49.ケチャール町民の喜び
盗賊達をソールトの街へ“ポイッ”してケチャールへ帰って来たジョンとアレック。
エラを裏門の門番に返し、エラの魔法を解除し、その後“かいわする”をかける。
エラは
『えー。あの魔法楽しかったのに、つまんなーい。』
[アレ浮いたままだから、寝れないし水浴びも出来ないし、水も飲めないよ]
と言ったら“ハッ!”として
『そ、そうだわね…。』
[じゃぁね、バイバイ]
エラと別れジョーカおじさんの所へ向かうジョン達。
「ジョーカおじちゃん魔法あんまりできないんだね。」
「そうみたいだな、家でやっているアレやったら良いんじゃないか?」
「出来るかなー、そんなに長くここに居れないし。」
「ちょっとした小旅行だからな。」
「一回ジョーカおじちゃんに、いつものあの魔法試してみるね。」
「そうだな。」
ジョーカ家に着いた。
家の前は人だかりだ。
「そっか、新築化しちゃったから人が来ちゃったんだね。」
「おっ、あそこに町長もいるぞ。」
「本当だ、町長さーん!」
ジョンが叫ぶと気まずそうな顔をして目を逸らした。
「町長さーん!」
手を振ってみる。
町長も手を振り返した。
「どうしたの?」
意地悪な質問をする。
『羨ましい物が在ると嗅ぎつけて来たのね』
「何か変わったものが有ると聞いて危険なものかどうか判断しに来たんだ。」
たしかに危険な物ではある。
一度使ったら手放す事が出来なくなってしまう麻薬的存在、
“魔洗便器”である。
使用者は一切魔力を必要としない超優れもの。
この町では一番最初に設置されたジョーカの家だ。
ジョーカの家に入り用をたして
「お次の方どうぞ―」
と、どんどん人の出入りが激しくなる。
タルタンとモーラストを足して4をかけてた人口の町ケチャール
要するにタルタン村の8倍の人口だ。
そんな感じの大きさの“町全体なんて勘弁してくれよ“と言いたくはならないジョンであった。
町長さんから“お・ね・が・い・♡”のお言葉で快く引き受けちゃうよと考えているジョン。
両手を合わせ
「先ほどはすまなかった。お願いだからこの町にもあの“魔洗便器”を何とか出来ないか?頼む。」
「あ、ええよ。」
とここでもオッサン臭く答える。
そして木材集積場に来て必要個数を聞いた。
予備も含めて大500個、小500個作る事にした。
100個の山10か所に便器が纏まっている。
「セーラ手伝って。」
「うん!」
「お兄ちゃんが“うぉしゅれっつ”って言ったら“えぇーゆだなぁー”をかけてね。」
「うん!」
「じゃー行くよー“うぉしゅれっつ”」
1,000個の大小便器が輝き出した物凄い勢いで魔力が吸い取られていく。
「えぇーゆだなぁー」
セーラの魔法が僕の魔力を回復してくれる。
そこに自ら
「えぇーゆだなぁー」
とこの前と同じく2重でかけると
魔洗便器の光っている時間が半減とまではいかないが、短縮したのだ。
『十分な魔力量が有ると魔法の効力が実行されている時間が短縮されるのか。』
「とりあえず500個ずつできたから、町長さん、皆さんに配って下さいね。」
せっかくの新品便器を置く場所が臭かったら嫌なので
「あと皆さんのお家もジョーカおじちゃんの家みたいにして良いかな?」
と聞くと凄い勢いで全員ヘッドバンギングしている。
OKという事で、セーラにも手伝ってもらう。
「きれいきれい♡」
かーらーのー
「「えぇーゆだなぁー」」
息ピッタリ兄妹
町中輝きまばゆい光の柱が立ち上がる。
今までに経験した事の無い魔力の抜けっぷり。
“えぇーゆだなぁー”の2重掛けなのに吐き気に襲われる。
『あれーこんなはずじゃなかったのに』
どんどん魔力が引き抜かれて行くが二重掛けの“えぇーゆだなぁー”でも魔力回復追い付かない感じだ。
『何故だ!』
