中央都市国家セントリア②
門の前でレンと合流するとそれを待っていたかのように門番の人が門の扉を開く。
開けられた扉から進んだ俺達を待っていたのは、大人数の賑わいだった。セントリアの出入口という立地のためか、お土産と思われるような小道具やお菓子を売っている店がちらほらと並んでいる。
「入ってすぐだが、流石中央都市国家。人混みがすげぇな……」
「うわ~~~~っ…………人がいっぱい…………」
外から見ただけでは分からなかった人の賑わいに若干気圧されるが、目をキラキラと輝かせているレンに思わず苦笑した。
「なんだよ、まさかここまでの人混みは見たことがないのか?」
「うん、僕が住んでた村は此処に居る人の半分も居ないし、ここまで村とか町とか1つも寄らずに来たし…………と言うより見つからなかったってのが正しいんだけど…………あ~~っ……何で折角の旅なのに何処も寄らずに来たんだろ僕……」
あ、自分の旅路を後悔し始めている……一先ず目的地に向かうよう催促して立て直さなければ。
「あー……コホン、ところで無事……とまではいかなくともセントリア入れたわけだが、次の目的地は何処なんだ?」
俺の呼び掛けに正気に戻ったのか、若干顔を赤くしながら関所で貰っていた名前を書く用紙とは別に貰ったのであろうセントリアのパンフレットを取り出す。
「え、えーっと…………セントリアの丁度中心部にある『セントリア中央冒険者協会』──通称冒険者ギルドに向かえばいいって。そこで僕達が旅人であることを証明する身分証──冒険者カードの発行を行うんだって。そこなら懐事情の厳しい旅人や冒険者の為の格安の宿もあるみたいだからさ」
パンフレットから顔を上げたレンが正面を指差す。指差した先には、外壁の端に建つ塔よりは低くとも、塔を5つ程束ねた位の大きさをした建物があった。
「随分とデカい建物だな。仮にも国家って名乗ってんだから行政機関も兼ねてんのか?」
「それはどうだろ?もしかしたら格安の宿だけじゃなくて国賓とかを泊めるような部屋も併設されていたりして」
「まさか。聞いただけとはいえたくさん人が集まるはずだろ?そんな大事なものがあるわけ…………待てよ、門番のあの対応から考えると…………いかん、あり得るかもしれん」
レンのたわいのない話を軽く笑い飛ばそとするも、門番の態度からあり得てしまう可能性に思い至り口許が僅かに引き吊った。防犯の都合上無いとは信じたいが……
「考えていても仕方ないし、行くしかないんじゃない?」
「それもそうだな、っし!行くか!」
レンの言った通りだ。今ここで分からんことを考えていても仕方がない。頬を軽く叩いて頭をリセットする。ここからなら真っ直ぐ行けばたどり着くだろう。
「あ、ちょっと待って!」
意気揚々と1歩を踏み出そうとしたところで急に待ったがかかり、躓きかけるもなんとか体勢を建て直す。
一体何なんだ……ついついじとっとした目を待ったをかけた人物――レンに対して向けてしまう。向けられたレンはどこかばつが悪そうに指を合わせながら視線をあちこちに逸らしている。
「えーっと……まだ日は高いからさ……セントリア、見て回りたいなーなんて……ダメ?」
「…………なんだ、今までまともに村とか町とか回ってなかったから、ここくらいは時間かけて回りたい、と?」
「………………(コクン)」
思わず肩の力が抜けてしまった。まさかそんな子供っぽい理由で足止めされたなんて……
「その……ダメ?」
あ、レンの瞳が捨てられそうな子犬のように潤んでる……そんな目をしてるとますます性別を間違えそうになる。
「いや…………そもそもな、お前の旅に同行している以上、俺に拒否権は殆どないっての」
「ホント!?回っていいの!?」
「うおっ!?急に寄るなって!」
