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「カオナシ」著者:釉貴柊翔

 走ってくる青年が砂の上に倒れこむ。起き上がりながら


青年  「(息を荒らげて)あれは、一体………」

謎の女 「(青年の真後ろでほほ笑む)……」

青年  「あの女、何だったんだ」

謎の女 「(耳元で囁くように)あなたが私を忘れても、私はあなたを忘れない。あなたのことを、あまたの傷を、あなたのくれたものを。私は決して、忘れない。あなたが忘却という安寧に逃げ込むとしても、私は必ず引きずり出す」

青年  「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 青年が砂の上に尻もちをつく。船の鼓笛が響くとともに、灯台の光が二人を照らす。


謎の女 「見える? 見えない? 聞こえる? 聞こえない? あなただけに憑く、あなただけの私を。感じられる? 感じられない? 覚えてる? 覚えていない? それがあなたの業で、それが私の宿業。ねえ、私を見て? 私を感じて?」

青年  「お、お前は誰だ。なんでお前には、顔がないんだ!」

謎の女 「……そう、そんなことも忘れてしまったの」

青年  「なんで俺に付きまとうんだ。俺が何かしたっていうのか」

謎の女 「本当に、何も覚えていないのね……」

謎の女 「あなたがあなたであることを否定するなら、私も私であることを否定する。覚えておきなさい。これはあなたが始めたことで、そして今から、私が終わらせるもの。選んだのはあなた。終わらせるのは私。逃がさない。逃げられない」


 灯台の光が一度消えて、再びともる。女の姿は消えている。


青年  「あの女、何だったんだ……。俺が始めた……? 何を……?」

友人A 「こんなところにいたのか。突然走り出すから心配したんだぞ。……って、どうしたお前、そんなに砂だらけでびしょ濡れになって。海にでも入ったのか? その恰好のままで?」

青年  「(振り返りながら)びしょ濡れになってる……? 水になんて入ってないけど……?」

友人A 「(腰を抜かして)ヒイッ。か、顔が……。う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」

青年  「おい、突然どうしたんだよ。俺の後ろになんかいるのか?」

友人A 「来るなぁ! 来ないでくれぇ! 誰か助けてぇぇぇ」


 友人Aは逃げ出して退場


友人A 「顔がない奴が! 顔のない化け物が出たぁぁぁぁ!」

青年  「(振り返りながら)顔のない化け物? まさか、あの女がいたのか……?」


 場面移動 青年の家


青年  「散々な目にあった……。あいつも俺を迎えにきといて置いて帰りやがって……。一体どうしたっていうんだよ……」

鏡の前に立つ

青年  「はぁ⁉ なんだこれ! どうなってんだ⁉ 俺の顔が、ない⁉」

謎の女 「(声のみ)それがお前の罪の証だ。その身で贖え」

青年  「ひぃぃぃぃ。もとに、元に戻してくれぇぇぇ」 

謎の女 「だってあなた、私を忘れたじゃない。だってあなた、私を感じられたじゃない。だってあなた、私を殺したじゃない」

青年  「殺してない、そんなの身に覚えがない! だから助けてくれぇぇぇ」

謎の女 「嘘はダメよ。あなたはあなた。その肉の罪はあなたの罪。決して消えはしないし、私も決して忘れない。それがあなたの罪過の代償よ」

青年  「あぁぁぁぁ、ああああああぁぁぁ……」

謎の女 「あれ? 壊れちゃった? それとも壊れたふりをしているの? ……ホントに壊れちゃったみたいね。ざぁんねん。もっといたぶって、詰って、痛めつけて、ぐちゃぐちゃにしてから壊す予定だったのに。こぉんなに柔だったなんて。でもそうね。それなら私がこれ、もらっちゃおうかしら。奪った命の代償が命を弄ばれることだって、それってとぉっても素敵なことじゃない」

青年? 「あら、あんなのの体でも案外となじむものね。これは訂正すべきかしら? 肉には罪はありませんって」


 部屋を移動してテレビをつける。


青年? 「久しぶりの体は心地がいいわね。さて、私が殺されてから、どのくらいたったのかしら? あの男の様子からすると、そう時間はたっていない気がするけれど」

ニュース「本日のニュースをお伝えします。本日は新元号の発表がありました。新しい元号は何になったのでしょうか。平成、令和に続く新しい元号は……」

青年? 「令和……? 聞いたことのない元号ね。そんなにすぐに元号が変わったのかしら……?」

ニュース「四〇年続いた令和も終わり、新しい時代の始まりを感じます……」

青年? 「よんじゅうねん……? 四十年もたっているというの……? じゃああの男は何なの……?」


 場面切り替え。家探し。


青年? 「あった……。このアルバムを見ればきっと何かわかるはず」


 少し間を開ける


青年? 「まさか……、こいつはあいつの孫⁉ あれからもう、五〇年もたっているっていうの⁉」

青年? 「私があの男を、あの憎い男を間違えた……? しかもあの男は別の女と幸せに暮らしてもう死んだあと……? 許せない許せない許せない……。」

青年? 「アハッ、アハッ、アハハハハハ……」

青年? 「じゃあ私がやったことは、全部無駄で、空回りで、独りよがりで、独善的で、何にもなってなかったってこと? 関係ない子供を殺しただけってこと……? アハッ、アハハ、アハハハハハハハ……」

青年? 「じゃあ何で、私はこんな時に起こされたんだろう……。もうそれなら、ゆっくり眠っていたかったよ……」

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