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セカイの世界  作者: サクツキ
第一章 紫暗の魔盗賊と紫高なる貴公子
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貴公子との出会い、次の行き先②

「……………………(ガツガツガツガツ)」

「うわぁ…………凄い食べっぷり…………よっぽどお腹空いてたんだね」

「俺としては腹壊さねーか凄く心配なんだがな…………」


時間を遡り、気絶した男を背負いセントリアに戻る最中、牧場主と話を終えたレンが追い付いてきて、ゼノンさんに依頼の完了を伝えてくると言いって来た。

その後関所にて訝しげな視線で見られたがそこは完全に開き直って堂々と関所を通り抜けた。関所を過ぎレンと別れ俺は冒険者ギルドへとたどり着き、男をホールの椅子に座らせた。

俺は最初は数日間食べてない体に負担を掛けないようにスープ類を頼もうとしたが、食べ物の匂いで目を覚ました男がしっかりと食べた感覚の有るものがいいと言い、ゼノンさんへ依頼完了の報告を終えたレンが戻ってきたと同時に男が注文した大量のサンドイッチが届いた所で今に至る。


「ふぅ…………久し振りの感覚だ……しかしこんな食べ方をしたことを知られたら母上に叱られるかな?」


届いたサンドイッチを全て平らげ、口元をナプキンで拭っている。さっきまで気を失っていたというのにその図太さに思わずジト目で見てしまう。


「…………ちょっとセカイ、そんな不躾な目で見ないの。お腹空いて長い間過ごしたらがっつきたくなるでしょ?」

「いや俺はあいつのマイペースっぷりに思うところがあったんだけどな……」


レンに窘められるもついついジト目で見てしまう。俺の視線を感じたのか口元を拭く手を止めて、納得したかのように首を振る。


「うん?……ああ、君は確かにボクの体の事を考えてスープを頼もうとしてくれたね。でも大丈夫さ、思った以上に人間の体とは丈夫なのだから」

「いやそうじゃねぇけどさ…………」


マイペースっぷりに思わずこけそうになるも、俺達は改めてマントのフードを取ったそいつと向かい合う。

髪の毛はレンと同じ紫だが、レンが濃い紫ならばそいつは日本では藤色と呼ばれるような淡い紫で、瞳もレンの赤色と違いアメジストを思わせる紫だった。


「ええっと…………貴方は一体何者なんですか?見た感じ旅人……って訳じゃなさそうですし」


レンの問いに俺も頷く。男は旅人にしては荷物の類いがあまりにも少なく、背負っていてもあまり重さを感じなかった。

旅人であることを否定する理由はそれだけじゃない。


「あんた、レンがお礼の物渡そうとしたとき高貴なる者の何とかって言ってたよな?もしかして、あんたどっかの貴族なのか?」


そうだ、レンがお礼の者を探しているときにそう言って制した。そこから俺達はこいつがそれ相応の身分にあることを推測して話をしている。……正直言って無礼な態度をとっている時点でかなりアウトなんだろうけど、不思議とそれに対する恐怖心はない。


「む…………そうだな、ちゃんと自己紹介をしなければ…………しかし、君達の事も教えてくれないか?助けてくれた恩人の名前を知らないというのは悲しいことだ」


そう言ってこちらに手を差し伸べる。…………先にこちらが名乗る流れになってしまったが、俺達は互いに顔を見合わせて頷く。


「レン・グランフィールドです」

「セカイ・オオハシだ、あんたの名前は?」

「レンにセカイ…………うん、言い名前だな」


俺達の名前を聞くとその響きを噛み締めるように呟きながら頷く。少しして自分が名乗っていなかったことに気付き軽く咳払いして口を開いた。


「コホン…………失礼、ボクの名前がまだだったね?ボクの名前はヴィオ。君達の想像通り、紫国パプルスのやんごとなき身分の生まれさ。訳あって姓は避けさせてもらうよ」


ヴィオ、そう名乗ったそいつは握手を求めるようにおもむろに手を差し出す。おずおずと言った感じで手を握ると笑みを浮かべて握り返される。

それにしても、やんごとなき身分を自称しながら姓は隠すか。悪名高い家の出なのか、それともおいそれと明かしてはいけないほどの位なのか。


「それでヴィオさんよ「呼び捨てで構わないよ」……ヴィオ、何であんたはあんなとこに居たんだ?やんごとなき身分なら護衛の1人や2人は付きそうな筈だし、そもそも旅行って風体でも無かったよな」

「む…………それはだな…………」


俺の問いにヴィオは口を閉じ言い淀む。何かしら疚しい事でもしていたのだろうか。しかし高貴なる者の義務とか言って人助けをするような奴がそんな事をしているとは信じられない。

