ゲルブの街と花彩る兵士達
フラームの街で一夜を明かし、俺達キャラバンは次の目的地であるゲルブの街へと出発するための準備を始める。
準備といってもキャラバンがフラームで買った荷物を、ここで売りに出した荷物の代わりに荷馬車へと積み込む作業なのだが。
「そっちは終わったかー!」
「うっす!」
先に荷物を積んだメンバーから俺達への確認の声が上がり、最後の荷物を積んだ俺が返事をする。返事を聞いたメンバーは頷き再び宿屋へと入って行く。昨日の酒でまだ潰れているおっさんを呼びに行ったのだろう。
他のメンバーが各々の荷馬車に乗り込むのを見て、俺も荷馬車に向かおうとしてふとレンの様子が目に入った。
レンはただ広場の方をじっと見ている。……何を思って見ているのかは分かるけどな。
「おいレン!」
「うわっ!?セカイ!?」
俺が声をかけると驚きのあまり飛び上がって慌てて振り向いた。足音を立てて近付いたはずだがそれすら気付かなかったのか。
「アリスのことを考えてるのか?」
俺の予想にレンは俯き、小さく頷いた。
「うん…………だけど、セカイは気にならないの?アリスのこと…………」
そう僅かに顔をあげて俺に問いかけてくる。気になるというと…………あのことか。
「アリスが俺が居たところから来たのかも知れないってことか?」
「…………うん」
レンは俺の答えに頷く。確かに、アリスは地球から来ているのは本人から聞いた以上間違いはない。
だけど、レンの考え事はそれ以上に深そうだ。
「それで、お前はアリスを思って何を考えていたんだ?」
俺の問いに視線をあちこちにさ迷わせた後に俯き、恐る恐ると口に出す。
「…………もしかしたら、アリスと一緒に居れば、セカイは元いた場所に帰れるんじゃないか…………って…………」
…………なるほど、俺がアリスと一緒に地球に帰ることを考えてた訳か。それで俺がレンの旅から抜けることに不安を感じているのか?
「なーに気にしてんだお前は。うりうり」
「ふひゃっ!?いひゃいいひゃい、にゃにすりゅにょ!?」
レンのほっぺを両手で摘まみ、軽く引っ張る。ぷにっとした弾力は弄りがいがあったが、舌足らずに抗議してきたため手を離した。
摘ままれた頬を手で押さえて俺を睨み付けてくるが、それを軽く流す。
「少なくともアリスと一緒に帰ろうとは今は思わねぇよ」
「セカイ…………」
「そう不安な顔すんなって。別にお前に気を使ってる訳じゃないんだからな」
レンが申し訳なさそうに見てくるのを目線を反らしてそう返す。
ツンデレみたいになってしまったが、俺の推測ではアリスと一緒に地球に戻ることはできないだろう。
それにアリスは消える前に目覚めの時間と言っていた、恐らく彼女は地球で眠っている間だけ、グランフィアに来ることができるのだろう。それでは地球から直接来た俺は帰れない。
「さ、この話は終わりだ。俺達も荷馬車に乗ろうぜ」
「…………うん!」
レンは納得いかないといった表情をしたが、頭を振って俺とまだ旅ができることにたいして笑みを浮かべた。
レンの手を引いて俺達が昨日乗っていた荷馬車に向かうと、宿屋からおっさんが現れる。
俺達が荷馬車に乗ると同時に、おっさんも荷馬車に乗り込んでくる。おっさんは荷馬車に乗ると喉を軽く叩いて調子を整え、前の荷馬車に乗るメンバーに指示を出した。
「準備はできてるな?次の目的地、ゲルブに出発するぞ!」
その指示に合わせてキャラバンの荷馬車が出発していく。俺は荷馬車が動き出すまでの間に、リュックから地図を取り出す。
これから向かうゲルブの立地を改めて見直すためだ。
「おっと……すまんな、レン」
「わっと、大丈夫だよ、セカイ。それにしても…………」
地図を取り出すと同時に荷馬車が進みだし、体勢を崩してレンに寄りかかってしまう。
レンに一言謝り座り直すと、俺の手元から地図を取ったレンが膝の上で地図を広げる。その視線はアマリーの地図上でも一際大きい街──王都を見つめていた。
「王都が気になるのか?」
「うん……昨日のことを思うと、ね…………」
昨日のこと──兵士による導妃と呼ばれる人物に対する寄進と言う名の徴収だな。
「王族なんだから、宝石や化粧品なんてすぐに手に入るはずなのに…………」
「…………なるほどな、何でわざわざこんな遠くからそういうの集めるか理解できないわけか」
言われてみればそうだ。王宮住まいならお抱えの商人の1人や2人位は居るはずだ。なのに何故アマリーの街から集めているのだろう?
