6.領主様ご一行
初夏。
魔法で耕した畑の作物がおかしい。
成長速度が早い。
著しく早い。
やばい。
しかも実りも多いし、実は別種と思ってしまうほど、かなりな大きさだ。
母ちゃんのおなかも大きくなっている。
昨晩父ちゃんから、僕の弟か妹が生まれることになると告げられた。
あっ、なーんだ、そっちか。
作物の話に戻って、
去年は収穫数量が例年の2倍だったのだが、軽く見ても今年も数では昨年と同じくらいの2倍だ、しかもたった半期で。
同じ数でも重量換算では昨年の1.5倍くらい、実が太っている。
つまり総重量では例年の3倍はありそうだ。
という事は、もし年内にもう一度種まきし収穫できたら6倍?!!。
ひっじょーーーにまずい。
何がって?
僕の魔法で耕した畑のみ成長が早く更に肥えていて、僕の魔法水を蒔いた畑の収穫量が増えている。
魔法一切使わなかった畑は例年通りみたいなのに。
「・・・バイオハザード・・・」
(注:この世界の人には地球の言葉は通じません。)
実際は、作物の成長促進作用と栄養バランスが最高にマッチした為である。
決してバイオハザードではなかった。
既に村長が領主へ手紙(手羊皮紙)を送り、この案件を相談することにしていたみたいだ。
まだ収穫前・・秋ではなく初夏なのである・・領主一行がやって来た。
もう去年の新麦はないぞ。
この村へ来たとき一番初めに目にするのは畑である。
やって来た領主様一行。
まず畑が目に入るので皆驚いていた。
そして村長の家に近づくに従って、目と口がだんだん大きく開かれていく。
そう、あの“きれいきれい”による異様なまでの新築街。
村人は自分たちの家にもう慣れてしまっているので、領主たちの表情が滑稽に見えてしまうのであった。
僕は村外れにいるのでこのセレモニーは知らなかった。
村長宅での話し合いで、
・年貢はいつもどおり秋の収穫時に徴収する。
・今回のイレギュラー収穫はこの村の貯蓄・財産として処理して良い。
・秋の収穫時期前に徴収部隊が入村する。
が決定した。
今回の収穫物の半分ほどは領主様へプレゼントすると村長は宣言したみたいだ。
慣れって恐ろしいです。
即、魔法『きれいきれい』はばれてしまった。
異常収穫については不明という事で話がまとまっていた。
領主は
「その”ジョンジョーカ”という者に会ってみたい。」
と、のたまった。
僕は直ぐに村長に拉致され村長宅へ連行される。
僕の仕事は遊ぶこと。
だって子供の仕事は遊ぶこと。
今、僕、1歳5か月。
村長宅の応接間の床カーペットに直座りを決め込んでいるボクちゃん。
親指しゃぶってみる。
「ボク、ジョンでしゅー。」
「「「・・・・・」」」
「ぼく、ジョンでしゅー。」
ここで初めて“ジョンジョーカ“なる者はおらず
“ジョン”という赤子?幼児?が騒動の主だと気が付いたのだ。
領主は僕に
「あー、おじさんの馬車をきれいに出来るかな?」
と聞いてきた。
ぼくは即
「あっええよ。」
とオッサン臭く答え、にこりと笑う。
おっさん‥じゃなくて“領主”に連れられ馬車?の前まで来た。
馬?!?も繋がれている。
うし?うま?しか?
牛?馬鹿?
白地に黒のまだら模様…要するにホルスタイン柄で、かなり大きなサラブレッドの体に角の無い鹿の頭がついた生き物がいた。
この世界ではこれが“馬”と呼ばれる生き物だ。
走らせると長距離をものともせず爆速で駆け抜ける“スーパーカー”だ。
馬と馬車をセットにすると大型バス並みだ。
そんな乗り物の前で少し考える。
『馬車は家と同じ感じでいいか。馬鹿…ゴメン馬は毛がべっとりしているからしっかりトリートメントしてー、疲れも癒せたら良いなー、温泉に浸かっている感じで。
あれ?疲れを癒すって浄化?なんか違うよなー。』
「うーーーーん」
『スーパー銭湯ってコインランドリーもなかったっけ?
