?」
私が部屋のドアの前でウロウロとしていためか、アリーが声をかけて来たのだ。頭では分かっている。今はグレイソン様を、1人にしてあげた方がいいのだろう。でも、心が付いていかないのだ。
結局この日は、ろくに眠る事が出来なかった。そして翌日、不安の中部屋からでる。今日はグレイソン様の気持ちが、少しは落ち着いているといいな…
そう思っていたのだが…
「えっ、グレイソン様はもう出かけられたのですか?」
「ああ、使用人の話では、かなり早い時間に出掛けて行ったらしい。どうやら騎士団で朝の稽古に参加した後、学院に向かうらしい」
「そんな、急にどうして?今まで朝の稽古になんて参加していなかったではないですか?」
「グレイソンにも考えがあるのだろう。とにかく、しばらく様子を見よう」
お父様はそう言っていたが、私はなんだか心配でたまらないのだ。まるで私や両親を避けている様な気がする。
この日私は、1人で馬車に乗り込み、学院に向かった。1人で向かう学院は、なんだか物凄く寂しい。いるはずのグレイソン様がいないだけで、こんなにも寂しいだなんて…
学院に着くと、既にグレイソン様が来ていた。アルフレッド様と話をしている様だ。
「グレイソン様、アルフレッド様、おはようございます。グレイソン様、今日はどうして私を置いて行ってしまわれたのですか?」
寂しかったのですよ!とは、さすがに言えない。
「ごめん…ただ、これから僕は騎士団の稽古に出てから行くから、どうかルージュは1人で学院に行って欲しい。アルフレッド、行こう」
「えっ?グレイソン様?」
私の目を一切見ずにそう言うと、アルフレッド様を連れて教室から出て行ってしまった。本当にグレイソン様はどうしてしまったの?
その日のお昼も、グレイソン様は私達とは食べずに、騎士団のメンバーと食事をしていた。
「グレイソン様、急にどうしたのかしら?明らかにルージュを避けていない?ルージュ、グレイソン様と何かあった?」
友人たちも、グレイソン様の様子がおかしい事に気が付いている様だ。
「何もないわ。ただ…なぜか昨日からグレイソン様の様子がおかしいの。もしかして私、嫌われてしまったのかしら?」
グレイソン様の気持ちにすぐに答えなかったから、愛想を付かされてしまったのかしら?それとも、殿下の件で訳の分からない事を言っていたから、気持ち悪がられた?いずれにしろ、グレイソン様から避けられている事は事実だ。
「ルージュ、そんな顔をしないで。きっと何か理由があるのよ。それにグレイソン様が、ルージュを嫌う訳はないわ。彼はあなたの事が、大好きなのですもの」
「そうよ、だから元気を出して」
「ありがとう、皆。そうね、落ち込んでいても仕方がないものね。グレイソン様の気持ちが落ち着くまで、待ってみるわ」
グレイソン様がどうして急に私を避け始めたのか、正直わからない。ただ、本当に私の事を嫌いになってしまったとしたら…そんな不安が、私を襲ったのだった。