46.ケチャールの町 1
今回は人の血は出ませんが、あまり気分のよろしくない表現があります。
ご注意ください。
戦闘?自滅?事件現場では、まだ誰も死んでいない。
盗賊は全員で23人居た。
「こいつらどうしようかなー。」
異ジョーンモードに入る。
1.怪我は止血のみ。痛覚はそのまま。
2.死にそうなやつはほんのちょっと回復し、絶対に殺さない・死なせない。
3.盗賊の着ている服を梗塞衣に変換する。
4.猿轡をする。(声を出されると煩いからね)
5.立たせた状態で全員を一括りに束にする。
6.全員の首に“ぼくは盗賊です”という看板を括り付ける。
7.首看板は首看板専用の解除魔法を使うか首を取り外さない限り外せない。
8.連れて行く労力がもったいないので“りにあかぁ”と同じ慣性加減速が出来るようにする。
9.痛覚は慣れる事が無く、常に新鮮な痛みが続く。
現行犯の犯罪者にはこんなもんかなー
名前はえーっと・・・まぁそのままだね、“しちゅーひきまわし”で良いや。
で早速
「しちゅーひきまわし」
盗賊23人が紫色に昏く光りながら浮かび上がる。
そして血が止まり、火傷による化膿の進行が止まり、服がみるみる梗塞衣になった。
骨折部は折れたまま、無くなった手足は血が止まった。
全員直立状態でひとくくりになり、2mほどの高さで宙に浮いている。
連れて移動出来るように縄がぶら下がっている。
全員の首に“ぼくの名前は○○で盗賊です。○○人殺しました”
と一人一人カスタマイズされたプレートが括りついていた。
『魔法さんありがとう!グッジョブ!』
と心の中で魔法に感謝した。
盗賊の持ち物とかを持って行かねばとそちらにも“しちゅーひきまわし”をかけてみたら1mほどの高さで剣や槍等の武器と切り落ちた手足が纏まって浮かんでいる。
こちらも移動出来るように縄がぶら下がっていた。
これは盗賊の下で浮んでいて一緒に運びやすくなっているね。
こうして盗賊団をアドバルーンみたいに浮かばせながら進む。
どちらかというと”〇ールおじさんの空飛ぶ□”の風船みたい。
夕方野営だ。盗賊団は静かなものだ。
よく見ると排泄物が垂れている。
死んではいない。
垂れた物きちゃない。
盗賊の下で浮いている荷物に掛かりそうになると、“キラキラ”と浄化している。
『ナイス!魔法さん。ありがとう!』
そして悲劇が…じゃなくポムがやって来た。
頭部に付いている大量のドスをギラつかせながら。
『おっ、こいつら何だ?』
[あーこいつら盗賊で旅人を襲っていたんだ。]
『じゃーこいつら切り刻んでも良いよね♡』
[いや、切り刻むって駄目でしょう。]
『何で?』
[他の町の人たちに“盗賊捕まえたよ安心してね”って見せる事出来なくなるじゃん。]
『そっかー。うりゃうりゃ!』
とポムが首を振るとポムの近くの盗賊3人の足を角で切り落としちゃった。
というか、いきなり膝から下が4っつ落ちて来た。
血は出ない。
切られた痛みが有るのか、“ん゛ーん゛ー“唸っていた。
「じゃぁ行って来るね。」
僕は日課のアラスタ往復をするのであった。
“らぷ号”の中からこの様子を見ていたモーラストの村人4人は途中で気を失っていた。
妹たちは盗賊達には全く興味無しで、爺ちゃんと遊んでいた。
盗賊は冬の外の空中でずっと拘束されている。
“しちゅーひきまわし”の魔法で決して死ぬ事は無い。
はっきり言って盗賊連中にしてみたら、“早く殺してくれよ、死んで楽になりたい”と思っているみたいだ。
そんな雰囲気が駄々洩れしているが、被害者側は“そんな生ぬるいことするか!”という気分だろう。
声が出せないから人の優しさに訴える事ができない盗賊ども。
首の札を見たら全員50人以上の人を殺しているとんでもない悪党どもだ。
首札の裏には、そいつが殺した人の名前とその殺された人の住んでいた町の名前が書かれていた。
どこまでもグッジョブな魔法さん。
野営は“らぷ号“内。
狭いが“絶対安全”な移動式シェルター。
外の風景も窓超しに見れて、天井は存在していないように見える仕様の照明で、そこには満天の星空が映し出されている。
そして布団が要らないくらいの空調に設定している。
ちょっと狭いがベンチベッドと床では被害者家族4人と僕が、中段ベッドでは父ちゃんとセーラが一緒、母ちゃんとセーヌが一緒、上段では爺ちゃんとジョリーが一緒に寝るアレックは最上段のもう一つの方でいつも通り一人寂しく寝る。
車内は狭いが賑やかで楽しい旅だ。
寝る前は“いいゆだな”と“きれい”で済ませる。
“えぇーゆだなぁー”だとなかなか寝れないから。
翌朝
『じょん起きろー』
というポムの声で目が覚めた。
外を見る。雪の上が真っ赤に血で染まり、挽肉が散らばっていた。
盗賊たちは全員生きている。
[ポム、これって何?]
『ああ、オオカミがこいつら食おうと集まって来てたんだ。そんで俺が来たら、おれに向かって来やがったからチョチョイッて殺ったんだ。』
[オオカミ何匹居たの?]
