72.第二王城発進
他領の各町の結界魔法は、王様が予定を立て、それに僕が合流する事となった。
王様は第二王城に乗って移動するのが楽しみにしているみたいだ。
ノードスカー王の馬車は現在4頭引きに見える様になっている。
実際引っ張るのは1頭だけだなので不自然さが隠せない。
結局王城を出る直前に1頭引きに落ち着いて、護衛騎馬を前方6頭後方4頭側方3頭ずつの計17頭の大所帯だ。
第二王城の地下牧場にはまだ23頭の馬が控えている。
そして100人を超える近衛騎士や警備兵・使用人達が乗車している。
宙に浮いている馬車の扉が開いて100人を超える人達と、食材等の大量の荷物と23頭の馬が入って行く様はなかなかにシュールだ。
逆もしかりだ。
一応襲われても中に入っちゃえば、相手の自傷行為で問題ないだろうし、本当の非常事態になれば非常ボタンを押す事により、結界外は非情事態になる事でしょう。
いつもの速度よりやや早く移動する第二王城。
場内の窓から見える風景が移動する
使用人達は一瞬、外の動く風景に見とれていた。
が、はッと気が付き再び元の作業に戻るのであった。
王様の家族全員が乗り込んでいる。
他には防衛大臣一家と財務大臣一家と最初の目的地“レナント領の領主“ゲオルザート・レ・ナント”が乗っている。
名前で判るだろうが、ゲオルザートはアストールの兄だ。
アストールからソナント領の事を知らされていた為、ジョンと会事を楽しみにしてる。
王であるドルフからも犯罪議員を一網打尽にした話を聞いていて、期待が益々高くなるゲオルザート。
この第二王城のあまりの快適ぶりに自分も欲しくなる。
そのジョンという魔法使いは、規模は小さいが既にこの様な乗り物を所有していると聞かされているゲオルザート。
最初、馬車にぞろぞろと馬が入って行くのを見た時は、何が起きているのか理解できなかった。
今は理解しようとせず、ただただ受け入れているだけだ。
移動はしているが振動が全く無いし、右へ左へと曲がってもその感覚が皆無だ。
初乗車の各一家はエレベーターを使い各階を探検している。
トイレに歓喜、風呂に歓喜、外の動く風景や部屋の天井や額縁が外の風景とリンクして映し出される部屋、いわゆる電車のボックスシートみたいな部屋内で歓喜している。
傍から見ても、馬20頭超と100人を大幅に超える乗車人数になっているマイクロバスなんて、臍で茶どころかステーキが焼けてしまう以上の非現実的な状態のである。
第二王城という名の見た目煌びやかな馬車であるキャンピング馬車1台と馬17頭の野営って普通の旅人が見たらどのように思うだろうか。
普通この様な立派な馬車隊では、必ず複数台の荷馬車も同行するはずなのだが、それらが見当たらない。
つまり野営は行わないで、その日のうちに街へと到着するのが当然と思われる隊列なのだ。
が、今の日の高さから鑑みて、かなりな速度で移動しなければ次の街までたどり着けないような位置なのだがなぜか小休止している。
王様達は護衛騎士・警備兵を除く全員が町の外で一晩明かしたいらしく、王都と隣街“エーム”の中間地点で野営にならない野営を決行するのであった。
馬2頭を残し15頭を第二王城床下牧場へと移動。
一応夜間警備の見張り役が4名がそとで警戒する。
野盗が現れたら一旦第二王城内へ退避、野党の自滅による戦力削減の後、数十名の騎士団という過剰戦力による、完全制圧の予定だ。
10頭を超える騎馬隊が馬車の入り口から走り出てくる光景を見てみたい気もする。
何事も起こらず、無事一夜を明かした王様一行は、日の出とともに出発。
昼過ぎにエームの街へ到着した。
エームの市長宅の前に第二王城が到着。
本来市長宅へ王様が行くが、見た目は車輪が無く、宙に浮いている王様専用馬車から王が降りてきて、市長中に入るよう伝えたのだ。
今回は市長が第二王城内2階会議室へと案内される。
疚しい事をしている者は入れない仕様なので、何事もなく馬車内に入る事の出来た市長は、人柄とも問題なしとなり、そのまま会議となった。
そして、結界と建物の補修強化と道路整備というアラスタ化の日程が決まった。
市長は魔洗便器にとても執着していたので、建物の補修強化時に一緒に便器も変わるから大丈夫という事も説明したそうだ。
冷蔵庫・冷凍庫・システムキッチンは6階の現在モデルルームみたいになっている一部屋へ行き説明。
こちらも発注される。
会議終了後、王様一行は次の街“レナント”へと出立した。
今回もやはり途中野営を決行したのであった。
