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第101話:結局あなたに助けられたのですね

 湯あみが終わり、アリーが手や足に薬を塗ってくれている。こんな切り傷、アン殿下の苦しみに比べれば、たいしたことはないわ。


 そういえば私がちょっと切り傷を作った時、グレイソン様も大騒ぎして、薬を塗ってくれたわね。懐かしいわ…


 こんな時、グレイソン様の事を考えるだなんて、私はどれほど不謹慎なのだろう。でも、なぜかあの時の事が頭に浮かぶ。


 “ルージュ、傷が早く治る様に、このお茶を君に上げるよ。今騎士団で人気のお茶なんだ。ちょっと苦いけれど、とても体にいのだよ”


 “お茶ですか?”


 “そうだよ、ソーシーの葉を乾燥させたものなんだ。はい、これ。ルージュ、絶対に毎日飲むのだよ。分かったね”


 ソーシーの葉を乾燥?


「そうだわ!」


 クローゼットにしまってあった鞄を引きずり出す。


「お嬢様、一体何をなされているのですか?」


 私は未練たらしくグレイソン様から貰ったものは、全て持ってきたのだ。確かあれも持ってきていたはず。この辺に入っていると思ったのだが…


「あったわ!これさえあれば!」


 お茶の葉が入った入れ物を握りしめ、部屋から飛び出ると、そのままアン殿下の元へと向かった。部屋に入ると、陛下と叔母様、デイズ殿下が涙を流しながらアン殿下を見守っていた。


「ソーシーの葉!ありましたわ。どうか…どうかこの葉を使ってください。この葉があれば、アン殿下は助かるのですよね」


 急いで公爵家から連れて来た医師に、ソーシーの葉の入った箱を渡した。


「これは確かに、ソーシーの葉ですね。これで殿下は助かりますよ。すぐに薬を作りましょう」


 私達が見守る中、薬の調合が始まった。そして


「完成しました。すぐにこの薬を飲ませて下さい」


 出来立てほやほやの薬を、陛下たちが受け取った。


「アン、この薬を飲んで。すぐに楽になるから」


 ゆっくりアン殿下に薬を飲ませている。お願い、これで元気になって!祈る様な気持ちで、殿下を見つめる。すると、今まで苦しそうにしていた殿下の呼吸が落ち着いた。ただ、緑の湿疹は消えない。


 すぐに医者がアン殿下の症状を確認する。


「上手く解毒出来た様ですね。明日の朝には、熱も湿疹も落ち着くはずです」


「よかったわ…本当によかった」


 アン殿下が助かったのだ。嬉しくて涙が込みあげてくる。


「ルージュ、ありがとう。あなたのお陰よ」


「ルージュ嬢は、アンの命の恩人だ。なんとお礼を言っていいか」


「ルージュ嬢、アンを助けてくれてありがとう。本当にありがとう」


 皆が私にお礼を言ってくれる。でも…


「私は何もしていませんわ。実はこのソーシーの葉は、私の義兄、グレイソン様が私に下さったものなのです。グレイソン様が、アン殿下を助けてくれたのですわ…」


「グレイソン様?そう、私の義理の甥が私の娘を助けてくれたのね…でも、その葉を持ってきてくれたのは、ルージュでしょう。ありがとう、ルージュ」


 そう言うと、叔母様が私を強く抱きしめてくれた。


「陛下、ソーシーの葉は、今も同じ病で苦しむ民たちの為に使ってください」


 まだアン殿下と同じように、苦しんでいる人がいるのだ。一刻も早く、薬を届けてあげて欲しい。


「ありがとう、ルージュ嬢。そうさせてもらうよ。すぐに薬を届けないと」


 近くにいた使用人に、陛下が指示を出している。これで今も苦しむ3人の命が助かるのね。それもこれも、全てグレイソン様のお陰だ。遠く離れた場所でも、私は結局グレイソン様に助けられるだなんて…


「ルージュ、今日は色々とありがとう。疲れたでしょう。アンはもう大丈夫だから、ゆっくり休んで」


「ルージュ嬢、僕が部屋まで送るよ」


 私の手を握り、部屋までエスコートしてくれるのは、デイズ殿下だ。


「デイズ殿下、エスコートありがとう。殿下も今日は疲れたでしょう。ゆっくり休んでね」


「お礼を言うのは僕の方だよ。ルージュ嬢、妹を助けてくれて、本当にありがとう。これからもずっとずっと、この国にいてね。それじゃあ、おやすみ」


 そう言うと、殿下が嬉しそうに走って行ってしまった。可愛いわね。


 これからもずっとこの国にいて…か。


 なぜだろう、とても嬉しい言葉のはずなのに、なんだか心の奥がモヤモヤする。私はこれからもずっと、この国にいたい。というよりも、ここしか私の居場所はないのだ。だからずっと、この国にお世話になるつもりでいるのに…


 なんだかグレイソン様に会いたくてたまらないのだ。


 でも、グレイソン様は、私の事を嫌っているのよね。それでも私は、グレイソン様に会いたい…

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