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セカイの世界  作者: サクツキ
第一章 紫暗の魔盗賊と紫高なる貴公子
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旅の準備と知りたいこと

冒険者ギルドでヴィオの提案に乗り、次の行き先をパプルスに決めた俺達は、レンがゼノンさんから受けたという依頼を冒険者ギルドに提出し、後日正式な依頼として受けることを約束してパプルスに行くための準備を市街地でしていた。


「一口に寝袋って言っても、割と沢山あるんだな……」

「六玉国はそれぞれ気候が違うからね、各々の国に合わせたようなものがあるんだよ」


今俺達は寝具店に来ている。俺も初めて来たときはポカンとしたが、家庭で使うような布団だけじゃなく旅で使う寝袋も取り扱っていて、俺とヴィオの寝袋を買いに来た。


「セカイ、様々な国を巡るというのならシンプルなものが良いぞ。それぞれの国に合わせた物は他国では使い勝手が悪いと言うからな」


先に寝袋を選び終え会計を済ましたヴィオが俺にそうアドバイスをする。それに対してついジト目を向けてしまう。


「元々今回限りの寝袋な奴に言われたくねぇな…………」

「だったらさ、僕のと同じものにしたら?ほらこれ」


ヴィオに対してジト目を向ける(しかしあまり効いていない)俺の横からレンが1つの寝袋を差し出す。言っていた通りそれはレンの寝袋と同じものだった。しかしそれだと別の問題が出てくる。ヴィオも同じ事を思っているのか腕を組んで唸っている。


「うーむ…………確かにそれなら六玉国を旅する分には問題ないが…………」

「俺、その寝袋に入るか?」


俺とヴィオの疑問にレンが唸る。そう、レンと同じ寝袋を選んだときに出てくる問題点、俺がその寝袋に入るかだ。

レンと俺が横に並ぶと、俺の鼻の下辺りにレンの頭が来る。全体的な体格も俺の方が大きく、レンは年はまだ聞いていないから分からないが小柄な部類に入る。

それくらい差があるのに同じものが使えるかと聞かれたら首を傾げざるを得ない。


「うぅ……………………あっ!あれ!!同じデザインだけど若干大きいやつ!!」


辺りを見渡してたレンが大声をあげ指差した方を向く。その先には俺達が見ていた寝袋よりも全体的に一回り大きいサイズの寝袋が並んでいる。そしてレンの指差す先には、同じデザインの寝袋が置かれていた。


「ちょっと広げるぞ…………よし、この大きさならセカイも十分入るな」

「値段も安いし、それがいいな」


ヴィオからも大きさの御墨付きを貰い、俺は寝袋を広げているヴィオから寝袋を受け取り購入し店を出た。


「ん~~~~っと、これで全部か?」

「セカイとヴィオのリュックに寝袋、水筒、旅の間の食料も買ったし……うん、これで全部だね」


寝具店を出て伸びをしながら問い掛ける俺に、レンは今まで買ってきたものを思い浮かべ指を折りながら答える。

冒険者ギルドに戻りながらレンが口に出した買い物の中で、個人的に気になったもの――水筒を手に取り、開けてその中の入っていた小さな石を取り出す。


「…………にしても、『浄石』ねぇ…………」


水筒を買うときに一緒に買うよう勧められた小石――浄石。レン曰くどんな水でも飲める状態にして、飲める状態のまま保存できるらしい。


「ああ。魔法による錬金なんかではなく、天然資源としてそんな力を持ったものがあるというのはまさに奇跡だ」


後ろから俺の取り出した浄石を見ながら腕を組みヴィオが頷きながらそう言う。…………いま新しく気になることが出てきた。


「魔法って…………本当にあるんだな…………」

「?もしかしてセカイは魔法を知らないのか?」


ヴィオが俺の事を不思議そうに見てくる。しまった、魔法の存在はこの世界では一般常識だったか……!


「い、いや……知ってはいるんだが……ただ魔法を見たことは無くてな……」

「ふむ…………確かに、黄の国やパプルスのように一般に伝わってるところが珍しいのか?」


俺の誤魔化しにヴィオが考えるように呟く。よかった…………何とか誤魔化せた。…………こらレン、いくら俺が誤魔化してるのが分かるからって苦笑いするな。


「そう言えばヴィオ、お前も魔法使えなかったか?ほら、前のコボルトの時にさ」


ふと思い出したことをヴィオに聞く。コボルトを瞬く間に骨にしたあれも魔法なんだろう。

そう思っていたが、それを否定するようにヴィオは首を振った。……そう言えばレンもあのとき呪術と呟いていたな、何か違いがあるのか?


