秘宝は未だ眠りのなか
「とんでもないことが明かされたけどよ…………要はどうすりゃいいんだ?」
リトを狙うサノを裏から操る黒幕、魔神クラークの存在が明かされたときに俺が思ったのはそんなことだった。
「蒼海神は俺達に海王の証を奪われるなって言ったけどよ、船もない俺達じゃいつかサノに追い詰められて終わりだぞ?」
先日のサノによる襲撃、そして岩鯨との事故でタラス号はもう動かせないほどに壊れてしまった。そんな状態でサノから証を守れだなんて無茶にも程がある。
「それに、もしサノ以外に手駒が居たとしたら、そいつらとサノとの挟み撃ちだ。万が一やつらがやり合ったとしても、数的不利は覆せねぇよ」
『それに関しては問題ない』
そこまで言って蒼海神が口を開く。何に対しての問題ないだろうか。
『元来クラークやつの手駒はサノ1人に過ぎぬ。サノは、やつが自らの僕とするためにその魂に直接手を加えたのだから。1度は見逃したが、それ以降警戒している』
なるほど、サノは生まれたときからクラークの手駒になるよう弄られており、そしてその1度以来2度と同じことが起きないよう警戒し続けて居るからこそ、サノ以外の手駒が居ないことが分かるのか。だとすると…………。
「それって……サノが討たれたらもう狙われることがないってこと?」
レンがそう気になったことを聞く。確かにサノしか手駒がないとすると、サノが討たれたらもうクラークの手下で狙ってくるやつは居なくなると思える。そしてそれを認めるように、蒼海神は頷いた。
『然り。やつが討たれれば、クラークも封印の外から干渉できまい』
どうやらレンの予想は当たったらしい。そしてそれを聞いてリトは表情を鋭くする。
「言われなくても、サノは元々僕が討たんとしている相手だ。今さら理由が増えたって構わない」
そう決意を込めて宣言する。それはいいけど大事なことを忘れてないか?
「決意を改めるのはいいけどよ、俺達には船がないんだぞ。それ分かってんのか?」
俺の言葉を聞いてリトがはっとなる。船がなきゃサノと同じ土俵に上がれず、島の外から一方的な砲撃をされて終わりだ。
そう思っていると蒼海神が再び口を開く。
『船なら、ある』
「「「「!!」」」」
海底にあるムーティスに船があると言われ俺達は驚愕の表情を浮かべる。いや待て、たしかサフィーラで読んだ本やイローさんの話だと、クーロさんは船を蒼海神に返したってなかったか?だとすると、今言った船ってのは……!
『かつて港だった場所に、我が友が造り上げし船がある。それを使え』
そう言って尾びれで俺達の後ろの通路を指し示す。一旦街の方へ戻れってことか。
『セーレ、案内を。私は再び眠る』
「はっ、皆様私についてきてください」
蒼海神はレーネさんに指示を出し、レーネさんは一礼して俺達についてくるよう言って来た道を引き返して行く。
その後をリトを先頭にレーネ、レンと続くなか、俺は蒼海神の前にまだ立っている。
『…………まだ何用か』
俺が残っているのを見て、まだ用件が残っているのかと聞いてくる。ちょっと気になったことがあって残っていたんだが、どうやら意図を汲んでくれたらしい。
「ちょっと気になったことがあってさ」
『気になることとは?』
「海王の証。何度か話題に挙がってるけど、それって一体何なんだ?」
そう聞くと蒼海神は黙ってしまう。これは聞き方を間違えたか?
「聞き方が悪かった。別にどんな形なのか聞きたい訳じゃないんだ」
むしろ俺達が形を知らないことが、一種のカモフラージュになっているんだ。それは下手に聞かない方がいいと思っているし、俺が聞きたいのは形じゃない。
「俺が聞きたいのは、その海王の証の力だ。海を制する力と言われているけど、何でそれでクラークの封印が解けるんだ?」
俺達が聞いた海王の証の力は、秘宝の船にその名に違わぬ力を与え荒ぶる嵐さえ静め海を制する力だ。それなのに何でクラークの封印に関係するようなことばかり言われるのかがずっと気になっていたんだ。
『…………海王の証は、海より力を汲み取り望みを叶える秘宝。嵐を静めたいと願えば嵐を静め、どこまでも行きたいと願えば無限の力を持って船を動かす』
「そりゃあ、随分とんでもないものだな」
蒼海神の説明に、俺は頬がひきつる。精々封印の要に副産物的な能力が付いた程度だと思っていたんだが、それ以上の厄ネタじゃないか!
