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心の温度

作者: 秋元智也

心に温度があるとしたら一体何度なのだろう。


舎弟に呼ばれて、助けを求められてはその場の

不良どもを蹴散らして回っているうちに誰もが

恐るようになった。


目の前で転んだおばあさんに声をかけると荷物

を拾ってあげる間に凄い勢いで逃げられてしま

った。それ以来、人助けはしない事にした。


生島剛ーいくしまたけるー17歳高校3年生だ。

受験生だが、進学も就職も今だに決まってい

ない。


そう、ほんの些細な出来事。

飛び出してきた車から猫を庇って入院するハメ

になってしまった。剛を心配してくる人嫌味を

言いにくる親だけだった。いつも助けを呼びに

くる舎弟は誰も来ない。


「そんなもんだよな…みっともねー期待なんか

 してさ…」


足の骨折だけなので松葉杖をつきながら院内を

うろうろしていると看護師と楽しそうに話す女

性がいた。

自分に近づく女性はいつも力に媚を売るような

種類で、素直な笑顔など見た事がなかった。

少し羨ましくも思えたが、自分とは住む世界が

違うと認識していた。


次の日、彼女を見つけると手にいっぱいの荷物

を持って廊下の壁沿いを歩いていた。

少し見つめると、前から走って来た子供とぶつ

かり荷物を落としてしまった。


「くそガキが!おい、何ぶつかってんだ!」


剛が叫ぶと、子供はその女性に謝る前に剛を見

て真っ青になり泣いて逃げ出してしまった。


「おい、大丈夫か?」

「ありがとうございます。ごめんなさい荷物拾

 うの手伝って貰えますか?」

「あぁ、お前怖がらないんだな?」

「ふふっ、親切な人を怖がる理由がないですよ」


そこで初めて気がついた。彼女は目が見えない

のだと。

拾い終わると一部持つと一緒に彼女の目的の病

室に向かった。


そこには母親が入院していて、もういくばくも

ないらしい。

津田陽子ーつだようこーそれが彼女の名前らしい。


「運んできてくれてありがとう。お礼にどうぞ」


もらったお菓子の一部を剛の手に握らせた。

その後も、会う度に話すようになった。

いつしか、彼女が笑顔でいるのが、寂しさを紛ら

わせる為だと知った。

陽子の母親から事情を聞いたのだが、身寄りがな

い陽子には親しい人間がいないのだという。

表面上は明るく話していても目の見えない陽子を

ちゃんと理解してくれている人はいない。

見た目は可愛くても目が見えなければ誰もが避け

てしまう。

それは剛がよく知っている事だった。

あてにされていても、何かあれば誰も面倒を見よ

うとは思わない。

ましてや、仲間だと思っていた奴等は一回も見舞

いにすらこない。


ギブスも取れ、明日退院する事になったが、それ

でも陽子に会うために毎日通った。

そして彼女の母親が亡くなった。

そしてその日を境に彼女は病院に来なくなった。


剛はいつもの日常を取り戻したが、心に空いた穴が

今の生活を拒んでいた。

元に戻ればまた、舎弟達が群がってきた。


「兄貴心配したんすよ!最近威張ってきてる奴らが

 いるんです。兄貴の強さ見せてやりましょうよ!」


「もう、暴力はやめたんだ、ほっといてくれ」


何故かそんな言葉が口から出ていた。

彼女のような裏表ない笑顔を見たい。誰からも利用

されない自分をちゃんと見てほしい。そんな願いが

心を満たしていた。


そんなある日、不良に絡まれている女性を見つけ声

をかけた。


 「俺の連れに何の用だ?」


一瞬、固まった不良達はすぐに剛を見て散り散りに

去っていった。


 「大丈夫か?」

 「ありがとう、あれ?剛くん?」

 

再び会えた事が嬉しかった。そしてあろう事か嬉し

さのあまり告白していた。


 「俺と一緒いてくれないか?」


少し困惑して自分の目の事を言ったが、気にしない

と言うと嬉しそうに頷いてくれた。

彼女の側にいるうちに周りから怖がられる事もなく

なった。

それは今、心が温かく満たされているからなのだろ

うか!?




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