表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/124

第100話:アン殿下を助けたいのに…

 アリーと入れ違いに、話しを聞きつけた陛下が戻ってきた。


「アンが原因不明の病気にかかったと聞いた。頼む、部屋に入れてくれ。もしアンの身に何かあれったら、私は…」


「陛下、落ち着いて下さい!」


「落ち着いてなんていられるか!私の可愛いアンが、今苦しんでいるのだぞ。私の命などどうでもいい。アンの傍にいてやりたいのだ」


「お願い、アンの傍にいさせて」


「僕もお願いします。アンは僕の大切な妹です。アンがこのまま1人寂しく死んでしまうだなんて、僕は…」


「私からもお願いします。そもそも、感染率が高い病気なら、とっくに蔓延しておりますわ。もしかしたら人から人には移らない病気かもしれません。それに何よりも、7歳の女の子を1人にしておくだなんて、可哀そうすぎます」


 私も必死に医者に訴えた。


「お嬢様の言う通り、人から人に感染する事はありません。とにかく、一度症状を見せて下さい」


 私達の元にやって来たのは、私が連れて来た医者だ。医者と一緒に私たちもアン殿下の部屋に入った。


「アン、可哀そうに。辛そうじゃないか」


「アン、しっかりして。お母様はここにいるわよ」


「お兄様もいるよ。アン、僕が変われるなら変わってあげたい」


「アン殿下」


 私を含め、一斉に皆アン殿下を囲った。苦しそうにしているが、それでも私たちの顔を見た殿下が、嬉しそうに微笑んだのだ。


 そして小さな手を、私たちに向かって伸ばしてきたのだ。皆が一斉にアン殿下の手を握る。


「これは…クリアナ病ですね。カリモスという果物を食べると、稀に感染する病気です。免疫力が下がっている時や、小さな子供、お年寄りが感染しやすいと言われています。我が国でも昔、カリモスが輸入されるとともに、この病気も流行しました。症状を見る限り間違いありません。殿下はカリモスを食べましたか?」


 カリモスですって?確かにあの果物は甘くて美味しいのよね。でも、最近では我が国では全く見かけなくなった果物だ。


「確かに2ヶ月くらい前から、カリモスの輸入を開始した。アンはカリモスが大好きで、よく食べていたよ。まさかそれが原因だなんて」


「そういえばその様な話を、聞いたことがあるわ。でも、確か特効薬があったわよね。お願い、すぐに薬を処方して頂戴」


「分かっております。いくつかの薬草を混ぜて作るのですが、ただ…」


「ただ、何なの。早く作って頂戴」


「ソーシーの葉が必要なのです。この様な葉っぱなのですが」


 医者が図鑑を見せてくれた。


「ソーシーの葉はこの国には生えておりません。それ以外の薬草ではダメなのですか?」


「ソーシーの葉でないと、解毒できないのです。すぐにアラカル王国から取り寄せる手配をいたしますが、アン殿下の命が持つかどうか…」


「そんな…イヤよ、アン!」


 叔母様が泣き崩れている。陛下やデイズ殿下も泣いている。このまま殿下が命を落としたら…


 そんなのは、絶対に嫌!


 図鑑を医者から奪い取ると、そのまま部屋の外に出た。


「お嬢様、一体どこに向かわれるのですか?」


「山に向かうのよ。もしかしたら、生えているかもしれないじゃない。だって、アラカル王国には生えているのでしょう?探さずに諦めるなんて、私には出来ないわ」


 このままじっとしているだなんて、出来ない。馬車に乗り込み、森に向かおうとした時だった。


「私も行こう」


「私もよ」


「僕も」


 陛下や叔母様、デイズ殿下まで乗り込んできたのだ。さらに護衛や使用人たちも一緒に、山に向かう。


「確かソーシーの葉は、山の奥に生えていると聞いたことがあります。奥を中心に探しましょう」


 皆で手分けして、山を探す。私も必死に探した。


「お嬢様、どうかあまり奥に行かないで下さい。それに、泥だらけです。公爵令嬢のあなた様が…」


「今は公爵令嬢なんて関係ないわ。私の従姉妹が今、まさに生きるか死ぬかなのよ。泥なんて気にしていられるものですか!」


 必死にソーシーの葉を探す。


 お願い、1本でもいい。生えていて。そんな思いで、必死に山を駆けずり回った。でも、いくら探しても、やはりソーシーの葉は見つからない。気が付くと、日が沈みかけていた。


「お嬢様、さすがにこれ以上探すのは危険です。一度王宮に戻りましょう」


 確かにこれ以上、暗い森を探すのは危険だ。仕方なく皆で王宮に戻ってきた。


「お嬢様、手も足も泥だらけです。それに小さな切り傷が無数にありますわ。とにかく手当てを」


 アリーが私を浴槽に連れて行くと、体を綺麗にしてくれた。こんなところで湯あみをしている間に、アン殿下は今も苦しんでいる。そう思うと、胸が張り裂けそうになり、涙が止まらない。


「申し訳ございません。傷が染みるのですね」


 そうアリーが謝っているが、傷が染みて泣いているのではない。アン殿下の事が心配で泣いているのだ。もしこのまま、アン殿下が亡くなってしまったら…


 考えただけで、胸が潰れそうになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