第110話:友人たちに嫉妬しています?
楽しいお昼休みを過ごした後、午後の授業を受けた。そして放課後
「ルージュ、僕も今日は一緒に帰るよ。さあ、帰ろう」
私の元にやって来ると、すっと手を握って来たグレイソン様。
「でも、騎士団の稽古はよろしいのですか?グレイソン様、騎士団の稽古に力を入れていらっしゃるのでしょう?私は大丈夫ですので、どうか稽古に行ってください」
グレイソン様は、騎士団が大好きなのだ。私の事は気にしないで、目いっぱい稽古に励んでも欲しい。
「僕は別に、騎士団の稽古が大好きという訳ではないよ。今日はずっとルージュと一緒にいたんだ。それに義両親に、僕たちの気持ちも伝えたいしね。さあ、帰ろう」
「分かりましたわ。それじゃあ皆、また明日ね」
「ええ、また明日」
友人たちに挨拶をして、グレイソン様と一緒に教室を出た。
馬車に乗り込むと、なぜかグレイソン様の膝に座らされ、そのまま後ろから抱きしめられた。
「ルージュ、本当にごめん。今日セレーナ嬢たちの話を聞いて、僕がどれほど愚かな事をしたのか思い知ったよ。ルージュが僕を許し、受け入れてくれた事は、本当に奇跡なんだよね」
「友人たちがごめんなさい。でも、皆私の事を本当に大切に思ってくれていて。それであの様な行動をとったのだと思います。ですから…」
「分かっているよ。彼女たちはどんな時でも、ルージュの気持ちに寄り添い、ルージュを傷つける者は誰であろうと許さない!と言ったスタンスを取っているのだね。それだけルージュは、大切にされているのだ。ねえ、ルージュ。教えて欲しい事があるんだ。彼女たちは1度目の生の時、君が命を落としたと知って、どんな行動をしたのだい?」
グレイソン様が私を抱きしめる力が強くなるのを感じた。どうしてそんな事を聞くのだろう。
「ルージュ、頼む。殿下に聞いて知っているのだろう?彼女たちはどんな行動をとったのだい?」
「私が国外追放にされたときは、ちょうど貴族学院が長期休みに入っていた時でした。その為、皆王都にいなかったのです。ただ、私が国外追放の知らせを聞きつけ、4人は急いで王都に戻ってきたそうです。そして…」
私は4人がそれぞれ私の為に、必死に動いてくれた事、彼女たちの働きで、殿下は廃嫡され、幽閉。ヴァイオレットは公開処刑された事を話した。
「そうか…彼女たちの手で、ルージュの無念が晴らされたわけだな。やはり彼女たちは、1度目の生の時からずっと、ルージュに寄り添って生きて来たのか」
「皆がどんな気持ちで私の無念を晴らしてくれたか、考えただけで胸が張り裂けそうになりますわ。本当に私は、彼女たちには返しきれない程の恩があるのです」
だからこそ、今度の生では彼女たちに迷惑を掛けないように、生きようと思っていたのに。早速迷惑をかけ、多大な心配をさせてしまったのだ。
なんだか申し訳ない。
「あの4人は、どんな時でもルージュの味方なのだね。1度目の生でルージュと義両親を死に追いやり、2度目の生ではルージュと義両親を傷つけ、ルージュを国から追い出した僕とは大違いだ」
ん?一体何を言っているの?
「グレイソン様、その話はもう済んだはずですわ。これから挽回すればいいという話で、まとまったのではなかったですか?」
「そうだね、そういう話でまとまったね。でも僕は彼女たちを見ていると、無性に悔しくなるんだ。本来僕が、ルージュの一番の理解者でいたいはずなのに…僕なんかよりも、ずっとルージュを大切にしている4人には敵わないと思うと、悔しくてたまらない。ルージュ、既に僕はマイナスからのスタートだけれど、いつか必ず、あの4人を超えて見せる。だからどうか、僕を見捨てないで欲しい。クソ、どうすれば4人に勝てるんだ?いいや、弱気になってはダメだ。これからはあの4人よりも、もっともっとルージュと一緒にいよう。そうだ、あの4人なんかに、ルージュを渡してたまるか」
ちょっと待って、グレイソン様。一体何を言っているの?
「彼女たちは、あくまでも私の友人です。グレイソン様とは立場が違うと思いますわ。それにやはり、令嬢には令嬢にしかわからない気持ちというものがあるのです」
「それじゃあ僕には、ルージュの気持ちが一生分からないというのかい?僕はこんなにも、ルージュを愛しているのに」
なぜそうなるの?なんだか今日のグレイソン様、様子が変だわ。まるで4人に嫉妬している様ね。
「グレイソン様、とにかく落ち着いて下さい。そうですわね、グレイソン様にとってのアルフレッド様が、私にとっての4人なのです。そう考えると、あまり4人の事が気にならなくなりますよね」
そう、あくまでも4人は友人なのだ。どうか分かって欲しい。
「僕にとってのアルフレッドか…いいや、ルージュたちの絆は、もっと深い気がする…」
まだ不満そうなグレイソン様。なんだかめんどくさい事になっているわ。
ちょうどその時、馬車が停まったのだ。
「グレイソン様、馬車が停まりましたわ。訳の分からない嫉妬をしていないで、両親に私たちの事を話しましょう。ほら、行きますよ」
まだ不服そうなグレイソン様を連れ、急いで馬車から降りたのだった。