第123話:王妃様に背中を押されました
「ルージュ嬢、どうか謝らないで!クリストファーはきっと、ルージュ嬢の命を守れたことを、喜んでいると思うわ。あの子はずっと、重い十字架を背負って生きて来た。その十字架を、やっと下ろすことが出来たのですから…」
重い十字架を背負って生きて来たですって?まさか…
「王妃様、殿下が重い十字架を背負ってというのは…その…」
「ルージュ嬢…いいえ、ルージュちゃんと呼んだ方がいいかしら?あなたも1度目の生の記憶が残っているのでしょう?実は私も、1度目の生の時の記憶を持って、2度目の生を生きているのよ」
悲しそうに王妃様がほほ笑んだ。まさか王妃様まで、2度目の生の記憶が残っていただなんて…
「クリストファーも1度目の生の時の記憶がある事には、すぐに気が付いたわ。あまりにもクリストファーの様子が、1度目の生の時と違ったから。ルージュちゃん、1度目の生の時、クリストファーの愚かな行いのせいで、あなた達の命を奪ってしまった事、本当に申し訳なく思っているわ。謝っても許される事ではない事は分かっているの、でも、どうか謝罪させて」
そう言って、王妃様が頭を下げたのだ。
「王妃様、どうか頭をお上げください。確かに1度目の生の時、私たちは無実の罪で命を落としました。でも…私は今回の生で…」
「クリストファーはね、“僕は1度目の生でルージュを深く傷つけ、命を奪ってしまった。だから今回の生では、どうか幸せになって欲しい。きっとヴァイオレットはまた、ルージュに牙をむくだろう。だから今度は、僕が命を懸けてでもルージュを守りたい。僕が神様から2度目の生を与えられたのは、僕に償いのチャンスを与えてくれたのだと考えているよ”こう言っていたの。だからきっと、クリストファーはあなたの命を守れたことが、嬉しかったのだと思うわ。それと同時に、ずっと背負っていた十字架も下ろすことが出来たの」
クリストファー様は、王妃様にそんな事を言っていただなんて…
「あの子はずっとヴァイオレット嬢を監視していたから、毒の塗られたナイフを仕込んでいたことも、知っていたのかもしれないわね。もしかしたら、命を懸けてルージュちゃんを守る覚悟を決めていたのかもしれないわ。本当にあの子は、いつからあんな子になったのかしら?」
王妃様が悲しそうに笑ったのだ。
「ルージュちゃん、クリストファーの為にも、どうかグレイソン様と幸せになって。あなたが幸せにならないと、きっとクリストファーも成仏できないと思うの。あの子の為にも、どうかお願いします」
王妃様が私に頭を下げたのだ。
「王妃様、どうか頭を上げて下さい。私、ずっとクリストファー様に申し訳ないと思っておりました。こんな私が幸せになったらいけないと…でも、私は間違っていたのですね。クリストファー様が守ってくれたこの命を、私は大切にします。そして、クリストファー様が好きだと言ってくれた笑顔を忘れずに、グレイソン様と必ず幸せになりますわ」
正直まだ、心が痛くてたまらない。クリストファー様を思うと、胸が張り裂けそうになる。でも、グレイソン様と王妃様のお陰で、目が覚めた。
どんなに辛くても、後悔しても、もう過去には戻れないのだ。それならクリストファー様の思いを無下にしないためにも、クリストファー様の最期の願いを叶えられる様に、精一杯生きるまでだ。
それに何よりも、私は幸せになりたい。グレイソン様と一緒に…
「ありがとう、ルージュちゃん。きっとクリストファーも、喜んでいると思うわ」
王妃様がポロポロと涙を流しながら、私を抱きしめてくれた。王妃様は1度ならず2度までも、息子を亡くしたのだ。どんなに辛く苦しかった事か…
それでも私の為に、わざわざ公爵家に出向いて、クリストファー様の思いを語ってくれた。そして私の背中を押してくれたのだ。王妃様には、感謝してもしきれない。
王妃様の気持ちに応えるためにも、もう泣いてなんていられない。
「王妃様、私の方こそありがとうございます。もう私、泣いたりしません。クリストファー様の為にも、必ず幸せになります」
そう王妃様に伝えた。すると、にっこりと笑ってくれた王妃様。でもその笑顔はどこか寂しげだった。
「王妃様、よろしければ昔の様に、お茶をしていきませんか?そうですわ、公爵家の中庭なんてどうでしょう」
「まあ、いいの?私、ルージュちゃんとお茶をするのが、とても好きだったの」
少しでも王妃様にも元気になって欲しくて、一緒にお茶をする事にした。こんな風にまた王妃様とお茶をする事が出来るだなんて。きっと天国にいるクリストファー様が、傷ついた私たちをめぐり合わせてくれたのかもしれない。
クリストファー様、あなたの気持ちを無下にしようとしてごめんなさい。あなたが守ってくれたこの命、大切にいたしますわ。
そして必ず、幸せになって見せます。
王妃様と昔話に花を咲かせながら、心の中でそっとクリストファー様に気持ちを伝えたのだった。
次回、最終話です。
よろしくお願いしますm(__)m




