第109話:やっと元の関係に戻りました
必死に頭を下げるグレイソン様を見たセレーナとミシェルが、お互いの顔を見合わせている。
そして
「グレイソン様、謝るのは私達ではありませんわ。それから、もしまたルージュを泣かせたら、その時は本当に許しませんからね」
「グレイソン様が本当に悪いと思っているのでしたら、これからはルージュを大切にしてあげてください。私たちがしっかり見張らせていただきますから」
相変わらずグレイソン様に厳しいセレーナとミシェル。でも、彼女たちなりのグレイソン様に対するエールなのだろう。
「もちろんだ、二度とルージュを傷つけたりしないよ。それにしても、義父上と義母上に口止めまでしていただなんて…」
「あら、当たり前でしょう。ルージュの居場所が分かっては困りますから。あなた様には、ルージュの居場所もわからず、いつ帰って来るかずっと不安の中、待っていてもらおうと思ったのです。ルージュを泣かせたのですから、それくらい当然でしょう!」
「公約様と夫人が、グレイソン様に話してしまわないかハラハラしましたが、さすが公爵様と夫人ですわね。私達との約束をしっかり守って下さるだなんて。後でお礼をしに行かないと!」
「公爵様と夫人の前で、あれだけ頭を下げてお願いしたのですから、さすがにお2人も私たちの気持ちを汲んで、グレイソン様に話すことが出来なかったのでしょう」
「あら、ミシェルの“公爵様と夫人なら、絶対に私達との約束を無下にはしませんわよね”と、笑顔で圧を掛けたのが効いたのではなくって?」
「それを言うなら、セレーナが誓約書を公爵様と夫人に書かせたからではなくって。まさかセレーナが誓約書まで準備してくるだなんて、思わなかったわ」
ミシェルがため息をついている。
「ルージュの友達は、本当にやり手だな…この2人だけは、敵に回したくはない…許してもらえて本当によかった…」
2人のやり取りを見ていたグレイソン様が、ぽつりと何かを呟いたのだ。
「グレイソン様、何か言いましたか?」
「いや、何も言っていないよ。ルージュにはこんなに心強い友人がいて、安心だなって思っただけだよ。これからもどうか、ルージュの事をよろしくお願いします」
グレイソン様がまた頭を下げている。
「もちろんですわ。随分長い事話し込んでしまいましたわね。急いで昼食を頂きましょう」
気を取り直して、7人で昼食を頂く。やっとこれで、元の関係に戻れたのね。やっぱり私は、皆で仲良くこうやって過ごすのが一番好きなのだ。
そうだわ!
「皆、私ね。あなた達にお土産があるのよ。はい」
友人4人とアルフレッド様に、大きな袋を渡した。
「お土産なら、朝もらったわよ」
「あれはクラスの皆に配った分よ。本当のお土産はこっちよ。私が1つ1つ詰めたの。気に入ってもらえると嬉しいのだけれど」
皆の顔を思い浮かべ、1つづつ選んだのだ。4人それぞれ全く好みが違う。だからこそ、皆のお土産はそれぞれ違うものにしたのだ。
さらに
「お嬢様、準備が整いました」
「ありがとう、すぐに持ってきてくれる?」
アリーとグレイソン様付き執事が持ってきてくれたのは、パレッサ王国のパスタだ。さすがに貝を持って来ることはできなかったので、ソースはバジルとトマトをベースにしたものにした。
でも、これはこれでとても美味しいのだ。
「ルージュ、これは一体なに?」
「これはね、パスタと呼ばれる食べ物なの。パレッサ王国で食べたのだけれど、とても美味しくて。どうしても皆に食べてもらいたくて、今日は学院の許可を取って、料理長に来てもらって調理してもらったの。早速食べてみて。こうやってフォークに巻き付けて食べるのよ」
クルクルとフォークに巻き付け、ぱくりと口に運ぶ。うん、相変わらず美味しいわ。
皆も見よう見まねで、パスタを口に入れた。
「これは美味しいわ。ソースとこの細長いのがよくあっている」
「本当ね、この細長いの自体も、モチモチしているし。こんな食べ物、食べたことがないわ」
「これは病みつきになりそうね。本当に美味しいわ」
「確かに美味いな。こんな料理があるだなんて」
皆喜んでくれている様で、よかったわ。
「パスタは乾燥させていて保存がきくそうなの。だからパレッサ王国から持って帰ってくることが出来たの。ゆでる前なら、1年程度は持つそうよ。パスタの茹で方とソースのレシピも付けてあるから、ぜひ家でも食べてみて」
「こんな美味しいものが、家でも食べられるの?パレッサ王国には魅力的なものが沢山あるのね」
「そうなの、小さい島国なのだけれど、本当に素敵な国なのよ。今日お父様が王宮に出向いて、パレッサ王国の特産品を持って貿易交渉に行っているから、もしかしたら近い将来、この国でもパレッサ王国の特産品が出回るかもしれないわね」
「まあ、そうなのね。正直私、ルージュがパレッサ王国に行くまで、名前すら知らなかったわ」
「私もよ。真珠にパスタ、とても魅力的な国なのね。なんだか急に、親近感が湧いて来たわ」
「ルージュがパレッサ王国に行かなければ、絶対に知る事がなかったものね」
「そうよね、そう考えると、ルージュが国を出たのも、悪い事ばかりではなかったのかもしれないわね。だってこのパスタ、本当に美味しいのですもの」
「もう、メアリーったら。でも、確かにそうね」
そう言って皆が笑っている。
確かに我が国の人たちは、パレッサ王国の名前すら知らない人も多い。私がパレッサ王国に出向いたことで、少しでもこの国の人に、パレッサ王国の事を知ってもらえたら。そしてこれを機に、2つの国が交流を持ってくれたら嬉しいな。