銭湯でくつろいで服とか洗濯・乾燥してとっても綺麗キレイ。』
やっぱり
「きれいきれい♡」
今回は最後に“♡”が付くよ。
「「「・・・・・・・・・」」」
馬車と馬が輝く。
10秒ほどして光が収まる。
そこには。
新車?新馬車と、ふっさふさの毛並みをした凛々しく見える馬鹿ど…もとい、お馬鹿さんが在居た。
そして直ぐに
「バイバイ」
と手を振って家に帰ろうと走り出す僕。
ダーッシュ!
即、村長に拉致された。
結局、領主旅団の全馬鹿車セットを“きれいきれい♡”する羽目になった。
さすがは領主。
僕の魔法が規格外という事が判ったみたいで、魔法と僕のセットで存在を隠すという、いわゆる緘口令が旅団内とここ“アラスタ村”内に出されたのであった。
たぶん割と早く全王国中に知れ渡ると思う。
何度も言うが、今、僕、1歳5か月。
思いもよらない早期の収穫。
収穫物のプレゼント分を領主一行の馬車に積み込み、お帰りいただきましたとさ。
そして今、僕は収穫の終わった畑の前に来ている。
皆の視線がぶっ刺さる。
『いいから、魔法でさっさと耕せよ。』という視線。
『魔力切れたら、ただ寝てしまうだけだから良いか。魔力量増やす為にがんばろう。』
と思いながら、畑の地面に手をついて
「もーりもりー!」
!?
今まで全く感じなかった何かが、全身から手に集まり、掌から土に一気に流れていく。
「おーーーー!」
思わず叫んでしまった。
皆は畑がきれいに再び耕された事の感嘆だと思っていたらしい。
皆
「「「おーーー!」」」
パチパチパチ・・と拍手。
次々と畑を回って“もーりもりー”をしていたが、なぜか春と同じ面積しか耕せなかった。
次の日も前回と同じ倍の面積を耕した後眠ってしまい、結局全部終わらせるのに、春の“もーりもりー”と同じ日数がかかってしまった。
不安・・・・・。
もう魔力量増加の頭打ち?
今回は季節外れの夏種蒔き。
気温が高いのもあって芽がでるのが早い。
その速さに驚いた皆の眼が出るのも面白い。
僕は魔力量の限界を正確に知りたくなった。
が、あまり目立ちたくない。
十分、いや十二分、いやいや百分は目立ってしまっているけれどね。
でもこれ以上目立ちたくない。
僕は両手をあげて万歳状態で家から畑の端まで走り出す。
指先に色が出ない高温のビー玉くらいの大きさに圧縮した火の玉を合計10個作り出し、2歩踏み出すたびに空へ向かって打ち出すというのをやってみた。
つまり、右足が地面に付いたときに10個の火球魔法を空にぶつ放す。
はたから見たら、子供らしくただ両手をあげて駆け回っている様に見える事だろう。
その日は1往復し、2往復目しようと思った瞬間、意識を失ったみたいだ。
玄関前の地面で爆睡していたみたいだ。
次の日、たぶん同じ感じで寝てしまうだろうと思っていた。
しかーーし、なんと2往復出来てしまった。
もしかしてまた次の日はさらに倍の4往復できるかもと思ってドキドキ・ワクワクしてしまう。
3日目…うーん…。
3往復と3/4・・・・。
でも魔力量が増えている事は良い事だ。
夏畑の時のあの変な感覚はあの時だけで、まだ同じ感覚を確認できていない。
村内の家々は再度“きれいきれい”してもほとんど変化無しで、魔力消費も最初の時に比べて半分くらいだと思う。
再びあの感覚をもう一度体験してみたいと頭の片隅に置いて・・忘れて、秋まで遊ぶ日々なのであった。