45.ケチャールへの道中
今回は剣で切られたり矢が刺さったりします。
ご注意ください。
森で合計2泊し3日目の昼にモーラスト村に着いた。
村長の家に寄り、魔洗便器と冷蔵庫・冷凍庫の仕様感想を聞いてとても満足するジョン。
村長曰く、“きれいきれい”で新築化された家の中が、冬の今、凄く暖かく快適だと村民から感謝の言葉が届いていると言わた。
『とても嬉しいぞう、鼻高々だゾウ。』
村長に、これから“ケチャール”へ向かうが何か伝える事が無いか尋ねた。
そしてケチャールの町長宛の手紙を貰った。
「ポストメーン。」
「何だそれ?」
「手紙とか届ける人のことだと思うよ、夢の中でだったけど。」
「へー、夢の中かー。」
「では行って来ますね。」
と村正門から、父ちゃんの牽引する人力キャンピング荷馬車“らぷ号”が出発する。
アラスタ村とタルタン村とモーラスト村の距離はほぼ一緒で、夏場で各7日はかかる。
モーラストからケチャールまでは、夏場で10日かかるそうだ。
僕たちは、単純計算でアラスタからモーラスト迄通常14日かかる所を、冬という悪条件であるはずなのに3日で着いてしまったよ。
森を突っ切るショートカットで。
でもここからはショートカットは止める。
ポムによる除雪跡が無いから少し不安なのでね。
なので、この前みたいに人間キマロキ編成で進む。
この辺の積雪深はアラスタ周辺の4分の1程度しかない。
4人分の足跡がケチャール方面へ続いている。
「この足跡をたどって行けば良いよね。」
どんどんスピードを上げる父ちゃん。
アレックよりは遅い100m10秒台の速さで走る。
トーン・・・・・・トーン・・・・・・トーン・・・・・・。
数秒に1回地面を蹴る。
時々十数秒惰性で宙を飛んで休んでいる。
前方に30人くらいの人だかりが見えて来た。
盗賊が4人の一般人の周りををとり囲んで襲っている。
「どうしようっかなー。」
「アレック。あれ助けるぞ。」
勇敢な男らしい発言をする父ちゃん。
「それじゃぁ、取り囲まれている4人を“らぷ号”に避難させるね。父ちゃんそのまま突っ込んで行って、一応全員に“ういんどばりあ”っと。」
そして盗賊団の中に突っ込んで行く僕達。
父ちゃんが体当たりしようとしたがヌルュルン!と数人の盗賊が吹っ飛んで行った。
“ういんどばりあ”で森の大枝がぐにゃりと曲がったあの現象。
地面に固定されていない人間なんて、そりゃーすっ飛ぶわな。
襲われて怪我をしている4人組を“らぷ号”に招き入れる。
宙に浮いている“らぷ号”に驚いてはいなかったので、モーラスト村民であることがうかがえる。
ドアは開きっぱなし。
アレックは今回、剣を持って来なかった。
アラスタ・タルタン・モーラストに慣れ切っていたのだ。
でもアレックは、体術も結構いけるみたいだよ。
なので、盗賊を迎え撃つ準備をしている。
父ちゃんにふっ飛ばされた盗賊はぴくりとも動いていない。
「父ちゃん入って。」
父ちゃんが入って来た。
ジョンはドアを閉めずに盗賊が入って来れるのかどうか待っている。
『僕の魔法の効力がずーっと気になっていたのでこれで実証だ。』
「「おんどりゃー!!」」
襲いかかろうと剣を振り上げ玄関から中に飛び込もうとする盗賊。
その瞬間“バチバチ!”と火花が出て黒焦げになり、弾き飛ばされ地面に倒れた。
中で見ていた僕は
「ねっ!大丈夫だったでしょ!」
僕は満面の笑みで両手でVサインをする。
5-6人ほど黒焦げになった。
黒焦げにならなかった残りの盗賊達は“らぷ号”から少し離れた。
玄関から内部へと窓から内部へと弓で狙いを定める盗賊達。
「それ止めた方が良いよー。」
と僕の言葉を無視する盗賊。
「うるせー!おまえら皆殺しだ!死にやがれ!」
矢を放つ。
僕達に矢が迫って来る。
玄関・窓の所で180度向きを変え飛んで帰る矢。
そして盗賊達に突き刺さる矢。
うめき声が聞こえる。
