44.アラスタ村に帰りそしてケチャールの町へ
タルタン村に続き、モーラスト村もアラスタ化し、アラスタへ帰ることにした。
僕達がやって来た除雪の終わっている街道を、遅いジェットコースターのように走り抜けるアレックと“らぷ号”。
途中野営で1泊の予定だったが、タルタン村が見えてきた為、“日が暮れてもそのまま入村すると”言っ言って休もうとしないアレック。
この日の夕方、ポムが僕を迎えに来た時はさすがに一旦停止したが、ポムと僕が去った後、再び移動を開始したのであった。
のんびりした長期旅行計画はいったいどこへ行ったのだろう。
僕はボルト爺ちゃんの家の前に、ポムに置き去りにされていた…空中に。
ポムと一緒では移動速度が桁違いの速さになる僕は、ボルト爺ちゃんの家の前で1時間ほど待たされてしまったが、アレック一行は野営はせずに帰って来てくれた。
毎回“らぷ号”経由での乗り降りが面倒になって来た。
そのうち何か考えよう。
ボルト爺ちゃんの所で1泊。
翌朝父ちゃんの牽引でアラスタ村へ移動。
やはり急いで帰るのは味気が無いので、今回はのんびりと移動する事にした。
適当に走り、昼頃停止、そこで野営。
夕方ポムが来た。
『早く帰って来てくれよー、もうすぐだろ。』
[だって、“旅”を経験するのに頑張っているんだよ。]
『ジョンの魔法で飛んで寝てれば勝手に着くだろ。』
[風に流されたり、微妙に方向がズレていたら何処行くか分からないでしょう。]
『ジョンにそれは無い。』
[無いわけない。]
『だって“化けジョン”だろ。』
[“化け”でも無いわけない!]
『もーどうでも良いから早くしてくれよー。』
[ポムって面倒くさがり屋さんなのね。]
『朝夕2往復だぜ。』
[運動になって良いじゃん。]
『まぁ・・・』
[という事で往復ヨロシクね。]
『チッ、しゃねーなー。』
とアラスタ村と“らぷ号”間を往復するポムであった。
翌日もう1泊したかったが、村門の目の前じゃ詰まんないので、家へ帰ったのである。
翌朝
「今度おじちゃんの所行ってみたい。」
おじちゃんとは“ケチャール”の町へ行った父ちゃんの兄“ジョーカ”だ。
“ケチャール“とはモーラスト村の先の町である。
そこは工業、鉄を使った生活雑貨類の製造が主な産業だが、農業も行っている。
鎌に包丁、鍋にフライパン、スプーンにフォークやナイフ等々。
農業は野菜類・果物類がメインだ。
アヒルに似た“ケッケ”という鳥を、卵と肉の為に飼育しているらしい。
「せっかくだし、行ってみるか。」
「爺ちゃんは?」
「おっ、そうだな、親父にも一声かけてみるか。」
と言い父ちゃんは爺ちゃんの所へ走って行った。
しばらくすると、父ちゃんが爺ちゃんを連れて帰って来た。
「「じゃー行くか。」」
父ちゃんと爺ちゃんニコニコ顔で言った。
「アレックは?」
「・・・・・・行く。」
そして僕は厩へ行く。
[すぐにケチャールって言う町に行って来るから、ポムよろしくね。]
“ガーン!”と大きな効果音が聞こえそうな位口を開け固まるポム。
「行ってらっしゃい。」
とロシナンのありがたい言葉で厩を出る。
もう準備万端の“らぷ号”と愉快な仲間たち。
今回はポムが除雪したモーラストへのショートカットコースを使ってみたい。
森の中はとても危険と言って街道コースを進もうとする一番隊アレック。
“らぷ号”の性能を知りたいからモーラスト迄オ・ネ・ガ・イ・」
やんややんや言い合ったが森の危険度を理解していない僕達家族に押し切られる形でしぶしぶ森へ進むアレック。
「ポムが走った後だし、そんなに奥まで入っていなさそうだから大丈夫!」
と根拠のない自信でアレックを促す僕。
森の中をしばらく走ると日が暮れ始めた。
森の中だが獣の気配は今のところ無い。
「森の中の野営だ♡」
僕は喜んで準備を始めたら直ぐに
『行くぞジョン』
と不貞腐れながらやって来たポム。
そしていつものアラスタ往復。
夜、森の中での野営は皆にとって新鮮だ。
アレックはしきりに狼や熊を気にしている。
何事も無く一夜を明かした。
『行くぞー』
というポムの声にドアを開ける。
あれ?今凄く気になってしまった。
僕の声とかは中の人に聞こえないみたいだけど、ポムの声は聞こえるのね。
[ポムちょっと待ってて。]
と言い扉を閉める。
[ポム、聞こえる?]
