表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

黒猫虎 ホラー

「呪いのラジオってさ、呪いのビデオに比べたらそんな破壊力なくね?」と煽ったらラジオさんが本気を出してきた件。

作者: 黒猫虎

この作品は「夏のホラー2022」参加作品です。

ホラーといっても『ホラーコメディ』なので、怖さはマイルドです。ご了承下さい。



       1



 俺の名前は塩田カオル。

 花の(?)中学2年生だ。

 そして駆け出しのミーチューバーである。

 これから初の生放送ということで、いっぱしに緊張しているところ。


 現在時刻は深夜1時59分50秒。

 待機しているリスナーは4人か。

 超マイナーチャンネルだからこれは仕方ない。


 ……2、1、深夜2時ジャスト。


「はいっ。今日も始まりました。カゲオのボッチラジオ。ていうか今回はぼくカゲオの初の生放送です。リスナーの皆さんよろしくね。あー緊張する」


 一応、カゲオというのは自分でつけたミーチューブで名乗る為のニックネーム。

 クラスで俺が陰キャ扱いされていることから付けてみた。

 ちな、カゲオの時は「ぼくキャラ」だ。


 それと「ボッチラジオ」の方はクラスに友だちが1人もいないからです。

 言わせんな恥ずかしい。

 ちなみにチャンネル名にラジオと付いてはいても、ミーチューブは動画配信サービスなので映像もありだ。

 顔が見えないように変なお面を着けるのは御約束。


「今日のカゲオネタはコチラです。じゃじゃんっ『(のろ)いのラジオ』」


 と俺が取り出したのは、本体がプラスチックで出来た片手に持てるくらいの黒の小型ラジオ。


「少々いわく(丶丶丶)があるこちらの『呪いのラジオ』、このたび学校のクラスメートから入手に成功しました。やったね!」


 おどろおどろしくカメラにラジオを見せる俺。

 おっと、早速コメントがキターー。


「ゆるきゃん必殺さんコメありがとー。『普通のラジオにしか見えない件』――たしかに。ぼくにもそう見えます。というか、絶対にそうあって欲しいっ。呪いの内容は聞いたのがあるのでこれから説明しますね。あ、またコメント来た。またまたありがとー」


 1つコメントを紹介してるあいだに早くも次のコメントが。

 生放送初だが、コメントがこんなに来るもんなのかね?

 呪いのラジオとか押し付けられて、ビビってテンションだだ下がってたけど、リスナーさんたちのおかげで少し元気が戻ってきたぞ。


「ふらっぴいでぃすけっとさんコメありがとー。えっと『呪いのラジオを【入手】って格好つけてるけど、ただ不要品のゴミを押し付けられただけですよねワロス』って……え。押し付けられていたのなんで知ってるの。ふらっぴいさんその場にいましたか? もしかして、ぼくのクラスメートですか?」


 クラスのカーストナンバー2から処分を押し付けられたのは、正にその通り。

 だが――――ラジオを裏返してカメラに見せる。


「いちおー、背面側にお(ふだ)なんかも貼られたりするので、呪いのラジオというのは今のところ本当の可能性が高いです」


 しかもなぜかこのお札、黒の太いマジックで二重線が引かれて文字が消されてるんだよね。

 これはバチ当たりの予感しかない。


「たけゆう絶対殺すさんコメありがとー。『呪いのラジオを押しつけられるなんて、カゲオさんは学校でいじめにあってるのですか』――――うーん難しい質問ですね。これってやっぱり一種のいじめなんですかねー? もう学校行くの止めようかなー」


 と、コメントがたくさん来るのは嬉しいけど、それにいつまでも付き合っていては時間が(丶丶丶)来て(丶丶)しまう(丶丶丶)ので、話を進めることにする。





       2



「えー。先ほど『少々いわく(丶丶丶)がある』と言っておいて、さっそくネタバレぎみ感はありますが、実はこのラジオ呪われています。この呪いのラジオをぼくに渡してきたクラスメートからその『呪い』に関する詳しい話を聞いてメモにまとめてます。少し読んでみますね」