(お答えしよう。:アラスタ村の8倍の人口を有し鉄製品の製造が盛んな為、鉄製品の不良品在庫が数多く存在していた。そんな細かい物にまで総てに補正・修正・補修・強化、浄化、回復がかかった為であーる。)
『ヤバイ気を失いそう』
と思った瞬間光が消えた。
そして何とか持ちこたえた。
町は新築街と化していた。
鉄製品を扱っている店の倉庫の不良在庫が販売用商品も含み一級品を通り越して特級品に変貌していた。
各家庭の食器・調理器具も同じ特級品の新品に化していた。
全世帯の便所の便器は全て無くなっていて、いつでもどこでも“魔洗便器”を設置できるようになっていた。
光が収まり激変した街並みの中、便器を抱えてウキウキ、ニコニコしながら家路を急ぐ町民たち。
あちこちから歓喜の悲鳴が響き渡る。
町長は腰が抜けて地面に座り込んでいた。
「終わったよー。」
「あ、ありがとう。」
シンプルな感謝の言葉も気持ちいい。
「あとはジョーカおじちゃんだね。」
と言いジョーカの家に入るジョンであった。
「これから1日3回以上の浄化魔法が出来るように特訓します。」
と僕の言葉に、ウキウキになるアレックと父ちゃん母ちゃん。
顔をしかめるジョアン爺ちゃんとジョーカおじちゃん。
「それではみんな、魔力枯渇症状になるまで魔法を使ってちょうだい。」
というジョンの言葉で嬉々と魔法を無駄遣いする父ちゃん母ちゃんとアレック。
3人青白い顔になり冷や汗が出たところで
「「「ヨロシク!」」」
「えぇーゆだなぁー」
“ピカー!”
そして魔力の無駄遣い。
「「「ヨロシク!」」」
「」えぇーゆだなぁー」
“ピカー!”
20回繰り返し3人は本日終了。
爺ちゃんとおじちゃんに
「こんな感じだよ」
というと、爺ちゃん
「それで増えるんか?」
「おう!おやじ。俺なんか今は浄化350回は出来るぞ。」
「私はもう少しで400回かな?」
「私ももう少しで400回出来そうですよ。」
そろそろ“火辻の数え歌”を教えちゃおうかなと思っているジョン。
「継続は力なりでだよ。」
「ジョン、良いこと言うねー。」
「では爺ちゃんたちもガンバ!」
「はい20回。今日の分はおしまい。」
「この年でもこんな簡単に魔力量が増やせるなんて…。」
「生まれて初めて魔力酔いの起こさない浄化が出来るなんて…。」
と2人は感慨深く呟いていた。
~とある警備兵のお話~
領主様からジョンを連れてくるようにと言われケチャールへ向かっている。
前方のケチャール方面で、光の柱が上空へ伸びているのが見えた。
『アレは何かの災害か?あともう少しで中間の町“ペシパ”に着く頃だな』
と思いながら馬を走らせていた。
「ケチャールにジョンが居る。がんばれ。」
と馬に声をかけた…かけてしまった。
その言葉で、馬はジョンの所へ向かっているのだと理解した。
そして一気に加速した。
揺れも速度も3倍ほどに跳ね上がった。
振り落とされまいと必死に鞍にしがみつくしか無い。
以前、アラスタへ行く時にみせた、馬の行動と同じだ。
こいつらがこうなってしまったら全く言う事を聞かなくなる。
何とか落ちないようにしなければ。
気が付くとそこは既にケチャールの町の中だった。
眼前には新築街と化したケチャールの町なみ。
町人はあの“魔洗便器”を抱えて家路を急いでいる。
今、見知らぬ民家の前に居る。
馬はこの家に入りたそうにそわそわしている。
『あぁここに居るんだ。』
と理解した。
『なぜ迷いもせず目的場所に到着してしまうのか理解できない。』
ドアをノックする。
見知らぬ男が出て来た。
「ここにジョンが居ると思うが。」
というと
奥からアレックが出て来た。
「おう!アラン、どうした?」
「領主様にジョンを連れて来てほしいと言われてな。」
アレックは“やっぱり”という表情で奥に戻って行った。