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あはれ冬の寒空

作者: わたし

 

俯きながら街を歩く。

この旅に目的地はない。大した意味もない。ただ、自分のことが無様に思えて逃げてきたのだ。

近頃私は、自分のことがよくわからない。他人に対し、否定的なことしか頭に浮かばないのだ。そんな自分が嫌で逃げだした。

 

ふと、横を見ると畑にかかしが立っていた。かかしは、ぼろぼろの布をまとっただけの状態で突っ立っていた。

「やい、木偶の坊。」

かかしの姿が無性に愚かなように見え、気が付くと私は罵声を浴びせていた。

「お前はいいよな。突っ立ってることだけが仕事なんだもの」

かかしは、私の罵りなどみじんも気にしていないような面して飄々と立っていた。何故か、かかしの顔が私を心配しているかのような顔に見えたので、私はいたたまれなくなりその場から立ち去った。ちょっと歩いたところで振り返ってみると、かかしは、ぼろぼろの服を風に吹かれながらも力強くたっていた。かかしの服は、どんなブランドよりも高価に見えた。


また少し歩くと今度は小さな池にたどり着いた。池の中には小さい魚が数匹いるのみで、他には何もなかった。特段水が濁っていたり透き通っているわけでもない。それなのに私はその池にくぎ付けになっていた。ただの子魚が、ひどくまぶしく見えたのだ。そして数分見てひどく悲しい気持ちになった。逃げ出した時と似た感情を抱いた。しかし、決定的に何かが違うことを頭の片隅で理解していた。私は用事は済んだとばかりに池から歩き出した。


池からかなり歩いたところで、疲れ切っていた私はちょうどいい大きさの木を見つけその根元に腰掛け休むことにした。

気づかぬうちに浅い眠りに落ちた私は、夢のようなものをみた。私が小さいころの記憶。母を亡くした私が泣いているのを慰められる記憶。

人は、つらいことは自分で乗り切らなければならない。自分を救えるのは自分しかいない。幼いころに母を亡くし子供ながらにそう考えていた。けれど、光を指してくれるのは他人でもいい。光に向かい歩くことを自分でするのだと気づかせられた時の記憶。


夢から覚め、妙に心地よさを覚えながらも、まぶしい西日に眉をひそめ、額に手をやり上を見上げると思わず笑みがこぼれた。

「おまえだったのか。この旅に目的地は、意味はあったのか」


腰掛けていた木の枝先には、ピンク色のつぼみがほほ笑むように、咲き誇る未来が待ちきれないかのように身を寄せ合って生っていた。

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