 俺は用意していたメモ用紙を取り出し、リスナーの皆に良く見えるようにする。

 ちな、俺の字は割りとミミズが這ったような字だ。


「この呪いのラジオの【呪い】とは。彼からラジオと共に入手した情報によると……

『このAMラジオは、』

 FMじゃなくてAMラジオの様ですね。

『このAMラジオは、午前2時14分、周波数を11XXに合わせると、存在しないチャンネルの深夜放送の音声が聞こえてくる』

 まじかー、それは怖い。

『約10分の深夜放送の番組の内容はニュースだったり時にはお笑いだったりだが、その内容は重要ではなく、』

 ……内容重要じゃないんかい! 関西圏の人すみませんエセ関西弁でました。

『番組終了後の時報が大切である』

 時報というとアレですかね。中学二年のぼくでも分かりますよ。ピッピッピッピーン! ていうやつですよね」


 俺がメモを読み上げてると、リスナーも4人から10人まで増えていて、コメント欄も「おらワクワクしてきたぞ」とか少しずつ賑わいを見せていた。

 気を良くした俺はさらに軽快な口調を心がけてメモの続きを読み上げていく。


「『時報で告げる時刻が例えば10時なら、あと10人にこの呪いのラジオを回さないといけない』

 ……ほほう?

『呪いのラジオを次に回さなかった場合その人の元には、とても恐ろしーいナニカがやって来てとても恐ろしーい目にあって死にます』

 うわー、ヤバいですね! あれ、でも最後の10人目はどうなるんでしょうね。気になります。あ、次に書いてました。

『最後の人は……そのまま、とてもとても恐ろしい目にあって死にます』

 あはは、そんな気がしてました! これは絶対ラスイチにならない様に気を付けないといけないですね。

『一度ラジオを受け取って放送を聞いた人は再度受け取ることはできません。このルールを破った場合、渡した方と渡された方の両方が死にます』

 なるほど、これは人口少ない村とか国だとヤバいルールですね。

『自分が時報聞いたとき時報は1時だったから塩……ゲフンゲフン、カゲオは0時』

 ヤバい、危うく本名出しちゃうところでした」


 お、生放送のリスナーが、さっきの10人から20人まで増えている。

 誰かクチコミとかしてくれてるのかなー。

 コメント欄は「草。しお……って本名の一部じゃね?」「塩川クンか塩山クンか塩見クンちーっすww」「おい中学生、個人情報気を付けろんww」「0時wwwカゲオ氏絶体絶命ワロスwww」「これはカゲオ最初にして最後の生放送記念日」とかつてない好印象のようだ。

 ここでまたひとつコメント読み上げてみるか。


「猫とゴジラが合体したらにゃじらさんコメありがとー。『カゲオが0時ってつまりどういう意味?』これはさっきの例でいうと、ぼくが最後の10人目ということなんですね。ぼくは最後の人なので誰にもラジオを渡すことが出来ずに、とてーも恐ろしい目にあって死ぬということです」


 そういうことなのだ。

 今日の昼休みにクラスのカーストナンバー2である杉本タクミから、教室の中で何も言わずに呪いのラジオを手渡された。

 不審に思いながらもラジオを手にしてしまった後に聞かされた話がコレだ。

 もちろんクラスの皆で大爆笑。

 俺もニヒルに苦笑を浮かべながらクラスメートの笑いをやり過ごすしかなかった……


 もうひとついけるかな?

 ギリいけそうなので、あとひとつコメントを読み上げてみよう。


「織田ノブオ内閣さんコメありがとー。『これからカゲオさんが深夜放送を聞くところワイたちはただ見守るだけ? 何かワイたちに出来ることはある? 完全にいじめ認定案件だからクラスメートの名前晒してくれたらワイはリアル弁護士だから動けますよ(本気)』――――うわ、これは嬉しいコメキターー。ありがたいですね。14年間の人生で一番嬉しいです」


 大げさに目元を押さえて見せてみる。

 あっ、ほんの少しだけ本気汁(なみだ)出た。


「万が一の時は個人情報満載の最後のメッセージを予約投稿しているので、その時は織田さんよろしくお願いします。一応言っておくと、ぼくはあきらめたわけではありません。これから呪いのラジオと死ぬ気で戦おうと思っています。リスナーの皆さんにはぼくを見守って欲しい、応援して欲しいと思っています」


 ここで一呼吸置いてみる。

 コメント欄は「死ぬ気じゃんw」「見守るのは任せろ」「復讐もマカセロン」「今ならまだラジオを捨てて逃げれるぞ」「いや無責任なこというな」「漏れらはこのチャンネル見てて呪われたりしない?」「それアリエール(商品名)。呪われるかもな」「怖いヤスは逃げてヨシ」などさらに盛り上がってきている。