『20匹くらいかな』
「父ちゃん、爺ちゃん、アレック、オオカミ20匹位居たってさー。」
と言ったとたん全員が飛び起きた。
「ポムがチョチョイッて片付けたってさ。」
慌てて外を見る皆さん。
外は赤い何かが散乱していたが、皆さんの顔色は青くなっている。
「あの赤いのが元オオカミだよ。」
「とりあえず一旦アラスタに行ってくるねー。出発していても良いよ、直ぐに追いつくからだいじょーぶだよ。」
と言いポムに飛び乗る。
そしてハイパードライブで出発。
ハイパードライブで到着。
まだ出発していなかった。
というか、寝起き直後で30秒以内じゃ出発なんか出来ないよね。
[ポム、今回はお願いしていいかな?]
『おっ良いぜ!』
「みんな“らぷ号”の中に乗って、盗賊の紐持って。」
と言い僕は“らぷ号”の連結棒を片手で持つ。
アレックが盗賊達の束から垂れている縄を持つ。
父ちゃんが戦利品…盗賊の持ち物だっ塊から垂れている縄を持つ。
[じゃーポム、近くの街“ケチャール”の裏門前までよろしくね♡]
『おー!』
数秒で着いた。
早すぎると旅の醍醐味って無いよね。
盗賊は上から下から色んなものが垂れ流されていた。
ちなみに捕縛されている盗賊連中には“ういんどばりあ”なんてかかっていない。
お気づきになっただろうか。
超高速で空気中を移動すると、空気との摩擦で熱が発生する。
まして、ポムは音速に近い速度が出るから、奴らはたまったもんじゃない。
それでいて“しちゅーひきまわし”の魔法の効果である1番と2番。
1.怪我は止血のみ。痛覚はそのまま。
2.死にそうなやつはほんのちょっと回復し、絶対に殺さない・死なせない。
この2番目が常に嫌らしく治療してしまう。
コレである…生き地獄である。
門の直前に現れた宙に浮く小屋と、大量のドスをギラつかせている馬とそれに乗る子供。
さらにその後ろには地上2Mほどの所に浮いて、所々紫色で昏く光っている汚らしい人の束。
異様な団体だ。
子供が浮いている小屋に入るとタラップを使い小屋から下りてきて、刃の馬に魔法っぽいのを使った瞬間
「化け物が消えた…。」
町裏門の門番にアレックが近づき、アラスタ村からやって来た事と、途中モーラスト村からこちらへ向かっていた4人家族を、盗賊達から助けた事、そして盗賊を纏めて捕縛した事を報告した。
犯罪者は町では縛っておくことしかできないので、ソールトの街までつれていかなければならない。
そして、ソールトの衛兵に引き渡し牢屋に入れ裁判にかけることになる。
えー面倒くさいなー。
この街には早馬が居るそうなので領主様のいるソールトまで知らせを出す事になるそうだ。
サッサと終わらせたい僕はその早馬を連れてきてほしいと頼んだが、小さいクソガキがなにをほざいているんだ?みたいな対応をされてしまった。
アレックが領主の警護員の一人とわかるとクルッと手のひら返し。
早馬を連れて来た。
僕はその早馬に手を触れ“かいわする”と唱える。
馬と僕が光った。
[君何て名前]
『!キミナンテナマエ?』
[僕ジョン]
『ボクジョン?』
[君の名は?]
『キミノナハ?』
[ダメだこりゃ]
『ダメダコリャ?』
話が通じない、ただの鹿馬ね、のようだ。
「この馬、会話にならないよ。」
「馬と話せるわけ無いだろう。」
門番のごもっともな突っ込み。
[ポム、ロシナン聞こえる?]
『『聞こえるよ。』』
[この街のお馬さんお馬鹿さん。]
『ああ、俺達でも会話できるやつ少ないからな。』
『そうねぇ、あたいの所でも会話できるの少なかったわ。』
[へーそうなんだ、ありがとう。]
『『どういたしまして』』
[じゃーバイバイ。]
『『バイバイ』』
「ポム達に聞いたらお馬さん同士でも話の通じないお馬鹿さんが多いみたいだよ。」
「そうか…。」
アレックが答えた。
僕は話の通じないお馬鹿さんに、実験のお礼として“きれいきれい♡”をかけた。
光が収まって
「じゃ解除魔法かけるね」
と言った瞬間
『ちょっと待って待って待って!』
と変な声が聞こえた。
[ん?誰?]
『あたし、あたし、あ・た・し。』
と頭を付けてくる馬さん。
[あれー?おはなしできたの?]
『なんか急に言葉の意味が分かるようになちゃったの、だからコレ無くなるとつまらなくなっちゃうからやめて。』
“きれいきれい♡”は脳の補正もするみたいだ。
[名前はなんていうの?]
『皆からは“エラ”って言われているわ。』
[エラねよろしくね。]
「何でこの馬の名前分かったんだ?」
[エラに教えてもらったから。ねー。]
エラは首を大きく縦に振った。
「すげー。こいつなんなんだ?」
「ジョン、これって・・・」
「後でね♡」
「とりあえず盗賊はここに置いておいて、町長の所へ行きたいのだけれど良いかな?」
「良いけど・・・」
と“らぷ号”を見て悩んでいる。
「このまま町長の所へ行きたいのだけれど。」
とアレックの要望に応えて案内される僕たち。
[エラも一緒に付い来て。]
『良いよ。』
エラも一緒に歩きだした。
言葉でいう事を聞く馬、この街では初めての光景だ。
門番を先頭にイケメン2人(父ちゃんとアレック)が引く奇妙な浮いている小屋と小屋後部の玄関らしき所で座っている子供とその後をついていく馬。
あまりにも異常な事態に遠巻きに観察する町民たち。
町長宅の門をくぐって入って行った。