17.冬の終わりに突撃領主邸
10月終盤にアレックに村の外へ行ってみようと言われた。
村民は僕の創った魔洗便器のおかげで、便所での浄化作業から完全解放されたので
「畑起こしまでは帰って来てね。」
とほぼ全村民から言われてしまった。
日帰りではなく長期遠出と考えているみたいだった。
僕以外全員・・・。
村を出てからポムに
「走っていいよ。」
どんどん速度を上げるポム。
たぶん時速100kmは超えている。
風圧はほとんどない。
よく見るとポムの前方のちらちら降っている雪が左右に分かれている。
風魔法の一種のようだ。
更に速度を上げるポム。
新幹線並みまでは無いと思うが時速200km位は出ていそうだ。
後ろのアレックの顔が引きつっている。
速度を落とそうと必死に手綱を操作する。
しかしポムは無視。
そして・・・領主の住まう街、ソールトに来てしまった。
たった半日で。
領主様の名は“アストール・ソ・ナント”というらしいよ。
冬ごもり時期なので街道や郊外には人が居なかったのもあってか、かなり早く移動が出来たみたいだ。
というか、除雪なんてされていない雪に埋もれた道なんて見えないのに、何ちゅー速さだ。
僕はポムに
「帰ろっか」
と言ったら嬉しそうに尻尾を振り首を上下に動かし180度向きを変え準備をする。
「えぇーゆだなぁー」
光ったポムは更に180度向きを変え領主邸の厩へ向かい歩き出した。
『こいつ、むっちゃズル賢い!』
アレックが乗っているお馬鹿さんを見た門番は、アポなしに来た僕たちを止めようとするが、ポムは無視して敷地内に侵入し厩へ直行する。
警備員がやって来た。
領主もやって来た。
アレックがポムの肩をたたくがしゃがまない。
僕が
「おろして」
と言うとポムは素直にしゃがむ。
そして僕たちは無事にポムから下馬した。
そして出口をふさぐように立ち上がるポム。
物凄い期待の視線で見つめてくるお馬鹿さんたち。
領主様は
「魔法使って構わない」
とおっしゃって…言ってくれたので
「きれいきれい♡」
30頭ほどのお馬鹿さんと厩、厩務員、領主様、警備隊員、アレック、ポム。
この場にいる全員光り輝き、僕の魔力がごっそりと無くなった。
魔力量はまだ大丈夫っぽい。
やはり光り輝いた全員新品の衣装になっているし、厩なんか新築になっちゃっている。
“きれいきれい♡”の初体験をした皆さま、皆良い顔になっていますよー。
アレックは領主様と何かお話をしている。
ポムも他のお馬鹿さんと馬語で何か話している?
しばらくするとアレックは
「そういえば便所を気にしていたよな。見に行くか?」
「うん‥。」
便所に着く。
臭いがけっこうしみついているのね。
便器も染みているね。
便槽は空だが染みはついている。
浄化部隊の常駐部屋に案内される。
部屋に入るとそこには7名の隊員が居た。
誰かが使用し始めた。
“じょろろろー”
“ボダッ“
大小両方ね。
“ボサッ”
と尻を拭いた葉が落ちてきた。
“バタン”
ドアが閉まる音が聞こえた。
すると隊員一人が立ち上がり、便槽の方へ行き
「ぶつぶつ・・・・・・・」
そして便槽に手を翳す。
淡く光りながら汚物が消える。
臭いは…普通にくちゃい。
領主邸はとても広い。
中にいる人数も村人くらいは居るだろう。
今、もし魔法を使ったら100%ぶっ倒れる自信がある。
しかもキレイにならないかもしれない。
皆の期待の視線が突き刺さる。
痛いを通り越して感覚が無くなるほど突き刺さる。
さっき、お馬鹿さん全頭と厩やったのに、なんで今なの?明日じゃダメなの?
『まぁー良いっか!ヤケクソじゃー』
「きれいきれい♡」
気を失ったみたいだ。
翌朝目覚めたら客間のベッドで寝ていた。
僕をみてくれていたメイドさんが領主様に連絡を入れるように、別のメイドさんに手配をした。
僕は起き上がり普段着に着替えた。
と同時に領主様とアレック、その他大勢が部屋に入って来た。
「改めて体験したが、とんでもない魔法だな。」
領主邸母屋とその時中にいた人たちとその衣服類は全員・全部きれいになっていいた。
街の中心部にある領主邸がいきなり輝きだして、5分ほどして光が治まったら新築の建物が現れたのである。
街中大騒ぎ。
ねっ!秘密になんかできないでしょ。
世の中こんなもんさ。
お前が自重すればいいだけじゃないか。
とりあえず、帰村することになるが、アレックが魔洗便器の話をした為、領主邸用として30個お買い上げみたいだ。
本日便器引き取り隊が出発するらしい。
ポムに乗れば半日で帰ることが可能だが、引き取り隊は2頭引き荷馬車1台で通常であれば4日ほどかけて来るそうだ。
あくまで、雪のない季節での通常である。
まー、すぐに来ちゃいましたよ…2日で。
恐るべき“ヒロ〇ン馬車”。
そして翌日には30個の“魔洗便器”が領主邸に旅立ちました。