第103話:久しぶりのアラカス王国です
「お嬢様、アラカス王国が見えてきましたよ」
「そう、ついに戻って来てしまったのね…」
パレッサ王国を出て早1ヶ月、ついにアラカス王国に帰って来てしまった。そもそも私は、グレイソン様の幸せを願て国を出たにもかかわらず、3ヶ月足らずで帰ってきてしまうだなんて、さすがに格好悪すぎないかしら?
グレイソン様は、私の顔を見たくない程私の事を嫌っているのだ。それなのに、いくら本人が私と話をしたがっているとはいえ、のこのことグレイソン様の前に姿を現すだなんて。
その上、あんな重い手紙まで書いて国を出たのだ。今更どの面下げて、グレイソン様に会えというのだ。
「アリー、国に戻って来たことだし、お父様との約束は果たしたわ。このままパレッサ王国に戻りましょう。叔母様たちも、私の事を歓迎してくれるだろうし」
「何を寝ぼけた事を、おっしゃっているのですか?旦那様たちが、首を長くしてお屋敷でお待ちなのです。それにパレッサ王国から、沢山のお土産も貰って来ているのですよ。お嬢様がお気に召したパスタ、山の様に王妃殿下が船に乗せて下さっているのです。それに真珠だって、お友達や奥様に渡すのでしょう?さあ、馬車に乗り換えますよ」
さっさと船から降ろされると、公爵家の馬車に乗せられた。私が乗る馬車以外にも、10台程度公爵家の馬車が待機している。きっとパレッサ王国から貰って来た荷物を積むための馬車だろう。
それにしても、凄いお土産ね。もしかしてお父様、パレッサ王国のお土産が欲しくて、私に早く帰って来いと言ったのかしら?もう、がめついわね。
「ねえ、このままお屋敷に帰ろうと思うと、夜になってしまうわ。せっかくだから、どこかのホテルに泊まってから、ゆっくり帰りましょう」
港から屋敷までは、8時間程度かかるのだ。急いで帰っても気まずいだけだ。それなら、少しでも時間を稼ごうと思ったのだが…
「何をおっしゃっているのですか。お嬢様の帰りを、首を長くして待っていらっしゃいるのですよ。それにまだ、お昼前です。そんなに夜遅くにはなりませんわ。それよりも行きの方が、夜通し馬車を走らせて港まで向かったのです。あっちの方が、きつかったですわよ」
確かにあの時は、きつかったが…ただ、あの時は切羽詰まっていたのだ。
でも今は…
皆に会えるのは嬉しいが、やはりグレイソン様に会うのが気まずくてたまらない。一体どんな顔をして会えばいいのよ。
私の気持ちとは裏腹に、どんどん馬車は進んでいく。そして懐かしい王都が見えて来たと思ったら、我が家に馬車が入っていく。ついに帰って来てしまったのね。
仕方がない、腹をくくって馬車から降りるか。そんな思いで、ゆっくり馬車から降りた。
「おかえりなさい、ルージュ」
「ルージュ、お帰り」
お父様とお母様が、抱き着いて来たのだ。3ヶ月ぶりに会う両親、懐かしい匂いに包まれる。なんだかんだ言って、両親に会うとホッとするのはなぜだろう。
「ただいま戻りました。お父様、お母様」
「「「「ルージュ、お帰りなさい」」」」
ん?この声は!
「セレーナ、メアリー、マリーヌ、ミシェル。皆もわざわざ来てくれたの?嬉しいわ」
両親から離れると、そのまま4人に抱き着いた。
「当たり前でしょう。今日ルージュが帰国すると聞いて、夕方から待っていたのよ」
「そうだったの、私の為にありがとう」
「それで、パレッサ王国はどうだったの?」
「ええ、とても楽しかったわ。皆にもたくさんお土産を持って帰ってきたから、後で配るわね」
「それは良かったわ。ルージュ、あなたが楽しんできたのなら、パレッサ王国まで足を運んだ甲斐があったわね。それじゃあ、私たちは帰るわね。ヴァレスティナ公爵、夫人。私達のお願いを聞いて下さり、ありがとうございました。お陰ですっきりしましたわ」
ん?私たちのお願い?一体なにを言っているのかしら?
「それじゃあルージュ、ゆっくり休んでね…て言いたいところだけれど、ちゃんとグレイソン様と話をするのよ」
「グレイソン様も随分反省したみたいだし。ただ、私はまだ納得できていないけれどね」
「それじゃあ、また明日ね。お土産、楽しみにしているわね」
4人が笑顔で帰っていく。皆一体何を言っているの?グレイソン様が反省したみたいとは一体…
「ルージュ、お帰り。その…色々とすまなかった」
この声は…
振り向くと、グレイソン様が深々と頭を下げていたのだ。久しぶりに見るグレイソン様…と言いたいところだが、頭しか見えない。
「どうしてグレイソン様が謝るのですか?どうか頭をお上げください。私の方こそ、あなたの前に二度と姿を現さないと伝えたのに、再び姿を現してごめんなさい。本当にお恥ずかしい限りですわ…でも、安心してください。私はすぐに、パレッサ王国に戻る予定でおりますので。今度こそ、グレイソン様の前には、二度と姿を現しませんから」
だからどうか安心して、公爵家で暮してくださいね。そんな思いで彼に伝えたのだが…