やがて意を決した顔をして俺達に事情を話し始めた。


「…………実はな、パプルスでは今問題が起きている。盗賊被害だ」

「「盗賊被害?」」


俺達は2人揃って首を傾げる。盗賊なら俺も出てもおかしくはないと思っていたが、俺とレンが首を傾げた理由はそれじゃない。


「……もしかして、ヴィオは討伐隊でも指揮していたの?」


レンが気になっていたであろう事を言う。ただの盗賊被害ならある程度戦える戦力を集めて討伐に動けばいいのに、貴族であるヴィオがわざわざ出張っていることだ。

もしかしたら箔付けのために部隊を指揮していたのかもしれない。しかし、ヴィオは首を振って否定する。


「いいや、討伐隊は国で動かす。ボクが指揮していたのは調査隊だよ」


ヴィオはそう言いレンは納得した表情を浮かべるも、俺としては新しい疑問が沸いた。


「いや盗賊討伐に国が動くって……パプルスの軍が出張るってことだろ?そこまでの連中なのか?」


ヴィオの否定を聞いて浮かんだ疑問、たかだか盗賊相手に国が動くかということだ。

普通ならある程度の階級の人間に権限を与えてその人主導で行われることだろうが、そういうことをせずに軍部が動いているということはよっぽどな事態なのかもしれない。


「恥ずかしながらね……村や街の守衛兵じゃ相手にならず、しかも奴等は神出鬼没でどこからどう動いているのかすら分からない状況なんだ」


そう言い両手を握り締め悔しそうに顔をしかめる。そんなヴィオの様子からよっぽどの相手なんだと容易く想像できた。


「ボクの調査隊も、襲われた村の救援物資の配達のついでに奴等がどの様に現れたのかを調査するはずだったんだけど……」

「その盗賊達にかち合った、と」


俺の答えに頷く。自分達が襲撃を受けたときの光景を思い出しているのか、その顔は怒りに歪んでいる。


「奴等は1度現れた場所には早々と出てこないはずだったんだけど……その道中で偶然かち合った奴等がボクを狙って襲い掛かってきたんだ。ボクは自ら囮を買って出て、それこそ3日3晩の逃走劇を繰り広げ、撒けたと思ったらセントリアの領域内で、街道まで出ようとして君達に会ったんだ。」


そう語り終えたヴィオは語っている最中に思い出した怒りを抑えるためにコップの水を一気に呷る。俺達はただそれに何も言えなかった。


「俺達としては何とも言えないが……あんたはどうするつもりなんだ?」

「ボクは1度本来行く予定だった村へと向かう。囮となる際に副隊長には先行してるようにと伝えているから村に行けば合流できるかもしれないからね」


合流する場所が決まっているからと出発することを宣言する。俺達としてもどこに行くかを決めるいい判断材料になったし。


「盗賊騒ぎか…………パプルスは危険そうだな……だったら他所の国から回…………レン?何顔青くしてんだ?」

「えっ!?いやっ!?その……………………」


……やけにたどたどしく答えるな。訝しげな視線をレンにぶつけていると、人差し指同士を合わせて気まずそうに聞いてくる。


「…………あのね、セカイ。良い知らせと悪い知らせがあるんだけど、どっちから聞きたい……?」


映画の中でしか聞いたことのない台詞にキョトンとするも、答えてくれるというのは分かった。


「何でそんな事聞くんだよ…………じゃあ良い知らせから」

「分かった……叔父さんに依頼完了の報告をしに行ったでしょ?その時に新しい依頼を叔父さんから受けたんだ。しかもかなりの遠出だからって報酬とは別枠で旅費も出してくれるみたい」


レンが伝えた知らせは確かに良い知らせだった。冒険者カードが無くても依頼という名目ならセントリアの外に出られることは前回の依頼で確認済みだし、上手く行けばこの依頼で冒険者カードの発行資金も貯まるかもしれない!


「えっと……幸せそうなこと考えてるところ悪いけど……次は悪い知らせだけど……いい?」


どうやら俺の考えていることは案外顔に出やすいようだ。レンの言葉に僅かに固まり一気に冷静になる。


「コホン……悪かった。で、悪い知らせってのは?」

「叔父さんの依頼がね……薬に使ってる薬草がそろそろ尽きそうだから買ってきてっていうのだったんだけど……遠出って言ったように、セントリアでは売ってない薬草なんだ」

「ふーん、薬草ねぇ……………………薬草?」


薬草という言葉が引っ掛かり、首を捻る。セントリアでは取り扱ってない薬草か…………いや待て、確か今朝に薬草関係の話を聞いたような気が……


「えっとね…………その薬草を売ってるの…………というよりその薬草が生えてるのがね……パプルスなの」


それを聞いた瞬間俺は頬が引き吊り固まった、そんな俺を見たレンも溜め息をついて肩を落としている。ヴィオだけは再び注いだ水を呷っている。その図太さが今はとても羨ましい……!


「……………………キャンセルは?」

「出来ると思う?資金援助も受けたのに。それにパプルスが危険ってのは今知ったよ……」

「だよなぁ~っ……!」


思い切り脱力してテーブルに突っ伏す。依頼という形とはいえ盗賊騒ぎのあるところに行くなんて冗談じゃないぞ……!