「でも納得いった。それならクラークの封印だって解けるわな」
『左様、そもそもクラークの封印は海王の証をもって成された』
思った以上に厄ネタだった。これ、どうやって説明しよう…………。
「あー…………知りたいことは分かった。ありがとう」
一先ずレン達と合流するのが先か。そう思って俺は蒼海神に礼を言って広間を後にする。
その背後で、蒼海神が再び大穴の深淵へと潜って行くのを感じながら俺は先に行ったレン達を探して廊下を走り出した。
俺達が神殿からムーティスの街へと出ると、広がっていた光景に俺達は目を見開く。
「人……なのかな?」
ムーティスの街には俺達が神殿に向かっていたときとは違い、あちこちに人影を見かけるが、その姿を見てレンは人と言い切れなかった。彼らにもセーレさんのように手足と顔にひれが付いていた。
「みんなセーレさんみたいに手足や顔にひれが付いている。そういう種族なんだろうな」
そう言うもそのひれの使い道が分からないんだけどな。でもみんなが違和感なく接しているところを見るにここの住人には当たり前にある器官なのだろう。
「我々『海人族』は、このひれを使い海を自由に泳ぐのです」
俺達の話を聞いていたのかセーレさんがそう説明してくれた。するとリトが顎に手を当てて何か考える素振りをする。
「海人族…………伝説や噂話でしか聞いたことはなかったけど、実在してたんだ…………」
「へぇー……どんな伝説や噂話なの?」
リトの呟きを聞いて、レンが興味を持ち聞こうとする。リトは話していいのかと視線をセーレさんに向けると、セーレさんは困ったような笑みを浮かべて小さく頷いた。
「海人族の歌に夜の海の上で魅入られると、その船は沈んでしまうって伝説があるんだ。他にも一目惚れした漁師の元に嫁いでくる海人族の女の話とか、逆に海人族の男に一目惚れした女が海へと身を投げ出す話とか、体感的に物騒な話が多いかも」
そう何とも言いづらそうな表情をしてリトは教えてくれた。グランフィアにおける人魚みたいなものか。そう思ってセーレさんの方を見ると、身内の恥に恥ずかしがり手で顔を覆っている。
「あの…………本当にすみません。僕の知ってる話ってのがそんなものばかりなんです」
「い…………いえ、実際に起きてしまったことですから……」
リトが慰めるも、かえって身を縮めてしまった。お前のせいだぞ言いたげにレンを見ると、聞いた自分が悪いと思っていたようで話を変えようとした。
「と、ところで!!僕達こんな風に海の中に居るけど、どうして息ができるんですか?やっぱり周りのあれが理由?」
そう言ってムーティスを囲うドームを指差す、確かにそれは俺も気になったいた。話を変えようとしたのを察してくれたセーレさんは、こほんと咳払いをして説明をしてくれる。
「このムーティスの周りは、我が主が陸からの来訪者のために地に足を着けて歩き、生きていけるようにしているのです」
「ん?だとすると蒼海神は何で普通に泳げていたんだ?」
セーレさんの説明を聞いて疑問に思ったことを呟く。その説明だと水のない空間が作られているように思えるんだが、蒼海神が出てくるときに感じた水流は紛れもなく本物だった。
そう聞くとセーレさんは説明を続けてくれる。
「ここは我々にとっては水中であることに変わりありません。ですので……」
そう言ってセーレさんはその場で小さくジャンプする。するとセーレさんは地面に落ちることなく浮き上がった。
「う、浮いた!?」
「このように泳ぐことだって可能なのです。ですが、私達もムーティスの中では歩くことができるので、皆歩いていますがね」