今度は目をキラキラさせて詰め寄ってきた。思わず仰け反るとレンは無防備になった俺の手を引っ付かんで走り出そうとした。
「回って良いなら早速行こうよ!セカイも早く!」
「ちょっとは落ち着けってこけるこける!」
俺の手を引っ張ったまま駆け出すレンに体勢を崩しながら注意をするも、こけそうになったときに手を離し1人先に行ったレンは既に遠くに離れており、慌ててレンの後を追い出した。
「………………で、後先考えずに色々とやらかした事に何か申し開きは?」
「えっと…………その…………ごめんなさい」
じとっとした目をしながら隣を歩くレンにきつい口調で当たり、冒険者ギルドへと向かっていく。
事の発端はセントリアを見回っても良いと俺が言った途端颯爽とレンが走り出し、引っ張られた俺は体勢を崩し遅れてレンの後を追ったが、人混みの中を追いかけるのには無理があり、すぐにレンを見失ってしまい、脇目も振らずにレンを探そうとするも見つからず時間だけが過ぎていった。
セントリアに着いたときはまだ上りつつあった太陽が下がり始めるほど探してようやくレンを見つけることができた。それだけなら俺もここまで怒ることはなかったが…………
「よりにもよって財布をスられたって…………」
「その………本当にごめんなさい…………」
露店で売られているものに目を輝かせて財布を取り出したり、はっと正気に戻り財布を仕舞ったりを繰り返しているうちに、いつの間にか財布を盗られていたらしい。
実際に俺と合流したときにはやってしまったといわんばかりに顔を青ざめさせていた。
「はあ~~~~~~っ……………………どうすんだよこの後、冒険者カードの申請にお金要るかもしれないだろ……」
「う…………こうなったら緊急用の小袋を引き出すしか……」
そういい背中のリュックに手を伸ばそうとするが、俺が直ぐ様はたき落とす。
「痛っ!?なにするのセカイ!!」
「馬っ鹿お前、ついさっき財布スられたばっかじゃねぇか!!何非常用の資金をこんな人通りの多いところで出そうとしてんだ!!」
はたいた事に文句を言うが怒鳴り返して抑え込む。理由が理由だけにレンも肩をすくめて大人しくなった。
「……ったく、もうそろそろ着くだろうし、説教は一先ずここまでな」
「え?もう着くの?以外と早かったね。てっきり迷ってもう少しかかると思ってたんだけど」
「お前探すのに走り回って粗方道頭に入ったんだよ……!」
眉間に指を当ててイライラを抑えなから迷わずに進めている理由を話す。元々道を覚えるのは得意だけど、まさかこんな形で発揮するとは思わなかった。異世界モノにしてはあまりにも限定的過ぎる特技だろこれ……
そんな風に気落ちしながら歩いていると目の前に大きな門が見えてきた。歩いてきた道のりと遠くに見える塔の位置から考えるにこの建物が冒険者ギルドで間違いないはずだ。
「遠目からでもデカいと思ったけど……近場で見るとはっきりと言えるわ。これデカ過ぎだろ!」
「やっぱり宿もやってるから、これくらいの大きさが必要なのかな……?」
「いやいやいや、流石にないだろ。もしそうだったら宿屋とかどんだけデカくなきゃいけないんだよ。いいから入るぞ」
門をくぐり冒険者ギルドの扉を開く。扉の先には多くのテーブルが設置されたホールがあり、多種多様な人々が集まり話し合ったり酒を飲んでいたりしている。
「ほえー…………ここが冒険者ギルド…………」
「思った以上に人が多いな……っと、受付はあれか?」
「ん、そうかも。行こうか」
レンと共に辺りを見回しながらホールの中央まで歩いていく。そうして部屋の奥に複数の受付嬢らしき女性が立っているカウンターを見つけた。
それを見たレンは軽く頷き小走りでカウンターへと向かっていく。少し遅れて俺もカウンターに着いたときにはレンは受付嬢と話をしていた……が、何やらレンが顔を青ざめさせている…………原因は何となくだが分かるけどな。