「ボクがあのとき使ったのは呪術だ。魔法とはちょっと違う、いや、根は同じだがパプルスで変化していったのが呪術なんだ」


なるほど、要は魔法の派生系ということか、ふとレンの方を見ると俺と同じように頷いていた。俺の視線に気付いたのかこちらを向いたレンが顔を赤くして頭を掻く、知っていただけで詳しくは知らなかったのか。


「にしても、随分おっかないものだったよな。剣で刺した奴を白骨にしちまうなんて」

「そうだね。呪術って結構物騒な話を聞くけど、話に違わない力だったし」


俺達はヴィオに喉を貫かれそのまま骨へと朽ちていったコボルトを思い出す。確かにあれは物騒どころの話ではない。


「確かにボクが唱えたのはあんなな結果になったけど、呪術自体は物騒なものではないよ」


俺達の感想を聞いたヴィオがむっとした表情で否定する。


「呪術はちゃんとした手順で扱えば、人を救うことだって出来るんだ。ただ改変次第で本来とは別の結果になったりするけどさ」


人差し指を立てながら俺達にそう説明をする。使い方次第で助けにも害にもなるというのは分かったが、1つ気になることが出てくる。


「改変次第……って言ったけどよ、そんなに簡単に改変できるものなのか?」


よく創作物で見る魔法は呪文なり儀式なりが定められており、それに則る形で行使される。それを改変していくのは一握りの天才達だ。


「実例は見てるんだけどね。ボクが唱えたあれも元は別の呪術を改変したものだし…………よし」


自分が呪術を改変していることを明かしたヴィオが、何か思い付いたように手を叩いて俺とレンの前に出て振り返る。


「君達はボクの呪術を見てるよね、君達から見てあの術の効果は何だと思う?」


そしてそう問題を出してきた。要は術の効果から改変前を当てろという問題か、俺と同じ意図を思ったのかレンも頷く。


「何だって…………相手を骨にする術だろ?」

「パッと見そんな感じだからね」


見るからに攻撃的な効果だった。きっとオリジナルの術も相手を害する術なんだろう。

そう思っていた俺達の予想を裏切るように、ヴィオは指で×印を作った。


「残念。正解は相手の生命力を大地に流す術だ。相手の白骨化はその術で生命力が全部無くなった結果に過ぎないよ」


生命力を他所に流す術…………確かにそれなら肉体が急激に老いていったのにも納得がいくけど、どう考えても物騒なことには変わりは…………いや、待て、まさか…………!


「なあ…………ヴィオ、もしかしてその術の大元って…………生命力を分け与える術なのか?」

「えっ?いやいやそれはないでしょ、どちらかと言えば生命力を放出させる術でしょ?」


俺の行き着いた考えにレンは手を振り否定し、自分の思った術を言う。だけど俺はそれを否定できる根拠がある、生命力を放出させる術なら何故わざわざ大地に流す必要があるんだ?

俺達の考えを聞いたヴィオが、笑みを浮かべて俺のことを指差す。


「セカイ、正解だよ。元々は衰弱した人に元気な人の生命力を分け与える術なんだ」


まじか…………生命力を移すっていう根幹は変わってないとはいえ、こうまで結果が変わるのか。レンも嘘でしょと言わんばかりの表情をしている。


「まあ、呪術に関してはこれでいいか。冒険者ギルドにも着いたことだし」


ヴィオの言った通りいつの間にか冒険者ギルドに着いており、日も落ち始めたため早めの夕食を取ることになった。

俺とレンは肉と野菜のサンドイッチとスープ、ヴィオはパスタを頼みホール端のテーブルに付く。


「…………ねぇ、ヴィオは盗賊の調査に来ていたって言ってたよね。その盗賊ってどんな連中なの?」


レンがおずおずといった感じでヴィオに質問し、俺達の食べる手が止まる。それは、俺も聞きたかったことだ。


「……………………確かに、ボクの提案に乗ってくれた以上説明する義務があるな」


ヴィオも俺達に伝えていいものかを考えた後、頷きフォークを置いて語りだした。


「奴等はここ1年前に活動を始めたのにも関わらず、多くの村や行商を襲っている。並の盗賊なら守衛兵を置いていればどうにかなるが、奴等は違った。守衛兵を打倒し今もなお略奪の限りを尽くしている」