 気がつけばリスナー数も50人になっていた。

 な、なんと今までの閲覧最大数の記録を越えている。

 こんな時にだが、ミーチューバーとしての達成感を感じてしまう俺であった。


「さて、そろそろ午前2時14分が近づいてきました。リスナーの皆さんの安全も保証は出来ません。気になる方はここで視聴をストップするのもアリかと思います。……そして、問題の深夜放送は本当に始まるのでしょうか。もしガセネタで、何も起こらない時はごめんなさい。その場合は中学生男子が裸になって踊りますので許してください」


 この軽口には、コメ欄も「おい児童ポルノ」「ここまで来たら一蓮托生!」「ガセネタの場合は皆でクラスメートに責任を取ってもらいましょう。社会的に金銭的に物理的に」「釣られたクマーさせてください(´(ェ)`)」「生還祝い殺りましょう」「おい字が違う(ヾ(´・ω・`)」と生暖かいコメントが多く、追加の本気汁が溢れだしそうになった。


 リスナー数は66人か。

 無音だったラジオに「ザ……ザ……」とノイズ音が入り始めたのはその時だった。


 時間か。


 午前2時14分。





       3



 唐突に、本当に深夜放送が始まった。


 番組は普通だった。

 番組中、俺は深夜放送の内容に何かヒントがないか集中して聞いていたのだが、普通に2人の男女のパーソナリティーが他愛のない会話をしたりリスナーからのメッセージを読み上げたりする内容だった。

 ただ、その中で取り上げられる話題はどれも聞き覚えがないものばかり。

 内容は普通だがどこか違和感を覚える、そういう印象を持った……



 約10分という時間は集中していた為にあっという間に過ぎ去っていった。


 もうすぐパーソナリティーの終わりの挨拶で番組が終了する。


 この後、本当に時報が鳴ったりするのだろうか。


 実際の現在時刻は午前2時24分。


 時報が鳴るには中途半端な時間だ。



 放送終了までもう少し。



 何事もなく終わりになるかもしれない。



 謎の深夜放送が聞けたことで、完全なガセネタだけで終わることも回避できた。



 平和に終わるのなら、ここで何事もなく終わるのが1番だ。




 最後のエンディング曲が流れ始める。




 息を止めて待つ俺。




 その時だった。




  ジ、ジ……




 エンディングに不快なノイズが混じり始めたのは。




 そして、




 急に無音に切り替わったかと思うと、




  チッ、チッ、チッ




 思わず、俺の体がビクッと震える。




 ラジオから、その『時を刻む音』が聞こえてきた。




 時報の予告音だ。







 横目で見るとミーチューブのコメント欄が「ヤバい」「ヤバくね」「カゲオさん逃げてーー!」といった書き込みで溢れかえっていた。






 俺とリスナーの皆が固唾を飲んで呪いのラジオを見つめる中、




 その時はやって来た。






  プ、


   プ、


    プ、




      ピーン!





        チッ、チッ、チッ……






「ザ、……ザ……只今の時刻、午前0時になりました。午前0時をお知らせします……」








       4



 本当に0時の時報が鳴った。

 鳴ってしまった。


 放心しかけた俺だったが、こうなった時の予定の行動を前もって考えていたのを思い出す。


 ここからは時間の勝負になるかもしれない。

 俺はリスナーに向けて再び語りはじめる。


 ふと気づけば両腕がブワッと総毛立っていた。


「えー、皆さん。ぼくが恐れていた深夜放送と0時の時報ですが、両方とも起こってしまいました。もちろんこれだけで終わる可能性もあります。もしかしたら、このラジオを渡したクラスメートのイタズラの可能性が無いともいえません。ですがぼくはこのラジオが本当に呪いのラジオであると考えてこれから行動していきたいと思います」


 震える手で、ペットボトルのスポーツドリンクを飲む。

 喉がひどく渇いている。

 500mlの3分の1を一気に飲み干した。


「色々ぼくなりに用意したり考えていた対策をやってみようと思います。一応ぼくの手元には近所の神社でもらってきた御守り、そして塩があります。でもクラスメートから聞いた噂から推測すると、何の意味も持たない気がします。そこで思い付いた作戦なのですが、――――ぅ゛あ゛っ゛!?」




  ヂヂヂ……ヂ…ヂ



 最初の異変は、部屋の白色蛍光灯がチカチカ点滅を始めた事だった。

 そして、



  キーーーン



 続けて、強い耳鳴りが襲ってくる。


 俺は思わず両耳を塞ぐ。


 ミーチューブのコメント欄を見ると、俺以外のリスナーにも耳鳴りや体調不良をうったえる人が出ているようだ……?