その光景に驚く俺達を他所に、セーレさんは水中にいるかのように俺達の回りを自在に泳ぐ。いや、セーレさんの説明からして実際に周りは水中なのだろう。ただ、このドーム内だけ俺達のような地上の人間が居きられるように整えられているという訳か。
「…………さて、そろそろ港へと着きます。くれぐれも足を踏み外さないで下さいね」
話していたらいつの間にか港に近づいていたらしい。セーレさんがそう言って地面に降り立ち俺達を先導する。
そうして港へと入り、その光景にセーレさんの注意の意味を理解した。
かつてムーティスが海上にあったときに使われていたであろう石造りの桟橋、それが深海に沈んだ今も壊れずに残っており、その横には港に建てられた塔から吊るされる形で保管されていた1隻の船があった。
白亜の船体に青の装飾、そして船体両側面に備え付けられた2つのパドル。大まかなシルエットはタラス号に酷似していた。いや、出自からしたらこの船にタラス号が似ているのだろう。
そして船に視線が行きがちだが、本来であったら水面があるであろう桟橋横は、深い奈落が口を開けている。俺達が地面に足を着けて動いている以上、もし桟橋から落ちたら確実にムーティスを覆うドームから外に出てしまうだろう。そうなったらどうなるのかは想像したくない。
「危ねぇところに保管してんな…………他に何かなかったんですか?」
「我々には船に乗るという文化自体がないので、こうなってしまったんです」
前に来た方々にも言われたんですよ?と困ったような笑みを浮かべて言われるも、だったら直してくれという感想しか出た来なかった。
気を取り直して俺達は吊るされている船へと視線を向ける。大まかな特徴は本で見た秘宝の船と一致しており、本に記されていなかった部分として、船首が蒼海神の顔になっていて蒼海神の一本角は衝角として前面に突き出ており、左右の頬ヒレは側面を守る盾として機能している。
「これが……秘宝の船か…………」
「大昔にクラークを蒼海神と共に封印して…………」
「お爺さんがアスルを探索するのに使った船…………!」
船を見て俺とレン、そしてリトは感慨深い思いを抱く。特にリトにとっては偉大な祖父が乗った船だ。俺達以上の思いがあるに違いない。
「宜しかったら、船内の確認をどうぞ」
セーレさんはそう言うと、船の方へと泳いで行く。そして船に乗り込むと、俺達の方に向かって梯子を降ろしてくれた。
俺達はその言葉に甘えて梯子を上り船へと上がる。これが秘宝の船か…………!
「これが本当に大昔の船なのかよ……!どこも全く痛んでねぇ!」
大昔に作られたと言われた割には、船は綺麗で建造したてのような雰囲気を醸し出している。
さらに言えば船に乗るときに船体にちょっとだけ触れたのだが、その感触は木材のものではない、金属のものだった。
「こりゃあ、世に出せねぇ訳だよ…………」
そう船体を撫でて呟く。大昔の船がまさかの金属製なんて告げられたら、当時の造船技術に対して大きな波紋が起きるのは間違いない。この船を蒼海神の元へと返す判断をしたクーロさんや同乗していた旅人はそれを分かっていたのだと思う。
「ねえセカイ!!こっちに来てよ!凄いものがあるよ!!」
船首の方からレンが俺を呼んでくる。凄いものってなんだ?聞いたとしても、こういうときのレンって「見たら分かるよ!!」って言って教えてくれないから見に行くしかないんだがな。
「なんだ?その凄いものってのは」
「ほら!ここ見てよここ!!」
俺がレンの元へと向かうと、レンは船首から身を乗り出して蒼海神の顔を指差す。
「確かに近くで見るとすげぇ迫力だなこりゃ」
「そうじゃないって!ほらそこ!!」
どうやら蒼海神の顔ではないらしく、レンが俺の体を押して──まずい落ちる!!
