第6話：お節介な性格が出てしまいました
びっくりして音のした方を見る。どうやらグレイソン様がフォークを落としてしまった様なのだ。
「も…申し訳ございません。本当にごめんなさい」
何を思ったのか、床に頭をこすりつけて謝るグレイソン様。小刻みに震えている。
「グレイソン、そんな事で謝らなくていい。とにかく起きてくれ」
お父様が彼を起き上がらせようとしたが、その場から動こうとしない。
「グレイソン様、どうか謝らないで下さい。フォークを落とす事くらい、誰にでもありますわ」
お母様も必死に訴えている。すると、ゆっくり起き上がり、小さくなりながら再びイスに座ったのだ。ただ、食事に手を付けようとしないのだ。
「グレイソン、ここにはもう君を虐める悪い奴はいないから、気にせず食事をしてくれ。ほら、お肉も美味しいよ」
お父様が声を掛けるが、動こうとしない。思い返してみれば彼が来たあの日、同じような事があったわ。あの時はどうしたのだったかしら？
よく覚えていないが、なんだか放っておけない。
「悪いのだけれど、ここに私の食事とイスを運んでくれるかしら？」
グレイソン様の隣にイスと料理を運んでもらい、座った。そして小さく切ったお肉を、彼の口元へと運ぶ。
「あの…何を？」
「ご自分では食べられない様なので、食べさせて差し上げようと思いまして。お口を開けて下さい」
私はあなたを虐めていた奴らとは違うのよ、そんな思いで極力優しく微笑んだ。すると、襲る襲る口を開けたところに、すかさずお肉を放り込んだ。
「どうですか？お肉のお味は？」
「美味しい…」
「それは良かったですわ。次はサラダにしましょう。家の野菜は、敷地内で栽培している野菜をその場で採ってきているので、とても新鮮でおいしいのです。はい、お口を開けて下さい」
今度は素直に口を開けてくれたので、野菜を放り込んだ。
「本当だ、とても美味しいよ…ごめんなさい。僕…」
「謝る必要はありませんわ。さあ、もっとたくさん食べて下さい。次はスープにしますか？」
次から次へと食事を口に放り込んでいく。こんなにガリガリなのだから、沢山食べて欲しい。そんな思いで、食事を運んでいく。そして気が付くと、お皿が奇麗になっていた。
「全部食べられましたね。とても偉かったですわよ」
偉い偉いと言わんばかりに、頭を撫でてあげた…て、私は何をしているのかしら？
「ごめんなさい、ちょっと調子に乗りすぎましたわ。後はデザートが来ますので、どうかご自分でお食べ下さい」
この人に極力関わらない様にしようと思っていたのに。もう、どうしてこうも気になるのかしら？
でも、あの目を見たら…どうしても気になって仕方がないのだ。とにかくこれ以上、彼に関わるのは止めよう。
急いで食事を済ませ、自室に戻ってきた。とにかく落ち着かないと。きっと今頃、お父様がグレイソン様に屋敷を案内している事だろうから、部屋の中で大人しくしていよう。そうだわ、久しぶりに刺繍を入れよう。これでも私は、刺繍が得意なのだ。１度目の生の時は、友人達にも刺繍入りのハンカチをプレゼントしたな。
あの子たち、私がこんな事になってしまって、悲しんでいないかしら？何だかんだ言って、１度目の生の時、友人には恵まれていた。ただ、私と仲良くしていたという事で、冷遇されたりしていないといいのだが…ヴァイオレット、あの性悪女ならやりかねないわね。
とはいえ、彼女たちを心配しても私は過去に戻ってしまっているし。彼女たちがあの後どうなったのは、私が知る事は出来ない。どうか幸せに暮らしていてくれている事を、願うばかりだ。
今回の生でも、友人達とは仲良くしていきたい、そう思っている。
真剣に刺繍を入れている間に、日が暮れてしまった。さてと、そろそろ夕食の時間ね。今度こそ、お節介を焼かない様にしないと。そう思っていたのだが…
なぜか今回は、最初からグレイソン様の隣の席が準備されていた。さらにお父様とお母様が、“今回も頼んだよ”と言わんばかりの目で私を見つめている。そんな目をしても、もうお節介は焼かないのだから！
そう思っていたのも束の間
「グレイソン様、今日はあなた様の為に料理長が沢山のご馳走を作ってくれたのです。たくさん食べて下さいね。このステーキ、とても美味しいですわよ。こっちのトマトと鶏肉、バジルのアヒージョも食べて下さい。はい、口を開けて」
「ありがとう。その…ルージュ…とても美味しいよ」
少し恥ずかしそうにそう言ったグレイソン様。少し緊張が解けたみたいで、それがなんだか嬉しい。
「それは良かったですわ。まだまだ沢山ありますから、もっともっと食べて下さいね」
結局私は、夕食もお節介を焼き続けたのだった。