「うぅっ、蛍光灯の点滅が見えるでしょうか? あと、酷い耳鳴りが来てます。やっぱりマジのヤツの様です。皆さんにお願いしたいのは、何か画面に変なモノが映ったり、何でもいいので気づくことがあればすぐに教えて欲しいです」



 なんだか、部屋の温度が明らかに低くなっている。


 寒気が――


 耳鳴りだけじゃなく、息のしづらさまで感じてきた…… 



「さて、こうなった時の為に用意していたぼくの作戦を説明しようと思います。超単純です。(あお)ります。呪いのラジオをディスって煽り倒します」



 相手はホンモノだ。

 蛍光灯はいまだ明滅を繰り返している。

 全身の毛は総毛立っている。


 俺ひとりだったらこの恐怖に呑まれて終わりだったろう。

 だが、今の俺には自分のチャンネルのリスナーたちが付いている。

 こうなったら、やるしかない。

 やっている。



「――――あっ、片手フライパンマンさんコメありがとー『絶対ヤヴァイからヤメてください』ごめんなさいやめません、でも応援よろしくお願いします。ミスマッチ売りの売人さんコメありがとー『煽る意味を教えてください』えっと、勘です。フツーの対応だと呪われて死ぬ予感しかしません。なのでぼくなりに考えた作戦で足掻きたいとおもいます。同じ呪われて死ぬならやれるだけやってからにしたいと思います……」







       5



 俺は勇気を振り絞り、呪いのラジオを顔の高さまで持ち上げ、煽っていく。


「あー。ラジオってビデオと違ってダビングとか出来ないしさ。テレビと違って画面からも出てこれないし全然怖くないんだよねー。怖がって欲しいならビデオかテレビに生まれ変わって出直してこいっつーの!」


 前もって考えていた文章に感情を込めて一気に言い放つ。



   キィーーーンン


    パチッ パチッ パチッ



 ヤバい、耳鳴りと蛍光灯の明滅がさらに強く……

 しかし、俺はもっと煽っていく。

 


「あ゛ーあ゛ー。ていうか、今どきラジオだけはないよねー。古すぎて全然怖くない。せめてテープレコーダーつけてくれないと。ねーやる気あんの。ラジカセに生まれ変わって出直してくれないかな。ところでラジカセって知ってる? 時代遅れのラジオさん!」



 耳鳴りに負けじと煽りを続けると、急にラジオが「ザ……ザ……」と音を発したかと思うと、ラジオ本体にモヤがかかったようになり、視覚的なノイズまで感じはじめる。

 蛍光灯の明滅もさらに、パチィ、バチィ、と激しさを増す。



(な、なんだ……?)



 するとその時だった。



 両手に持っているラジオが、俺の腕の中で一瞬ブレたかと思うとラジカセに変貌していた。



「ひぇっ」



 思わず変な悲鳴を上げてしまった。

 そして……



  ガ チ ャ ン


   キ゛ュ゛ル゛キ゛ュ゛ル゛キ゛ュ゛ル゛……



 呪いのラジオ改め呪いのラジカセは、生まれ変わったことを誇るかのように、不気味な音を立てながらカセットテープを回し始めた。



 恐怖に負けない様にミーチューブのコメント欄を確認する。

 すると「一瞬画面ブラックアウトしたヤバい」「最近の中学生の特殊映像技術ハリウッド越えたな」「本物にしか見えんスゴす」「急にモヤったらラジカセになっていてワロスw」「ラジオさんが少し本気出してきた件」「カゲオのディス効いてる証拠」「ラジカセwwww昭和wwww」「今の世代ラジカセ知らない件w」「このままCDラジカセまで進化してもらえwww」といった書き込みで盛り上がってくれてるようだ。



 更に、リスナー数が……いつの間に500人超えてる!?