『聞こえるよ。』
僕とポム間は聞こえるみたいだ。
そこで父ちゃんの手を持って“かいわする”の魔法をかけた。
父ちゃんと僕が光った。
「ん?なんだ?」
「体に変化あった?」
「ん-、何ともないなー。」
普通に会話が出来、違和感は無いみたい。
「じゃー行って来ます。」
・・・数秒後・・・
“らぷ号”に帰って来て、いつものようにポムに空中に置き去りにされた。
「開けて。」
「おう」
父ちゃんの声が聞こえ扉が開き、“らぷ号”の中に入る事が出来た。
「僕の声聞こえた?」
「おぅ、だから開けた。」
「「「いや、聞こえなかった。」」」
“かいわする”という魔法は防音遮音関係なしで会話できる魔法だった。
もしかして…
[ポム、ロシナン聞こえる?]
と言ってみた。
『ん?あれ?いないはずなのに、ジョンの声が聞こえるわね。』
『お、本当だ。』
[聞こえるみたいだね。]
『だね。って何で?』
『だね。って事はさっきの会話聞かれちゃったかしら?』
[何?]
『聞いてなかったら何でも無いですわよ、ホホホ。』
“かいわする”という魔法は結局“念話”っぽいもので、結構な距離でもお話出来るみたいだ。
[で、さっき何の話してたの?]
『この前の、森の中のでの事だよ。』
『ポム!しー!』
[ロシナン、魔法しないよー]
『ぐぬぬぬ・・・・ポム、話してヨシ!』
『いやね、この前森の中でロシナンがエールベアを乱切りにしてさー。』
『あんただって、30匹の狼の群れ一瞬でみじん切りにしたじゃない。』
『あれはウォーミングアップ程度だよ。』
[ねえ2人とも、乱切りとかみじん切りって、角でかい?]
『『そう♡』』
[2人とも凄いねー。]
『『そうでしょ♡』』
[今度からお話したいとき僕を呼んだら良いよ。]
『『わかった。』』
「ジョン?みじん切りって何?何独り言言っているの?」
「お家のポム達とお話していたの。この前森で更地になった事あったでしょ?あの時狼の群れ30頭をみじん切りにしたんだって。だから返り血を浴びていたんだね。」
「狼の群れ?」
「ロシナンはエールベアっていうのを乱切りにしたみたいだよ。」
「「「えっ!!エールベア?!」」」
「ん?“えーるべあ”って何?」
「化け物みたいな熊だよ30人くらいの狩人とか傭兵とか軍隊とかで駆除する大きな熊だよ。主クラスになると兵士100人以上で罠も併用して狩るらしいぞ。」
「へー、ポム達ウォーミングアップ程度って言ってたよ。」
「あれでウォーミングアップ程度って、どんだけ凄いんだ?あの馬は。」
「ポムとロシナンって凄いよねー。それとさっきの“かいわする”って魔法、遠くに居ても話出来ちゃうみたいだよ。」
「「「「・・・・・」」」」
「だけど、お互い話そうとしない限り聞こえないみたいだよ。」
ほっと胸をなでおろすお父ちゃんだった。