「危なぁっ!!」
「せ、セカイっ!?」
とっさに船の縁に爪先を引っ掻けて悪あがきをし、レンが俺の足を掴み取り一先ずは事なきを得た。
「あ……危ねぇ…………!おいこら!!何やってくれてんだ!!」
「ご、ゴメン!!僕もそんなつもりじゃなかったんだよ!!」
落ちかけたことに俺はレンに向かって怒鳴り、レンも謝ってくる。だけれどズルズルとレンの体が俺の方へと引き摺られている音が聞こえ始め、俺達は蒼白になる。
「だ、誰か──っ!!」
「た、助けて──っ!!」
「何やってんだお前達はっ!?」
俺達の叫びが聞こえたようで、慌ててレーネがやって来てレンの腰を掴んで引っ張る。そうして少しずつだが俺の体も上に上がり始め、俺は安堵の息をはいた。
「あー危なかったー……………………ん?」
今、蒼海神の鼻先の辺りに何か変な窪みがなかったか?鼻の彫り込み…………にしては位置がおかしかったような…………。
「「せえ……のっと!!」」
「わっと!!」
そんなことを考えていると、レンとレーネが俺を引っ張りあげて俺の体が甲板へと上がる。それを見て2人は大きく息をはいた。
「はぁ~~~~…………助かった…………」
「全く…………本当に何やってるんだお前達は」
安堵のため息をつくレンを他所に、レーネは俺達に向かって小言を言い始める。不用意に船の縁に行った俺達が悪いと認めて、甘んじて受けていたら船内へと行っていたリトが戻ってきた。だけどその顔色は優れない。
「どうしたんだ?そんな顔して…………」
「ああ、うん…………セーレさんを呼んでくれる?話したいことがあるんだけど…………」
「お呼びしましたか?」
リトがセーレさんと話があると言うと、俺達の横にセーレさんが現れる。
「わっと、セーレさんどこに行ってたんですか?」
「他の仕事を片付けていました。それより、先程何か救助を求める声が聞こえたのですが…………」
そう首を傾げるセーレさんを見て、レーネは俺とレンを冷めた目で見てくる。いや、本当に申し訳ない。
「大丈夫です、そっちは既に済んだことなので」
「はあ…………そうですか…………」
「それよりも、一旦地上に戻りたいのですが…………」
地上に戻りたいと言うリトに、セーレさんが不思議そうに首を傾げる。
「この船を動かせば、海上に出れますが…………それがどうかしました?」
「あー…………動かさなきゃいけないのか…………」
セーレさんの答えを聞いて、リトが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。もしかして…………。
「もしかして、動かせないのか?」
「…………両パドルの燃料に使われている火封石が両方ともすっからかんだ。これじゃあこの船は動かない」
そう頭を掻きむしりながら言う。となると一旦地上に戻りたいという理由はそういうことか。
「じゃあ、どこからか火封石を持ってこなきゃいけないわけだ」
「幸いタラス号の火封石はまだ使えるからね、そこから持ってくるつもりなんだけど…………」
そう言ってドームの頂を見るリト。確かにタラス号から火封石を持ってくるとなると一旦地上に出なきゃいけないな。
「そういうことですか。でしたら、貴方方が初めに居た場所に、地上へと通じる門があるはずです。そこをお使いください」
そう言ってセーレさんは仕事が残っているのでと言って俺達の元を去っていった。残された俺達は顔を見合わせ、リトが口を開いた。
「…………とりあえず、さっき言った通りこの船を動かすには燃料が足りない。だから今から戻って火封石を持ってくるよ」
「…………まだ積んだままの場合はどうするんだ?」
「その時はタラス号から持ってくるよ。それに、これだけの大きさの船を動かすとなるともっと人手は必要だしね。それでいい?」
次の方針を決めたリトに対して俺達は頷く。船を動かすだけでなく、サノともやりあうのなら確実に今のままじゃ手が足りないだろうし、タラス号のみんなには手伝ってもらいたい。
「それじゃ、戻ろうか!!」
リトの号令に俺達は頷き、船を下りてムーティスの入口へと歩き出した。
小さな小鳥の鳴き声が耳に入り、俺は瞑っていた目をあける。ここは…………?
「………………っ!遺跡っことは……レン!リト!レーネ!」
意識がはっきりした俺は、辺りを見回してここが俺達が飲まれた大渦ができた泉のある遺跡だと気づき、横で意識を失っている3人に対して声をかける。
「あう…………」
「うっ…………」
「むぅ…………」
すると、3人共口から呻き声を漏らして閉じていた目がうっすらと開く。先んじて起きた俺は立ち上がって3人を座らせた。
「…………はっ!みんな、無事!?」
「何とかな、それに周りを見てみろ。戻って来たぞ」
いち早く意識がはっきりとしたリトが俺達に無事かどうかを確かめて、俺はそれに答えてリトに戻ってきたことを教える。
それを聞くとリトは立ち上がり辺りを見回す。信じられないと思われてるのかもしれないけど、まあ確認は大事だな。
「本当に、戻ってこれたんだね」
「おう。それに、結構な時間向こうに居たっぽいな」
そう言って遺跡の入口を指差す。そこからは赤く染まった夕日が差し込んできて遺跡を赤く染め上げている。
「心配していなければいいのだが…………って、なんだその目は」
続けて頭が回り出したレーネがそう心配そうに呟く。ムーティスに朝から行って今まで行方知れずになっていたと考えると、それは仕方ないんじゃないか?