 俺は最初に期待していた以上の勇気をもらった。



 もしかしたら同世代の女の子が見てくれている可能性も否定できない。



 カッコ悪い姿は晒したくない。



 両手に持つラジカセはいまだに不気味にキ゛ュ゛ル゛キ゛ュ゛ル゛とうなっているが、俺は更に煽っていく。




「ラジオって音だけで姿が見えないから全然怖くないんだよねー。呪いのテレビとか画面から出てこれちゃうんだぜ。あんたも悔しければ姿を見せてみなよっ、と」




 さんざん煽った後、自室の窓を開けて階下の庭にラジオを放り投げた。



 俺のこの行動にはミーチューブのコメント欄も「おい中学生www」「不法投棄は草」「呪いのラジオさんになんという所業w」「ラジオさんも当惑」「絶対呪われたわ」「既に呪われてる件」といった書き込みで盛り上がってくれているようだ。



  ド ン !




 その時、階下から壁を叩いたかのような大きな音が響く。




  ド ン !

   ド ン !

    ド ン !

     ド ン !




 ナニカが階段を上がってくるのが分かった。


 ドアの向こうに重い気配を感じる……



   パチィ バチィ バチィィッ



 蛍光灯が激しく明滅する。

 そして、部屋のドアノブが回された。




    ガチャ


      ガチャガチャン




「あうあう」





 恐怖からくる意味不明な喘ぎ声が俺の喉からもれた。





  も、う、ド、ア、が、あ、く――――





 ドアが開く、その瞬間を幻想していたのだが、しかしドアは開かなかった。





「……?」





 疑問に思いドアを注視している俺。



  パチィ バチィィ バチィィィッ



 部屋の蛍光灯の明滅は続いている……



 幾度となく繰り返される明滅の中、





 俺は気付いた。






   バチィィィッ






 既にこの部屋に、






 白い服の女が立っていることを。






 俺の後ろに。










「ひぁっ!?」







 その女の顔は、およそ正常な人間の顔と思えない顔をしていた。


 両手が不自然に長い。


 両目は深い穴のように見える。


 右手には俺が捨てたあのラジオを持っている。


 悪霊の顔だった。




「ひぃぃっ!?」




 煽るのを忘れて恐怖に震える俺に、悪霊女が迫ってくる――――



 あ、



 俺終わった。。
























 目の前の鼻先が付きそうな距離に、白い女。



 あのラジオを手に持っている。



 受けとれ、ということなのか?





 まだ終わっていない。



 ラジオを受けとる。



 これからどうなるのか?



 見上げたら終わりかもしれない。



 横目でパソコンの画面を確認しながら、俺は実況を続けた。



「み、皆さん、見えていますか? 今ラジオを持った白い女が部屋に入ってきて、ぼくの目の前にいます!」



 これにはミーチューブのコメント欄は「いや、何も映ってないぞ。ノイズは酷いが」「やはりフェイク映像?」「ドアノブが回っていたかと思ったらカゲオの後ろに黒いシミがわいていた」「ホントだ」「なんかさっきから映像のノイズがひどいのは漏れとところだけ?」「あ、カゲオ氏が持ってるラジオ! これさっき捨てたラジオじゃね?」「さっき窓から捨てた呪いのラジオが戻ってきてる! 超コエーー!!」といった書き込みで返してくれた。




 もしか、白い女の姿はリスナーさんたちには見えていないのか。



 だが、こうやって姿を現したということは、やはり俺の煽りが効いてるのかもしれない。



 ということで、俺は更に煽っていくことにする。



「ああ、ごめんなさい。ラジカセも古くて怖くないなー。やっぱり今どきはスマホアプリでラジオ聞くから。呪いのラジオさんもスマホアプリだったら怖いんだけどなー。アプリだったら世界中の人を一気に呪えるからかなり怖いなー」



