80.護送の前に・・・
アラスタ村に到着後すぐ、僕はキューに乗って深森の奥、エールベアの巣の前にやって来た。
ファムール王国で話したエールベアとお話が出来ないか試すためにだ。
安全第一なので、キューには“ひとりけっかい”をかけ、僕には初代“ひとりけっかい”だった“でゅーんよろい”をかけた。
いきなり巣の前に現れた仔馬と人間の子供。
エールベアにとっては鴨がネギ背負ってやって来たようなものだ。
僕は涎を垂らしながらいきなり襲ってくると思っていたが、エールベアは威嚇しながら巣穴の中へ誘導するような動きをしている。
「キュー、あのクマに話しかけてみて。」
『くまさんこんにちは。』
エールベアは“くまさん”に反応し、“ガウガウ”言っている。
『じゃー“えーるくまさん”こんにちは。』
キューは相手をあおるのうまいな。
“ガウォー!”
何か叫びだした。
そうしたらすぐに、巣の中からたくさんのエールベア…もう“熊さん”で良いや、たくさんの熊さんが出てきて、美味しそうな僕達を取り囲んだ。
僕は右手の指先だけ“でゅーんよろい”を解除して、無造作に最初の熊さんへと近付いて行く。
危険があれば指を内側に握れば良いからね。
警戒も、敵意も発していない人間の子供が群れのボスに、恐れもせず近付き、そのまま指先を熊の体に触れ、“かいわする”と魔法を唱えた。
熊さん光ったよ。
[僕の言葉分かるかな?]
・・・・
[もしもーし、熊さーん。]
『誰が“熊さん”じゃ!俺はエールべのボスだぞ!食い殺したる!』
[あぁー、エールべのボスですか。名前は無いの?]
『名前なんかねーよ!ボスはボスだ!』
[じゃー“ボス”さんで良いかな?]
『・・・え?俺の言葉分かるのか?』
[魔法でお話できるようにしたから大丈夫みたいだよ。]
『マジか?ほんとうか?』
[うん、マジマジ、本当だよ。でも僕達は“エールベア”って言っているけれど、本当は“エールべ”って言うんだね。]
『そうか、俺たちの言葉分からないからそう言っていてのか。』
[そうだと思うよ]
『“エールべ”に“ア”を付けると俺達には“間抜けなエールべ”って聞こえるんだ。そりゃー腹立つだろ。』
[へー森の動物たちは皆“ア”つけると“間抜けな”になるの?]
『まーそうだな。で、お前たちは俺たちに食われに来たと、それで会っているな』
[いや、ただお話したくて来ただけだから。]
『最期の話という事だろ?』
[話が出来て、僕達と協力出来たら良いなーって思ってね。]
『協力してお前たちが定期的に食べられに来てくれれば考えてやっても良いぞ。』
[あぁ、それって“考えない”と言っているのと同じだね。]
『減らず口を。痛い目というよりまずは食ってしまうか。』
[多分無理だよ。]
『あばよ。』
“グシャ!”
ジョンに振り下ろされた熊さんの手。
魔法“でゅーんよろい”の効果でジョンの上から人型で熊さんの手に穴が開いた。
地面についているいる熊さんの前足。
その手の甲から生えている人間の子。
[痛そうだね。]
『ウオーーーー!!』
[治してあげても良いけれど、もう僕達に攻撃してこないと誓えば考えてあげても良いよ。く・ま・さ・ん・ア・♡]
『ふざけるな!』
反対の手で薙ぎ払おうと振って来た。
“すぱーん!…ドサッ”
熊の手首から掌だけ切り離され飛んで行った。
[うわー痛そう。]
そう言いながらボス熊さんに近寄って、そのままズイズイ押して行く。
『なっ!、くっ!、えっ?』
群れの中央から巣の中へ押し込んだ。
振り返り残りの熊さん達を見まわす。
その中一番体格の言い熊さんに歩み寄り、右手の指先を付け“かいわする”の魔法をかけ話をする。
[たぶん君が2番目に強いと思うけど合っているかい?]
『ボスが…』
[“熊アさん”聞こえる?]
あおってやる。
問答無用で横薙ぎ払いをしてきたNo.2 。
結果は左右とも熊の掌が飛んで行った。
僕は残りの熊さんをぐるりと眺めた。
1頭だけかなりお年を召した個体に気が付き、その熊に近付く。
「“かいわする”」
[お話できるかな?]