苦虫を噛み潰したような表情でそうヴィオは語る。守衛兵とはいえ正規の軍人を相手にしても引かない様子は、そいつらが並大抵の相手ではないことを理解させられる。


「奴等は、元々はパプルス辺境にあるとある村の住人達だった。それが1年前に村人全員が盗賊になったんだ。その村に置いていた守衛兵諸共ね」


村人全員が、しかも守衛兵もまとめて盗賊になっただって……?到底信じられる話ではない。俺の表情から考えていたことを読んだのか補足する。


「本当に突然だったんだ。半年毎に行われるパプルス国内の監査でも、辺境であるがゆえの不平不満は合ったとはいえ、反乱を起こすほどのものではなかった」

「前々から計画してたんじゃねぇか?監査の時だけいい顔してさ。そうじゃなきゃ村人全員どころか守衛兵まで抱き込めないだろ?」


補足の内容に俺が疑問の声をあげる。守衛兵を取り入れるとなると、それほど長期的な期間でなければいけない筈だ。そんな俺の疑問を首を振ってヴィオが答える。


「守衛兵は監査の度に更迭するからそれはない。それに監査の時だけいい顔をしようものなら更迭の為に首都に集める守衛兵から実情を調査している」


半年毎に更迭したり、更迭毎に調査しているとなると、確かに守衛兵の抱き込みは出来ないだろう。

しかしどうしても解せないな…………。


「なあ、その盗賊になった村の連中って身体鍛えてたりするのか?今も国軍とやり合ってるんだろ?」


そうだ、いくら守衛兵も含めるとはいえ、盗賊になった連中は元は村人だ。全員となるとその中には女子供も混じっているだろう、それでも軍と戦えるとなると相応に身体を鍛えていなければいけない筈だ。


「…………いや、ごく普通に農業で生計を立てる村だ。遺跡の発掘に従事していた連中は分からないが、兵士ほど身体は鍛えられていないはずだ…………確かにおかしい、ただの村人があそこまで戦えるのか…………?」


俺の質問にヴィオは顎に手を当てそう呟き、違和感を口にする。

ヴィオからしてもただの村人が軍と渡り合えてるのはおかしいのか。


「…………ねえ、村人全員が何者かに操られてるってのは無いのかな…………?」


レンがポツリとそう呟き、俺達の視線が向けられる。視線を向けられたどたどしくなるも、レンは自分の考えを言った。


「えっと、昼にヴィオも言ってたよね?パプルスでは呪術が一般でも広がってるって。もしその呪術の中に人を操るようなものがあったとしたら…………なんて」


レンの意見にヴィオが再び考え出す。確かに言ってることには一理ある。人を操る呪術があるのなら、突然村人全員が盗賊になったのにも納得がいく。


「…………確かに人の精神に干渉する術はある。しかしそれも性格が前向きになるか、後ろ向きになるか程度のものだ。いくら改変したとしても、人を操れる程になるとは考えづらい」