 絶体絶命の状況だが、俺は必死に煽っていく。


 スマホを取り出し、白い女に見せる。


 前もって入れていた有名なラジオアプリを指し示す。



「呪いのラジオさんこれ見えますか? スマホのラジオアプリ。ラジ□。呪いのラジオさんもこんなスマホアプリにならないと全然怖くないなー」



 嘘です。


 全然怖いです。


 鳥肌MAXです。




 ミーチューブに映し出されている映像には白い女は映ってない。


 だが、俺の頭の位置が、先に呪いのラジオからラジカセに変わった時の様に、不自然な黒いモヤとノイズが発生し始めていた。



 ラジカセも俺の腕の中で回転の勢いを増していく。



  キ゛ュ゛ル゛ル゛キ゛ュ゛ル゛ル゛キ゛ュ゛ル゛ル゛……


  キ゛ュ゛ル゛ル゛ガチャン


  キ゛ュ゛ル゛ル゛ガチャン


  キ゛ュ゛ル゛ル゛ガチャン……





       6



 その時、スマホがブルッと震えた。


 あっ。


 俺のスマホに、正体不明のアプリがインストールされていた。

 アイコンは黒いラジオ。

 アプリの名称は……文字化けしていて読めない。



「リスナーの皆さん、見えましたか? たった今、ぼくのスマホに呪いのラジオアプリが勝手にインストールされました。呪いのラジオがアプリに進化した瞬間です!」



 これにはミーチューブのコメント欄は「お、おう……」「凄いけどアプリじゃない方が怖い件」「でもアプリの方が拡散力は高いかもしれないね」「そのアプリどこからダウンロード出来るの」「インストールしたら最後、アンインストールできなさそうww」といった書き込みで反応してくれた。

 これなら俺の期待通り、最後の作戦にも協力してもらえるかも?

 


 俺は最後の煽りにかかる。



「スマホアプリ超怖ェー! ところでダウンロードどこからできるの? 怖すぎてたくさんの人を道連れにしたいから、ラジオさんダウンロード方法教えて! あー、超怖ェーー……けどダウンロードできないんじゃ全然怖くないなぁーー」



 いまだ恐ろしくて顔は直視出来ないので、彼女の腰あたりにチラァ、チラァと視線をやっていると――
















   ピコン






ノ□コ・0分前

ダウンロードURL → https://noroinorxxxxxoiradio.com/noroinorxxxxxoi.app




 ――来た!


「あっ、リスナーの皆さん。ノロコさん? 呪いのラジオさんからアプリのダウンロードURLがコメント欄に投稿されました。有志の方、呪いが怖くない方、自己責任になりますがこちらからダウンロードとインストールをお願いいたします。拡散もお願いいたします」


 現在、リアルタイムのリスナー数は――――1500!?


 ダウンロードURLから、アプリのダウンロード数も確認出来た。


 その数なんと――――2000!?


 いや、2500!?


 うわ、3000!?!?


 その数はリスナーの数をあっさり抜き去り、ドンドンと数を増していく。



「みんな拡散ありがとーー! 事後の説明で申し訳ありませんが、ぼくの作戦は、呪いを広めまくって、呪いの効果を薄めようという作戦でした。リスナーの皆さんの力でもっともっと拡散お願いします!!」



 これにはミーチューブのコメント欄は「頑張れ! コ□ナと一緒で、広まったら呪いも薄くなると思う」「SNSで拡散しまくったはw」「心霊研究家と、心霊否定派の研究者両方にDMしたったww」「彼女と家族のスマホにも勝手にインストール完遂しますたwww」「おま犯罪すぎて草枯れる」「外国のコミュニティにも英語で拡散しといたよ」「勇者あらわる」「勇者さん乙です」「Japanese NOROI radio girl is very cute!」「Are you blind!?」「ไม่อยากเชื่อเลย」「كيف القديم هو أنها」と国際化の兆しを見せていた。







 もうここまでやれれば、呪われて死んでも悔いはない。







 ウソだ。


 俺、かわいい彼女がほしかったな……





 俺の部屋にいる呪いのラジオさん本体が、


 ゆっくりと腰を低くし始めた。


 俺と目の高さをあわせてくる。



 両手を俺の頭に添えて、目を反らせない様にしてくる。


 目も閉じれない。



 いつの間にか、ラジカセのギュルギュルといった音は消えていた。



  チッ、チッ、チッ




 両手に持たされたままのラジオからは、



 また時を刻む様な時報の予告音が聞こえてきた。



 俺の顔にくっつくくらいの至近距離に、



 白目の無い白い女が俺の顔を覗き込む。



 目を閉じれない俺は、必死に目を反らしながら、



 最後の煽りを始める。





 いや、予定通り、最後は煽りではなく敗北宣言だ――――





「――――呪いのラジオアプリさん、超怖いです。完敗です。ハンパないっす。アプリインストールした人、全員イッキに呪い殺しちゃうんですよね。最恐です。参りました。ごめんなさい。許してください」



 呪いのラジオさんが『ユルス? ナニソレ?』といった感じで、一度だけ首をかしげた。



 もちろん。呪いのラジオさんが許すワケは無い。






 その時はやって来た。





  プ、


   プ、


    プ、




      ピーン!