そんな風に思っていたらじとっとした目を向けられた。いかん、何でこんなことばっか読まれるんだ俺は。
「っ!!みんな!壁を見て!!」
突然レンが叫んで俺達は何事かとレンの方を見ると、レンは泉よ奥の壁を指差していた。
確かその壁は苔がびっしり覆われていたものじゃ…………って、なんだこれは!?
「壁が……光って…………」
「苔が剥がれていってるぞ…………」
リトとレーネが言うように、泉を囲う壁のうち3つが突如として輝きだし、壁面に付いていた苔がパラパラと剥がれ落ちていく。
そうして壁の苔の大半が剥がれて落ちると、光が収まっていき壁の本来の姿が露になる。
「これは…………」
「壁画、か?」
苔の下にあった壁、そこには壁画が刻まれていた。その壁画に俺とレンは見覚えがあった。
「セカイ、これって…………」
「ああ、パプルスやアマリーの壁画と似ている」
そう、遺跡の壁画は俺達がパプルスとアマリーで見たら壁画と絵の感じがほとんど一緒で、同じ民族が描いたと言われても納得できるほどだ。
それに気づいた俺は壁画を注視しあるもの探すが……見つからない。
「古代文字は…………見つからないね」
「まだ苔が残ってるところに彫られてるんだろ。今は見ることはできねぇな…………」
俺と同じく古代文字を探していたレンがそう呟き、俺は古代文字が彫られているであろう場所を言う。
そうなると、壁画の内容から大まかなものを推測するしかないのか…………アマリーで誤訳が伝わってたから、いまいち安心できないんだよなぁ…………。
そんなことを思いながら壁画へと目を移す。俺達から見て1番左側の壁画は数多の触腕を有する下半身、そして鋏のような手をを持つ異形が描かれている。
真ん中の壁画はその異形に対して一角の竜が口よりブレスを吐きその体を貫いている様が描かれ、右側の壁画には触腕に囚われる竜に、その竜を助け出さんとする船が描かれていた。
「これは…………蒼海伝説の壁画か?」
「待ってよ!これだと…………蒼海神は負けちゃってるよ!?」
壁画の内容から、これが蒼海伝説の魔神退治の場面かと思ったが、それにレンが待ったをかける。
確かに左から右に見ていったら、最終的に蒼海神が魔神の触腕に囚われる場面で終わるため、バッドエンドとなってしまうが…………。
「こういうのは真ん中を最後にするんだよ、そうすると…………」
俺の言った通りに左、右、真ん中の順番で読むと、魔神に1度囚われるも、船の助力で解き放たれそのブレスをもって魔神を討ったこととなる。
「本当だ、蒼海伝説の通りになった」
「ま、蒼海伝説自体が誤訳だったら分からんけど…………蒼海神の様子からして合ってるだろ」
それにしても、こんなところで蒼海伝説の壁画を見ることになるなんてな…………。そんなことを思っていると遺跡の入口側から声が聞こえてきた。
「レーネ!!居るか!!」
「キャプテーン!!無事ですかー!!」
声を聞いたリトとレーネが互いに顔を見合わせる。
「これは……!」
「助けだ!おーい!!こっちだ!!」
リトが大声をあげて俺達の居る位置を伝える。すると俺達の元へも向かって足音が聞こえてきた。
「レーネ!!」「キャプテン!!」
遺跡の入口から2人の男──レーネと共に俺達を捕らえた男と、ラダさんが現れ、俺達を見るとほっと一息をつく。
「どこに行っていた。村長が心配していたぞ」
「イローの爺さんは、気にせんくてもよいって言ってたけど、心配なものは心配なんすから」
男はテテュさんが心配していたことを伝えるも、ラダさんはイローさんが心配していなかったことを言ってくる。それを聞いてリトは顔を俯かせる。
「イローは…………知っていたんだろうな…………このことを…………」
傍目から見たら心配されなかったことに対するショックを受けているように見えるだろうが、隣に居てリトの呟きを聞き取った俺達にはこの遺跡の真実を知っていたからこそ心配しなかったのだと納得しているように見えた。