レンもパプルスが危険な状態だということを今知ったらしく頭を抱えている。いや、知っていたらパプルス行きの依頼を受けようともしないし、恐らく依頼を出したゼノンさんも知らなかっただろう、知ってたら出さない筈だし。

どうしようかと考えているところに、水を飲んでいたヴィオが声を掛けてきた。


「ふむ…………要は盗賊達に遭遇しなければ良い話という訳だな」


そう宣うヴィオに俺達は訝しげな視線を向ける。自分だって盗賊に追われてここまで来てたというのに何のつもりだと言いたげな顔をしているだろう。


「そうは言うけどね…………?」

「出来れば簡単じゃねぇんだよ…………」


2人して否定的な声をあげる。そんな視線や意見に動じずにヴィオは言葉を続ける。


「元々ボク達は盗賊の出現パターンを調べてててね、そして奴等は1度現れた所にはしばらくの間出て来ないことが分かったんだ。ボクが盗賊の出てこないルートを教えて上げるよ」


そうヴィオは言うもそれを聞いて俺達の訝しげな視線はより強くなった。言いたいことは多分一緒だろう。


「…………それ、盗賊に遭遇して逃げてきた人が言っても説得力からっきしなんだが」


俺の言葉にレンが頷く。俺の言ったことはヴィオも自覚してるのか顔を赤くして咳払いをする。


「コホン……ボク達だって会いたくて会った訳じゃ……いや、調査隊ならいつか会わなきゃいけない訳だし……いやいやそうじゃない、ボク達は本拠地へ帰還する奴等と偶然かち合っただけだし、村自体は襲われてない筈だ。いや前に襲われはしたけど……」


なるほど、ヴィオの言いたいことが何となくだが分かってきたぞ。


「村を経由して行けば盗賊とかち合わない……ってことか?」

「そういうこと。さらに村に行けばさっきボクが言ったように調査隊も居る。君達の首都入りまでちゃんと護衛もできるのさ」


ヴィオはそう胸を張って言い張る。……ヴィオの意見は正直ところ信じられない点が多い。だけどゼノンさんの依頼や俺個人の理由からあまり選り好みしてる余裕は無さそうだ。


「……分かった、お前の言うこと信じて村を通って行こう」

「セカイ!?」


俺の答えにレンがぎょっとする。俺だって安全策が取れるなら、それこそ盗賊騒ぎが収まるまで行くのを遠慮したい。しかしそうは言ってられないのが現実だ。


「ただし!最低でも1日は時間を貰うぞ。俺達の旅の準備だって全く出来てないんだし」


元々今回のパプルス行きだって、突発的に出てきたものだ。最低でも俺やヴィオの寝袋、村に着くのがどのくらいか分からないがある程度の非常食くらいは用意しておきたい。

俺の答えを聞くやヴィオは笑みを浮かべて手を合わす。


「よかった!我ながら早々信じて貰えるか不安なところだったんだ。セントリアから目的の村までおよそ2日、夜も進み続けたら1日で着く距離だからそれを元に準備してくれ。ああ、それとその村から首都までは3日位掛かるからね」


そう言ってヴィオは席を立ちカウンターへと向かって行く。昼食代の支払いとおそらく今夜泊まる部屋を取る為だろう。さて……こちらも問題を片付けるか。


「む~~~っ!」


視線をヴィオからレンへと移すと、案の定レンは膨れっ面になって唸り声をあげている。まあ、勝手に行く行かないを決められたらそりゃあ起こるわな。


「まあまあ落ち着けって。元はと言えば、お前が勝手に依頼取ってきてからじゃねぇか」

「それはそうだけど!それでもちょっとは相談する時間は欲しかったよ!ああもう!」


思いっきりテーブルを叩き詰め寄りながらそう叫んだあと再び頭を抱えている。言われっぱなしも流石に来るものがあるし、こちらも言い返す。


「でもな、旅しているんだからいつかは危ない橋渡ることになるのは分かっているだろ?それに、今回は村まで行けば護衛が付くってあいつも言ってただろ?もしこの機会を逃したら、今度こそ本当に盗賊騒ぎが収まるまで待たなきゃならなくなるかも知れないし」

「う……………………確かにそうだけどさ…………」


俺の説明を聞いてレンも少しずつだが怒りを鎮めていっている。よし、あともう少し。


「遅かれ早かれ行くことにはなってたんだし、だったら何やかんや機会がある時に行った方がいいだろ?」


俺の言葉を聞いてレンは頭を抱え、少しして溜め息を吐いて肩を落とした。……よし、レンの怒りも収まったな。


「はあーっ……分かったよ。だったら早く準備しないとね」

「おう、ヴィオの分も必要になるだろうから呼びに行くか」


そう言って俺達は揃って席を立ち、カウンターで支払いを終えたヴィオの元へと向かった。

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