        チッ、チッ、チッ……






「ザ、……ザ……只今の時刻で時間切れになりました。時間切れになりました……」




 ゾゾワッ、と俺の上半身に悪寒が走る。




 呪いのラジオさんが、俺の口を開け、中に入り込もうとしてきた。




(入るわけないだろ!)




 声にならない俺の叫びも虚しく、ラジオさんが中に入ってくる。




  入ってくる。入ってくる。入ってくる。




   はいってく








 。





 。





 。





 。





 。





 。














       7



「はいっ。今日も始まりました。カゲオのボッチラジオ。ていうか生放送もだいぶ慣れてきました。いやー、これもリスナーの皆さんのおかげで命拾いしたおかげです。本当にありがとうございます!」



 俺は生き延びた。


 スマホアプリに進化して世界中に拡散する手助けをしたおかげなのか。

 それとも、世界中に呪いを広めたことで、呪いを薄くすることに成功しとからなのか。


 どうして生き残ったのか色々と説はあるが真実は分かっていない。



 呪いのラジオアプリは世界中に広まった後、特に何事も起こらず、自然に消えていったという。

 あの放送の動画もミーチューブのアーカイブに残っておらず、幻の放送となっていた。


 世間では集団幻覚、ということになっているようだ。




 一応何人かの心霊研究家からは、取材の申込があった。

 今のところは断っているけどね。



 なんでかって?

 だって、俺、ただの中学生だし。



 あと今回の件でスクールカーストも少しだけ良くなった感じだ。

 俺に何かあれば、リスナーの皆が動いてくれることが、学校の連中にそれとなく伝わったのかもしれない。

 この前なんかカースト上位の女子に「そこちょっとどいてくれる?」「ああいいけど」って感じで会話もできた。

 もしかしたら始まってるかもしれない(ナニが)。



 というワケで、ここんとこの俺は平和的な一般中学生スローライフを満喫している。






「さて、ここでリスナーの皆さんからのコメを紹介していきましょう。水面の下でも必死に動いてない白鳥さんこんばんは。『この前、少し気持ち悪いアプリを拾いました。カゲオさんも一回ダウンロードしてみてプレイしてみてください』え、マジで気持ち悪いし怖いですね。ですがリスナーさんあってのカゲオですから、本気で怖いですけどダウンロードしますね」



 アプリのダウンロードURLをスマホからタップする。





「……」



 スマホがブルッと震えた。


 アプリのダウンロードが終わった。



 ポリゴン崩れのように乱れてはいるが、白一色のアイコンだ。



 アイコンの下に表示されている、ところどころ文字化けしているアプリの名称を確認する。





  ノ□コ ヴer.2.ゥ■.dァ■6■Φ






「え。……え?」









 ~ END ~















(注)この作品における人名地名エピソード等は完全なフィクションです。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓『亡くなった妻が駅のホームで線路の方に引きずり込もうとしてくる件。』↓
亡き妻に愛され過ぎた主人公の運命……
※閲覧注意
手
▲イラスト制作猫屋敷たまるさん

↓『深蠢■駅(R15版)』↓
女性専用車両に乗った主人公の運命……
※閲覧注意
渋谷真莉子
▲イラスト制作猫屋敷たまるさん

ノロインクエスト
「ノロインクエスト」作:黒猫虎


応援バナナ
▲バナー制作秋の桜子さん

応援バナナ
△バナー制作秋の桜子さん

応援バナナ
△バナー制作塩谷文庫歌さん

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] ホラーとコメディー良い具合にブレンドされていてとても楽しめました。オチも良かったです。涼しくはならなかったけど。 あと、情報量が適度で読みやすくて、スルスルと読めました。
[一言] ラジオが進化していくのはマジで怖かったです。 けど、最後は生きれて良かったー! と思ったらまた来ましたね……。 だけど、カゲオくんとリスナーなら大丈夫! 乗り切れると信じます! でも、ラジオ…
[良い点] 煽られて対抗心燃やすノ□コさんカワイイ(笑) 「庭にラジオを放り投げた」辺りからの恐怖感の高まりがよかったです。怖い。 リスナーとのやり取りで自分以外の視点も加わっているのがいいですね。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