ソールトから王都までの間は結界による街の防衛が完了していない為、このあたりの野盗密度が高くなっているのであろうか、少人数の野盗が日が落ちた直後と夜中と日の出直前と3組襲って来た。
馬車(?)1台に馬2頭の小さいキャラバンなので、どこかの商人だと思っていたらしく、言葉と剣をちらつかせての恐喝しかしてこなかった。
当初予定していた盗賊による“襲撃→自爆→自傷で致命傷の為その場で死刑”とはいかず、対処の為馬に乗って出て行った騎士隊を見た瞬間に武器を放り投げ土下座したので、あっさり捕縛。
野盗は犯罪者の為、第二王城には入れない。
なので僕の所に犯罪者護送専用の何かを考えて欲しいと要望が来た。
急遽僕がソナントの領主様の所へ行き、収穫物運搬用荷車1台に“りにあかぁ”と“ういんどばりあ”をかけ、“らぷ号”の後ろに連結し、王様キャラバン…第二王城へと向かった。
第二王城に合流後、荷車に罪人を乗せ、場内待機組の馬1頭と荷車を繋ぎ、一気に目的の都市“レナント”へと移動する。
僕と領主様とキューと“らぷ号”は第二王城内の床下牧場で休憩とはいかず、6階のゲオルザートさんの部屋に来た。
「久しぶりだな、アストール。」
「兄さんも元気そうでなによりですね。」
「予定より早く顔を合わせる事になったが、移動がこんなに快適になるのであれば、どこでも仕事が出来るな。」
「それで、手紙でも伝えていたが、この子が“ジョン”だ。」
ぺこりとお辞儀をする。
「ほー、この子が…、魔法でこの“第二王城”を作ったのか。」
「結界も便器も他にもいろいろとな。」
「あの貴族連中の慌てふためく様を見れなかったのは残念だったが、ふざけた事ほざいていた奴ら全員罪人決定とは、はっはっはっ!、今度奴らの檻の前で『今どんな気持ち?』って笑いながら聞いてやるか。」
おっ、この人も転生者かな?んなわきゃ無いか。
「おじちゃん、それ良いね。」
「だろ、ジョンもそう思うだろ。」
「ジョンらしいな。」
「えーと“レナント”に着いたら結界だけするの?」
「できればこいつの所と同じようにしてほしいな。」
「兄さん、それだと前もって住民に知らせておいた方が良い。」
「とりあえず、見本をいくつか置いておいて、希望者のリストを作って予定を立てた方が良いね。」
「5歳でここまで頭が回るとは、頼もしいな。」
「えへへへ。」
「領主様、“ソナント”と“レナント”と街の規模はどのくらい違うの?」
「「ほとんど一緒だ。」」
ということはアラスタ化は僕達4人兄弟で何とかなりそうだな。
王都のアラスタ化までで僕の総魔力量が大幅に増えているから、魔王様に手間をかけさせなくて済みそうだ。
いや、魔王様は大量に魔力消費したがっていたから、今回もお願いしちゃおうかな。
レナントに到着した。
“りにあかぁ”と“ういんどばりあ”のかかったままの荷車on罪人なので、高速移動でも荷車から落ちる事は無かった。
「ちゃんと真面目に働いていたらこんな乗り心地の良い荷馬車で冒険できたのか・・・。」
捕まった野盗の一人が呟いた。
今回捕まった他の野盗も頷いている。
留置所へ移送された野盗達。
王様の馬車襲撃の現行犯捕縛だが、何処の誰が見ても王様の一行と見えない状態と、全員初犯と、本人達の深い反省の色がうかがえたため、今回だけは恩赦で死罪にはならなかった。
1年間の罪人による僻地開拓要因ととしてアラスタとは別の方角の僻地へと再移送されて行った。
第二王城は領主邸の正門から入り、邸宅正面玄関前に到着。
下車する。
そしてここの領主様と家族全員と執事長とメイド長が第二王城入って行く。
1時間ほどして王様と領主様一行と出てきた。
そして皆の前で、領主邸を中の人ごと“きれいきれい♡”し、浄化と同時に便器の無くなった便所を近代トイレ化した。
厨房では冷蔵冷凍庫設置と大規模システムキッチン化。
今回は一人でできた。
余裕♡。
最後に結界魔法“でっかいけっかい”と“あくにんたいさん”をかけ、ここでの第一回一部アラスタ化を終わらせた。
王様一行は王都へ帰る時間だ。
とその前に今回の関係者で手を繋ぎ輪になって“かいわする”をかけ、長距離会話(念話)のし方をレクチャーした。
そして王都へと向かう前に第二王城とキューを繋ぎ、僕と領主様が御者台に座りレナント正門を出た瞬間、王都正門へ移動。
3秒で着いた。
超高速移動を体感したくて電車のボックスシートみたいな部屋内にいた全員、何が起こったのか解らないまま王都に着いていたのだ。
ほとんどワープだ。
風景なんて一瞬で切り替わる。
旅の醍醐味なんてありゃしない。
その時の皆の感想は全員一致して
「早すぎるのは、つまらない。」
だった。