「…………はい。冒険者カードの発行には御一人様3000ルドの費用が掛かります」
「え、えーっと……その…………」
聞こえた会話の内容から冒険者カード発行に掛かる手数料の問題だろう。スられた財布にどれだけのお金が入っていたのかは知らないが、レンの顔色からして、非常用資金では払えない額らしい。
…………仕方ない、先程見つけた一か八かの賭をしてみるとするか。
「あのーすいません。冒険者カードの発行費用、後払い出来ますか」
「ちょ、セカイ!?何言ってるの!?」
「おや?どちら様でしょうか?」
驚いた表情で振り返るレンを余所に受付嬢の人が不思議そうに問いかける。そりゃあ応対している横からそんなこと言われりゃ首傾げるよな。
一先ずレンを横に退けて話を続けよう。
「こいつの旅の連れっす。掲示板のアレ、俺達みたいにいきなり払えない奴等のケースもあるからこそっすよね」
そう言いながらカウンター横にある掲示板を指差す。そこには幾つもの書類が留め具で留められている。だが俺が指差してるのは掲示板自体ではない。
「ええっと……『店舗清掃』、『商品配達』、『魔物討伐』……これって」
レンが掲示板に留められている書類に太字で書かれている部分を読み、何か気付いたようにはっとして俺の方に向き直る。
それを尻目に俺は受付嬢に話を話を続ける。
「書類の内容からして、まあ何かしらの手伝いの依頼っすよね。そんなものがわざわざ冒険者達の集まるところにあるってのは、金の無い冒険者達が依頼を受けに来る……違いますか?」
そう俺は推測を述べる。正直なことを言えば、レンが述べた店舗清掃と商品配達の様な普通の仕事だけだったならただの求人募集と勘違いしただろう。だけど魔物討伐なんていう明らかに店でやるようなことじゃないものを見つけられたのはある意味幸運だった。そもそもセントリアに来たときにレンが言った懐事情の厳しい人達の為の宿、それ以外で金銭面のサポートをするとしたら日雇い事業の斡旋だろう。
俺の推測を裏付けるように、受付嬢が頷く。
「補足させていただきますと、冒険者の方なら貧富関係無くそちらの掲示板の依頼を受けることが出来ます。といっても基本的に懐事情が厳しい方々が受けることが殆どですがね」
補足が入ったが概ね俺の推測通りだった。そして労働が必要だが旅をする上で切っても切れない問題である金銭問題の解決したも同然だといってもいいだろう。
「それで、後払い出来ないでしょうか?こいつここに来る途中で財布スられちまって「ちょっとセカモガッ!?」一応非常用の資金は持ってますがなかなか出せないってことは払える額じゃないってことでしょうし」
俺達の懐事情をありのまま伝えて後払いに出来ないかを再度尋ねる。途中でレンが口を挟みかけたが手を当てて黙らせて受付嬢の返事を待とうとするが、答えはすぐに返ってきた。
「ええ可能です。その場合は発行費用がご用意できるまでセントリアを出ることが出来なくなりますが、宜しいでしょうか?」
「うっす、それでお願いします」
そういいレンの方に向き直る。話を遮って俺が主に話を進めてたことに言いたげだったが一応の解決はしたことでまあいいかと納得している表情だった。
「ところで……セカイ・オオハシ様ですよね?」
「?そうですが、何か…………あ゛っ」
フルネームで呼ばれて何かあったのか聞こうとしてあることが頭に浮かんだ。レンはここで何をしていた?冒険者カードの発行だ。どうしてフルネームで呼ばれた?冒険者カードの申請をする書類にフルネームを書いたからだ。
「あなた様も冒険者カードの申請とお聞きしました。発行には御一人様3000ルドの費用が掛かりますが……どうしますか?」
金欠のレンの連れということで、何となく察せられているが仕事上聞いとこうというのが見て取れる。…………うん、ちゃんと言おう。