『ああ、できるみたいだ。』
[もしかして長老さんだとかかな?]
『そうだな。』
[で、僕達に攻撃してこないでくれるかな?]
『わかった。約束する。』
もう一度他の熊を見渡す。
僕と目が合った熊は皆怯えていた。
ボスを押して巣に返しただけなのに、へこむなー。
[人間の盗賊の居る所って分かるかな?]
『いや、いつもは見つけたら狩る…食べてしまうからそういうのはわからないな。』
[オオカミとはどんな関係なの?]
『オオカミ?フォルフという群れをなす犬どもとはお互い距離を置いている。奴らは何百という数で反撃してくるから、一応お互い敵対しないという同盟を結んでいる。』
[じゃぁオオ…じゃなくフォルフのボスに聞けば良いんだね。]
『そうだな。』
[ボスたちの手、今は取れちゃったのは仕方ないから、一応治療しておくかな?]
『出来るのであればおねがいしたい』
掌を失った2頭の元へ行き、“えぇーゆだなぁー”をかけ傷を治した。
単独魔法の為再生はしない。
No.1もNo.2も傷が治ったとたん、仰向けに転がり、腹を見せ
『『あなた様に絶対服従します。』』
だってさ。
[後で何人か人を連れてくるから襲わないでね。]
『『我々一同守ります!』』
[それじゃー、次来た時その手元に戻してあげるから、少し我慢してね。]
と言い僕はキューに乗りアラスタへ戻って来た。
魔王様にアラスタ近くの森の熊さんに協力をお願いしてきた事を伝えた。
「ほぅ、“エールベア”は本来“エールべ”というのか。オオカミは“フォルフ”か。“~ア”は“間抜けな”か。」
「だっていっていたよ。」
「マジか、ジョンは“エールベア”も従えてきたのか。」アレック
「“エールベア”じゃなく“エールべ”ね。それと従えて来ていないから。」
「まずは森の”エールべ“の所へ行って、掌を治してあげてからソールト寄って、王都へ向かうで良いかな?」
「儂たちにも結界かけてくれるのじゃろ?」
「もちろん!」
昼食後、キューに“らぷ号”を連結。
僕と魔王様とアレック乗り込み、先ほど一度行って来た熊さんの巣穴前に行く。
僕達が到着し、僕が“らぷ号”から降りて行った時には、熊は全部腹を出して仰向けで、服従の姿勢をした。
僕は魔王様と一緒に掌が無くなっている一際大きい2頭の前に行き
[それじゃぁ治してあげるね。せーのーッ]
「「“えぇーゆだなぁー”」」
熊さんの掌が復活した。
仰向けで転がりながらその風景を見ていた熊たちはめ目を見開いて固まっていた。
掌が復活した熊2頭は
『『今後一切人間を襲いません。あなたを大ボスと認めます。』』
だって。
[今回ボス を一緒に連れて行きたいけど良いかな?]
「「『『え゛!』』」」
魔王様とアレック、ボス熊さんとNo2熊さんの声が揃った。
No2は自分が一緒に行きたかったらしくションボリし、逆にボスは残りたかったみたいで落ち込んでいた。
[しばらく一緒に行動するから名前を考えないと…“ロック”で良いかな?]
『ありがとうございます。』
今僕の目の前で伏せをして顎を地面に付けて上目遣いで僕を涙目で見つめるボス熊“ロック”…可愛い。
思わず頭を撫でて“きれいきれい♡”をかけ、毛並みをきれいにした。
ハイ〇-スのワイド超ロングハイルーフ並みの大きさのロック。
僕に忠誠を誓っているので、すんなり“らぷ号”の1階に入って来れた。
“らぷ号”内に残って寛いでいたポムは一瞬ギョッとしたが、“らぷ号”内に入れる生き物は安全と知っていたからすぐに普段通りになったが、エラはギャーギャー騒いでいる。
ポムはエラに”らぷ号“内に入れる条件を数回エラに説明し、騒ぎは収まった。
一応全員に“かいわする”魔法をかけ、ヒト・ウマ・クマの3人+4頭での会話が出来る様になった。
そしてソールトの領主様の屋敷へと向かうのであった。