「リト?」
「ん、ああ、そうだね、一旦戻ろうか。僕達がどこに行っていたかは、そこで教えるから」
レーネに声をかけられ正気に戻ったリトは2人にそう言って立ち上がる。確かに俺達が行っていた場所はおいそれ明かせるような場所ではなかった。説明するにしてもある程度機密性の守られる場所じゃないとな。
リトや俺達の様子から、帰れるであろうと見て2人は俺達の無事を伝えると言って先に戻って行った。
「…………なあ、本当に説明するのか?そもそも、こんな話信じてくれるのか?」
リトが説明すると言ってから、ずっと不安げな表情を浮かべていたレーネがそうリトに聞くと、リトは小さく首を振る。
「仕方ないよ、僕達だけであの船を動かすことはできないし。それにタラス号の物資を使うとなると、否応なくバレるからね。それなら僕達の話を事実だと認めてくれる人達が居る場所で説明した方がいいんだ」
そうリトが説明するとレーネはまだ納得がいってないようだが大人しく引き下がる。
確かに普通だったら与太話扱いされるだろうけど、協力してもらうには詳しく説明するしかない。それならムーティスについて知っているイローさんやテテュさんが居る元で話した方が遥かに信憑性が上がるだろう。
「少なくとも俺達4人、同じ事を言ったらある程度は信じられるだろ。それよりも戻らねぇとあいつら戻ってくるかも知れねぇぞ?」
そう言って俺はレーネに立ち上がるよう促す。俺達の生存を伝えに行ったとなるとおそらく走って伝えに行っているはずだ。
これ以上時間をかけると迎えが来るかもしれないし、流石にそこまでは迷惑はかけられない。
「…………そうだな、こうなったら後のことは後で考えよう」
そう言って頬を叩いてレーネは立ち上がり、遺跡の出入口へと向かって行き俺達の方を振り向く。
「戻るんだろう?早く行くぞ!!」
「分かってるって。セカイ、レン、行こうか」
先に行くレーネに苦笑いを浮かべながら俺達に呼び掛けながらリトが歩き出す。俺もレンを立たせてその手を引いて歩き出すと、レンが俺の手を引っ張ってきた。
「どうしたんだ?」
「うん……ちょっと気になったんだけど……あれ、本当に蒼海伝説の壁画?」
レンのその言葉に俺は足を止める。
「…………どうしてそう思ったんだ?」
「うーん…………なんだろう、直感……かなぁ」
思わず膝から崩れ落ちそうになった。直感でそんなことを言うなって!
「馬鹿なこと言ってないで戻るぞ。もう結構離されてるんだし」
「あっ!もう、ちょっとくらい考えてもいいじゃないか!」
ため息をついてレンの手を引き先を行く2人に追い付くよう早足で歩き出す。俺の後ろで文句を言いながらもついてくるレンを他所に、俺はレンが気づかなかったものについて考える。
(…………左の壁画のあれは…………)
クラークを描いたと思われる左の壁画、クラークの胸元に不自然に残った苔でレンは気がつかなかったようだが、その苔は僅かながら人型に窪んでいて苔の下に人らしきものが描かれているのを読み取れた。
(クラークの手下として動いているサノ…………気のせいだよな……?)
クラークと一体となっている人影に、俺はクラークの僕と言われているサノを思い浮かべ嫌な繋がりを感じずにはいられなかった。
「セカイ?行こうって言った君が遅れてるよ?」
そんな考え事をしていると、気づかないうちに俺を追い越していたレンが俺の顔を覗き込んでくる。いけない、バレないようにしねぇと……!
「悪い悪い、あんまり飯食えてなかったからちょっと力出ねぇんだわ」
「そっか!だったら早く戻ってご飯食べないとね!」
俺の嘘を信じたレンは、そう言って笑顔で俺の手を引いて走り出す。俺も釣られて若干笑いながらも誤魔化せたことに安堵して手を引かれるまま走り出した。