「後払いで……お願いします」
我ながら、全くといっていいほど締まらなかった。
冒険者カードの発行についてはともかく、今日の宿に関してはレンの非常用資金で一部屋借りることができ、部屋に入ってすぐに椅子に腰を下ろした。
「あ゛~~~~っ…………疲れた…………」
椅子に体を完全に投げ出して改めて部屋の中を見渡す。
格安という割にはちゃんと綺麗に掃除かされてあり、椅子の他にも大きなソファーが備え付けられている。あくまで1人用の部屋な為ベッドは1つしかないが、ソファーで十分寝れるだろう。
天井には蛍光灯の様に光を放つ石が取り付けかれており、椅子の近くにあった表裏で色が白黒分かれている石の黒い面を軽く叩くと明かりが小さくなる。
反対の白い面を叩くと明かりが元に戻り、天井と手元にある2つの石が照明器具になっているのだと理解する。
「何とか今日の分は払えたけど……これからどうしよう……」
思いっきり手足を投げ出している俺とは対照的に、宿代で少し軽くなった財布の中を覗きながらレンが不安げな声をあげる。
「どっちにしろ、明日から掲示板の依頼こなさなきゃいけないんだし、そっから捻出するしかないだろ」
セントリアの外に出るには冒険者カードの発行が必要で、その為の資金を稼がなければいけないんだ。それは分かってるのかレンも頷く。
「それはそうだけど……」
「なら焦っても仕方ねーだろ?今はやれることをやるだけだっての」
そう言ってみるも平静を装ってるだけで正直内心はかなり焦っている。異世界転移系で時たま見る元の世界へ帰還した時の時間の差異だ。
それこそが元の世界への帰還を目的とする俺の最大の懸念事項となっており、大まかに3つのパターンが挙げられている。
1つ目は元の世界ではほとんど時間が過ぎていないパターン。
異世界で長い時間を過ごしていても元の世界では数秒しか経っていなかったりするパターンだ。物によっては異世界で過ごした時間の分成長するか、元の世界の時間の流れのままに体が成長しないかの違いがあるが、それは一先ず置いといて俺の考えるパターンの中では最善のものだ。
2つ目は異世界で過ごした分元の世界でも時間が過ぎているパターン。
異世界に居る間は元の世界で行方不明となっており、探している家族には迷惑を掛けるかもしれないが、1つ目のパターンで挙げた中にある異世界での成長を1番誤魔化しやすいパターンでもあり、ベターなパターンである。
そして俺の考えうる中で最悪な3つ目のパターン、元の世界では今以上の速度で時間が過ぎているというパターンだ。
何とか元の世界に戻ったはいいものの、辺りは最早俺の知っている世界では無いという状態だ。日本人なら浦島太郎が分かりやすい例えだろう。
「セカイ……正直に言ってよ。顔、不安そうだよ……」
考え事をしているといつの間にかレンが不安そうな顔をして目の前に立っていた。……顔に出していなかったつもりだったけど、案外出ていたようだ。
「……分かった、はっきり言うよ。不安だよ。どれだけの時間をグランフィアで過ごすか分からないけど、元居た場所に俺の居場所は在るのかってな……」
不安を口に出すと、レンは申し訳なさそうに縮こまる。全く……別にお前のせいでは無いというのに。
「……ゴメン、僕が財布盗まれてなかったら、すぐに旅に出れたんだけど痛っ!?なにするの!」
「馬っ鹿、そしたら今度はお前に金返す為に俺が働くっての。結局旅は遅れるんだし今更だろ、もう寝ようぜ。明日早くから仕事探すんだから」
自分が悪いみたいに言うレンの額を軽くデコピンし、備え付けのソファーに座りクッションを枕になるよう積み上げる。
レンも俺の言葉に釈然とせずとも明日が早いのは分かっているようで、ベッドに横になり照明を落とした。