「ざっけんなー!!ぶっ殺ーす!!」
矢の刺さったままの数人の盗賊が剣を思いっきり投げて来た。
もちろん180度正反射。
盗賊は、自分たちの投げた剣で、自分たちの手足が切り離される。
自爆による全滅だ。
はっきり言って僕達は誰も手も足も出していない。
出したのは“それやめた方が良いよ”と警告した僕の口だけだ。
助けた4人の一人は右の肘から切られて無くなっていた。
他の3人は体中、剣による切り傷で血だらけだ。
服もボロボロ、外には荷物が散乱している。
「皆さん、魔法するね?」
4人とも頷く
「“らぷ号”の中の人だけ“きれいきれい♡”」
気の抜ける呪文だ。
質問:なんで“エクストラヒール”とかカッコ良い名称ではないのだろうか。
回答:ジョンが勢いでやっちゃったからです。
4人が光輝き、多数の傷とボロボロの衣類が回復。
でも無くなってしまった手は戻らなかった。
「セーラ手伝って。」
「うん。兄ちゃん。」
「セーラも一緒に“えぇーゆだなぁー”しようか。」
「うん!」
「じゃー行くよ、せーのっ」
「「えぇーゆだなぁー」」
“ピッカー!“
そして無くなっていた手が生えて来て復活した。
被害に会った4人と母ちゃんが泣いている。
父ちゃん・爺ちゃん・アレックの3人は大口を開けて目を見開いたままだ。
“えぇーゆだなぁー”の2重掛けの効力の新たな一端が判明した瞬間だった。
襲われていた4人はモーラスト村の家族であった。
父(38)母(34)兄(19)妹(16)の家族構成で、妹(16)の嫁ぎ先へ皆で向かっていた最中に襲われたそうだ。
それで妹(16)を皆で守りながらなんとか逃げようと逃げ回っていたが、切り付けられそうになった妹を兄が引き寄せた。
その時、引き寄せきれなかった右手を切り落とされてしまったそうだ。
それでも必死に生き残ろうと奮闘していたところに、僕たちがやって来たという事だ。
~4人家族末っ子(妹)視点~
ついこの前村に来た、あの不思議な浮いている小屋が目の前にやって来て、化け物みたいな魔力を持つあの子が私達を小屋の中へ入れてくれた。
顔や手足に刃物で切られ、更に右手を失った。
何とか命は助かったが、これからどうなってしまうのだろうと不安になっているところで、数日前に村で体験したあの“きれいきれい♡”を浴びた。
傷跡も服も跡形無く綺麗に治った。
痛みも無くなった。
でも失った手は戻ることは無かった。
その直後、更に小さな女の子に“手伝って”と言った化け物4歳男児。
何をするのかと思い、ボーっと見ていたら2人同時に気の抜けるような呪文を唱えた。
すると体全体が輝き始め不思議な感覚に襲われた。
光が収まると、無くなっていた右手の感覚があるのに気が付いて、自分の手を見てみた。
両手が揃っている。
感覚がある。
きちんと動く。
涙があふれてきた。
すると、お母さんたちが私を抱きしめてきた。
しばらく泣いていたと思う。
あの男の子、化け物ではなく、神様なのかしら。
奇跡をくれた兄妹。
魔法を唱えた笑顔で遊んでいる女の子は天使なのかしら。
何とお礼をしたら良いかわからない。
ありがとうとしか言えない。
・・・・・・・・・・
僕が『今度ジョル爺ちゃんが来たら3重掛けやってみよう』と魔法の可能性を考えていたら
「ありがとう。」
手が再生した女の人がお礼を言ってくれた。
いつも“へ?”とか”ヒっ“とかしか言われなかった一般の村人から”ありがとう“って言われちゃった。
ジョンは満面な笑顔で
「どういたしまして。」
と答えた。
すると僕に抱き着き何度も「ありがとう」と言っていた。
他の3人も同じで何度も「ありがとう」と言っていた。
そろそろ出発したい僕は
「僕たち“ケチャール”に行くけどどうしますか?一緒に行く?」
聞くと直ぐに答えが返って来た。
「「「「はい、お願いします。」」」」
定員オーバー(ベッド数が足りないだけ)だが皆でケチャールへ向かう事となった。