「そっか……ゴメンね、混乱させ「しかし一考の余地はあった」て……へ?」


意見を否定され謝ろうとしたレンを遮り、再びヴィオが話す。


「人を操る術…………そこに考えが及ばなかった、2人のお陰でそこに辿り着けた。ありがとう」


そう言って俺達に頭を下げてくる。…………ストレートに礼を言われるのはどうもむず痒いな…………レンも腕を振って否定しているし。


「ところで2人とも、もし人を操る術があり、その術を使い大多数の人間を動かしているとき…………その使用者は誰だと思う?」


頭を上げたヴィオが俺達にそう問い掛けてくる。そうだな、その手のお約束といえば…………。


「指導者、じゃねぇか?」


大多数の人間を自分の目的の為に動かすとなると、相応の地位がなければ怪しまれてしまう。ゲームでも洗脳能力者は高い地位に就いていることが多いし。


「村全体が盗賊になったってことは…………村長?」


俺の考えから盗賊を率いているであろう人物にレンが当たりをつける。それに対してヴィオがもう1つの候補を挙げた。


「または盗賊の首領、だな」

「え?それも村長じゃないの?盗賊の頭領も村長のつもりだったんだけど」

「いや、盗賊の首領は村の村長ではない…………考えてみればおかしい話だ」


村全体が盗賊になったのにも関わらずその指導者が村長でないとなると、レンが言った村人の洗脳の可能性がより確かになる。


「村全体が盗賊になった、けれどもその首領は村長ではない…………本格的に洗脳の可能性が出てきたな」

「村人全員を何らかの手段で洗脳し、盗賊に作り替えた…………か、手段はともかくあり得ない話ではないな」


俺とヴィオが顔を見合わせて互いに考えていたことを言う。2人とも似たような意見だった。


「…………なあ、盗賊の首領が村長じゃないってのは分かってるみたいだから聞くけどよ、もしかして首領が誰か分かっているのか?」


俺とレンは村全体がなった盗賊だからこそ、その首領は村長だと思った。だけどそれはヴィオの手で否定されているが、何を根拠として否定したのだろうか?もしかしたら既に首領について知っているのか?


「…………ああ、知っているとも。最初はボクも村長が首領だと思っていた。だけど奴は、それを否定し高らかと自分の名を叫んだんだから」


握った手により一層力を込めて表面上は冷静に、しかし隠し切れない激情を宿し言葉を続ける。


「パプルスが紫がかった暗雲に包まれた日に生まれ、自分のことを紫盗王(しとうおう)と僣称し、パプルスの全土で悪行を繰り返す悪漢――魔盗賊・シドウ」




盗賊の首領の名前を聞き、ヴィオに話を打ち切られ夕食を再開し食べ終え、明日の朝に出発するための準備を始めた。


「魔盗賊・シドウ…………か」

「セカイ?何か気になることでもあるの?」


準備中にふと盗賊の頭領のことを呟く。レンが何か気になるのか聞いてくるが、どう説明したらいいものか…………。


「ああ、なんか引っ掛かるところがあるんだよな」

「引っ掛かるところって?」

「それは分からん。ただ、何か引っ掛かるってだけだ」


実際、俺も何がどう気になるのかを説明することができない。

ただシドウという奴に、何かしらの引っ掛かりを感じていることだけは分かる。


「それにシドウって奴の名前と自称は聞いたけどよ、素性までは知らないからな」


俺達が聞いたのは、シドウという名前と紫盗王という自称だ。シドウの素性に関しては何も聞かされていない。


「確かに、もしかしたら姓を明かせない事情でもあるのかな?」

「どうだろうな、姓までは知らないって可能性もあるしな」


レンの疑問は、ヴィオがシドウの素性を知ってると思ってのものだろう。だけどシドウの素性をヴィオも知らないという可能性があるのも事実だ。


「はあ…………どっちにしても前途多難だね…………」

「やることに変わりはねぇんだから、そいつらに出会わないことを祈るしかないか」


お互いに準備を終えて各々寝るところに横になる。レンが証明を落とし、少しして寝息が聞こえ始めた。

だが俺は暗闇のなかで小さく気になることを口にしていた。


「シドウ……シドウ……どうも日本語っぽいんだよなぁ……」


そうだ、俺がシドウに対して思っていた引っ掛かる点、名前の発音が日本語っぽいんだ。

レンも名前だけならそう思ったのかも知れないが、フルネームで知っているからかそんな違和感は感じないがシドウに対してはその違和感が強い。


「本当は日本人?いやでもグランフィア(ここ)で生まれたって…………自称だからなぁ…………」


俺のように日本からグランフィアに来た人間かと思ったが、ヴィオの言ったパプルス生まれという言葉が否定をするも、それが自称である可能性も捨てきれない。現に俺が遠くの大陸生まれと誤魔化している訳だし。

そんなことを考えているとふと1つの言葉が思い浮かんだ。


「…………転生者…………ってやつか?」


転生者。死後に自我を持ったまま、別の存在へと生まれ変わった人達の総称。ラノベ業界でも一定数存在する連中だ。

大まかに分けて2つ、死後に突然別の存在として自我が覚醒するパターンと、強大な存在――大抵の場合神様の手によって別の世界に生まれ変わらせられるパターンがある。

そしてそうした転生者達には、何かしらのチートじみた能力を有していることが殆どだ。


「…………いやいや、早計か」


…………正直シドウが転生者だというのはあくまで俺の妄想でしかない。俺は頭を振って考えを振り払い、布団を深く被って眠りについた。



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