表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/124

第35話:本当の戦いが始まります

「お嬢様、貴族学院の制服、よく似合っていらっしゃいますよ。本当に素敵ですわ。サイズもぴったりですね」


「そう?ありがとう。汚すといけないから、もう脱ぐわね」


 平和な日々はあっという間に過ぎるもの。ついに私は明日、貴族学院に入学する。貴族学院には、クリストファー殿下はもちろん、私たちを地獄に叩き落した天敵、ヴァイオレットもいる。絶対にあの人たちには関わらないようにしないと。


 ただ…貴族学院は基本的に、爵位に合わせてクラス分けされている。友人たちはもちろん、殿下やヴァイオレットも同じクラスなのだ。とにかく一瞬の気も抜けない。


 とはいえ…


 あの人たちに関わらなければきっと、大丈夫なはずだ。あの女がグレイソン様に接触しないかだけ気を付けないといけないが、後は放置で大丈夫だろう。


 幸いまだ、殿下には婚約者がいない。貴族学院に入学さえしてしまえば、2人は勝手に恋に落ち盛り上がるだろう。1度目の生の時の私の様に、令嬢が傷つくことはなさそうだ。その点は良かったわ。


 ふと1度目の生の時の記憶が、脳裏に浮かんだ。全てを諦め、絶望に満ちた目をしていたグレイソン様。そして彼が命を奪われた瞬間、泣き叫んだ両親。私を守るために、自ら騎士たちに体当たりをして切り殺されたお父様とお母様。


 そして私もその後、切り殺されたのだ。あの激痛は、今でも忘れる事が出来ない。


 悔しくて悲しくてどうしようもない感情が、次々と私の心に沸き上がって来る。やっぱりヴァイオレットだけは、許せない…出来る事なら私の手で、叩き潰してやりたい。


 …ダメよ、確かにヴァイオレットは憎い存在だが、そんな気持ちでいたらまた、足元をすくわれるわ。


 今回の生では、平穏に暮らすのだから。あの女の事は、なるべく考えないようにしないと!


 そう自分に言い聞かせたのだった。



 翌日


 真新しい制服に袖を通した。そして鏡に映る自分に喝を入れる。殿下の時は不覚にも怯えてしまった。でも、ヴァイオレット、あの女の前では絶対に弱い自分を見せない。正直怖くてたまらない。


 顔を見たら、恐怖で震えあがり、パニックになるかもしれない。1度目の生の時の記憶が蘇り、号泣するかもしれない。それでも私は、公爵令嬢としてのプライドがある。


 絶対にあんな女に負けてたまるか。せめて公爵令嬢として、凛としていたい。とはいえ、昨日の夜から胃が痛いのも事実だ。最近また食欲が落ちてしまい、両親やグレイソン様に心配をかけているのだ。


 本当に私は、いつからこんなに弱くなったのかしら。


 はぁっとため息をつきながら、部屋から出る。すると


「ルージュ、おはよう。今日から貴族学院が始まるね。殿下も貴族学院に入学するけれど、僕が必ずルージュを守るから安心して欲しい」


 まっすぐ私を見つめ、そう言ってくれたグレイソン様。本当に彼は、逞しくなったわね。グレイソン様は非常に優秀で、勉学も武術も非常に優れている。


 今では既に公爵を継ぐために、領地経営にも積極的に関わっているのだ。その上騎士団内でも、アルフレッド様の右腕として活躍していると聞く。どうやら今回の生では、彼の才能が開花した様だ。


 グレイソン様の幸せの為にも、絶対にヴァイオレットには近づいて欲しくない。私がしっかりガードしないと!


「ありがとうございます。でも、もう大丈夫ですわ。だって学院には、私の事を大切に思ってくれている友人たちもおりますし。それに何よりも、グレイソン様も傍にいてくれるでしょう?何も怖いものなんてありませんわ。さあ、学院に参りましょう」


 グレイソン様の手をギュッと握り、馬車へと向かった。いつの間にか大きくなったグレイソン様の手。彼の手を握ると、安心する自分がいるのだ。


「ルージュは無理をするところがあるから、心配だな。あまり無理をしてはいけないよ。何かあったら、すぐに僕に相談して欲しい。もし僕に相談しにくいなら、令嬢たちに相談してもいいし。彼女たちは本当にルージュの事を、大切に思ってくれているからね。僕が嫉妬しちゃうくらい…」


「えっ?」


「いや、何でもないよ」


 そう言うと、なぜか俯いている。ただ、頭1つ分大きくなったグレイソン様。私の位置から顔が丸見えだ。何やら顔が赤いので、照れている様だ。一体何に照れているのだろう。さっぱりわからない。


「ルージュ、グレイソンも。貴族学院入学おめでとう。気を付けて行ってくるのよ」


「グレイソン、ルージュの事を頼んだよ。最近ルージュは元気がない様だし。まあ、グレイソンも一緒だから、私はあまり心配はしていないがな」


「義父上、義母上、ルージュの事は僕に任せて下さい。それでは、行って参ります」


「お父様、お母様、行って参ります」


 2人に挨拶をして、馬車に乗り込んだ。笑顔で手を振る両親に、私たちも手を振り返した。そういえば私、グレイソン様と一緒に馬車に乗って貴族学院に行くのは初めてね。1度目の生の時は、いつも別々に行っていたし。


 でも今回の生では、もちろんずっと一緒に通学するつもりだ。一緒に登下校をする事で、グレイソン様の行動をある程度把握できる。そうすれば、ヴァイオレットがグレイソン様に付け入ろうとしても、察知できる可能性が高いだろう。


 でも、油断は出来ないけれどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