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第8話:素敵な笑顔ですよ

「ルージュ、その…」


「何ですか?ぐちぐち言っていないで、ついて来てください」


 本当に世話の焼ける人ね。外ぐらい、好きなだけ1人で行ったらいいのに…て言いたいところだが、私には想像もできない程の深い傷とトラウマを負っているのだろう。それにあの瞳を思い出すと、どうしても世話を焼かずにはいられないのだ。


 私達が向かったのは、中庭だ。綺麗な花を見れば、きっと心も少しは癒されるだろう。そう思ったのだ。


「グレイソン様、ここは中庭です。どうですか?とても綺麗な花が沢山咲いているでしょう。見て下さい、このお花。キンシバイというお花なのですが、私が大好きなお花なのです。この温かみのある黄色のお花、とても綺麗でしょう?」


 私はお花の中で、キンシバイが一番好きなのだ。花自体は小さいが、綺麗な黄色い花を見ていると、なんだか幸せな気持ちになれる。


 ただ、私の問いかけに全く反応をしないグレイソン様。この人、お花はあまり興味がなかったのかしら。俯いて動こうとしない。


「グレイソン様?」


 彼の名前を呼ぶと、びくりと肩を震わせた。もしかして、泣いているの?


「この花、昔母が好きだった花で。我が家の中庭にも、たくさん植えてあって…それで…」


 ポロポロと涙を流すグレイソン様。きっとお母様との大切な日々を思い出したのね。


「ごめんなさい、人前で泣くだなんて」


 必死に涙を止めようとしているグレイソン様を見ていたら、また胸が苦しくなった。


「今は亡き大切なお母様を思い出したのですよね。泣きたい時は、好きなだけ泣いたらいいのです。感情を出すことは、とても素敵な事なのですよ」


 ハンカチを渡し、そっと背中を撫でてあげた。きっと今まで、泣く事すら我慢していたのだろう。堰を切ったように泣きだしたグレイソン様。なんだか兄というよりも、弟みたいね。しばらく泣いた後、落ち着いたのか


「情けない姿を見せてしまって、本当にごめんなさい。もう大丈夫だから」


 そう言うと、少し恥ずかしそうに笑ったグレイソン様。


「今の笑顔、とても素敵でしたわ。こんなにも素敵な笑顔が出来るのですもの。もっともっと、感情を出してください。出さないと勿体ないですわ」


「僕の笑顔が好きか…昔両親も同じことを言っていたけれど、いつの間にか忘れていたよ。叔父上の家では、感情を出すことを禁止されていたから…」


「まあ、なんて酷い叔父様なのでしょうか?その方は鬼畜か何かですか?信じられませんわ。我が家にはそんな鬼畜はおりませんので、ご安心を。さあ、次はあちらに行ってみましょう。あっちには、たくさんの野菜や果物が栽培されておりますわ」


 再び手を握りと、今度は野菜や果物が栽培されているハウスへとやって来た。相変わらずこの中は暑いわね。


「ルージュお嬢様、グレイソンお坊ちゃま、ようこそおいでくださいました」


「いつも美味しい野菜や果物を育ててくれてありがとう。せっかくなので、グレイソン様に取れたての野菜や果物を食べてもらいたいのだけれど。グレイソン様は、何がお好きですか?お好きな物を教えてください」


「僕かい?僕は…トマトが好きだな」


「トマトですね。それでしたら、こちらのフルーツトマトがちょうど食べ頃です。ぜひ食べてみてください。甘くて美味しいですよ」


 嬉しそうに使用人が、フルーツトマトを勧めてくれた。早速頂く。


「甘くてとても美味しいですわ。まるで果物みたい。あら?またグレイソン様は遠慮していらっしゃるのですね。はい、口を開けて下さい」


 本当に世話が焼ける人ね。


「甘くて美味しいよ。これがトマトだなんて、とても思えないな」


「そうでしょう。お2人にお褒め頂き、私は嬉しく思います。他にもたくさんありますから、食べて行ってください」


 嬉しそうに使用人が、色々な野菜や果物を切ってくれた。


「僕の為に、あんなに嬉しそうに…」


「あら、彼らは私達に美味しい野菜や果物を提供してくれるのが仕事ですもの。何度も言いますが、あなたはもう公爵令息で、私たちの大切な家族です。あなたは長年酷い扱いを受けていたとの事で、中々我が家の生活に馴染めないのも理解しております。ですので、少しずつでも、この生活に馴染んでいって頂けたら嬉しいですわ」


「ルージュ…ありがとう。僕はこの家に引き取られて、君に会えて本当に幸せだよ」


 そう言うと、今度はにっこりとほほ笑んだのだ。


「さっきの少しはにかんだ笑顔も素敵でしたが、今の笑顔もとても素敵ですわ。私はあなたの笑顔が好きです。どうかこれからも、笑顔でいて下さいね」


 せっかく素敵な笑顔を持っているのだから、どんどんその笑顔を出していって欲しい。きっとお父様もお母様も、グレイソン様が笑顔でいてくれたら、喜ぶだろうし。


「さあ、そろそろ日が暮れ始めていますわ。それにしても、少しお野菜と果物を食べすぎましたね。晩御飯、食べられるかしら?」


「きっと大丈夫だよ。だって料理長の料理は、とても美味しいから…それに、ルージュが傍にいてくれたら、僕はどれだけでも食べられそうだ。さあ、そろそろ屋敷に戻ろう」


 そう言うと、グレイソン様が私の手をスッと取って歩き出したのだ。今まで自分から何かする事がなかったのに、自分から手を取るだなんて。


 少しずつでも自分の感情を出してくれる様になったことが、なんだか嬉しい。このまま彼が、少しでも心を開いてくれたら…


 そんな事をつい考えてしまうのだった。

1度目のルージュとグレイソンに関してのちょっとしたお話です。

興味のない方は、スルーして下さい。


1度目のルージュも、実はグレイソンをとても気にかけていました。少しでも早くグレイソンがこの家に馴染めるように、積極的に話し掛けたり、時には外に連れ出したりしていたのです。


ですが、グレイソンはそんなルージュに戸惑い、どうしていいか分からず、ただ俯くばかり。あまりにもグレイソンの反応が悪いため、もしかしたら自分は嫌われているのかもしれない。そうルージュは思う様になっていったのでした。その結果、あえてグレイソンに関わらない選択を選んだのです。


2度目の生になり、ルージュのお節介にも拍車がかかった事で、1度目の生以上にグイグイ攻め込んだことで、グレイソンの心を開く事が出来たのでした。


以上、ちょっとしたお話でした。




※次回、グレイソン視点です。

よろしくお願いしますm(__)m

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