「あーそうだよ。安く買い叩かれたから文句言おうとしたら、真っ先に兵士のところへ持っていきやがって。俺達はあいつらの税を代わりに払ってる訳じゃねえっつうのによ」
俺達の話に、隣で馬を繰っているおっさんが入り込んでくる。
昨日荒れていた理由はそれだったのか。
「やっぱり。昨日兵士に渡された荷物は、僕達が運んできた物だったんだ」
「そーだよ、兵士に渡されちゃ流石に取り返すこともできんからなぁ」
レンが納得いったと頷いていると、おっさんもため息を吐きながらそう言う。
「まあ、次の街ではちゃんと売れると良いっすね」
「そうだな、今回は巡り合わせが悪かったと考えるか」
俺の励ましに気を取り直したのか、おっさんは気を入れ直すために頬を叩き、馬の手綱をより力強く握った。
フラームを朝に出発し、太陽が真上に来る──暗雲に覆われ見えはしないが──位の時間が経ち、俺達の進む先に森が見えてくる。
ゲルブの街は、眼前に広がる森林地帯『ゲルブ森林』の中程にあると地図には描かれているが、あくまで地図に書き上げるために単略化したのかわからないが、地図上より明らかに森の木々が生い茂っているような…………。
「俺達が前に出るぞ。この先は最近魔物の活動が活発みたいだからな」
そう言っておっさんが、ゲルブ森林前で止まっている荷馬車達を追い越しキャラバンの先頭に進んだ。
そうした俺達の後を追従するようにキャラバンの荷馬車が続いて来る。
「…………俺達の出番って訳っすか」
「察しが良いな?その通りだ」
俺の予想におっさんが歯を剥いて笑みを浮かべてそう言う。コボルトの群れを相手に迂回をしようとしていたのに、何故魔物が出ると思われるこの道を進もうとしているんだ?
「おっと、何か言いたげな顔だが当ててやろうか?何で魔物が出る道を突っ切ろうとしてるかだろ?」
俺の顔から考えていることを言い当てたおっさんは手綱を片手に、荷馬車に吊り下げられたランタンを取り外す。
取り外したランタンの上蓋を開け、その中に乾燥させた何かを入れて、蓋を閉めて再び元の位置へと引っかけ直した。
すると、ランタンに入れたものが燃えはじめ、周囲に何とも言えない臭いを放ち出す。
その臭いを、俺の横に座っているレンは鼻を摘まんで嗅がないようにしている。極力嗅ぎたくないのは俺だって同じだ。
「うっ…………おっさん……これは…………」
「虫除けだよ虫除け。まあ、初めてのやつにはきついか?」
笑いながらそう教えてくれるが……これが虫除けか、荷馬車の天井に吊り下げられてこの臭いなのだから、もしシースに向かう途中の森でこれを使っていたとなると…………。
「持って来てなくてよかった…………」
「?何言ってるのか分からんが、虫除けとしては使えるんだが代わりに…………っと!」
おっさんが何かを見つけ、荷馬車をその場で止める。
道の先には、こちらに警戒心を向ける7匹程の狼の群れが居た。
「大体の動物なら火に怯えて襲ってこないんだが、この臭いだからな、鼻の良いやつらを刺激しちまうんだよ」
おっさんの解説を聞きながら俺も狼の群れを見る。見るからに不機嫌だってのが遠目からでも分かる。
…………なるほど、やることは分かったしレンも頷いてる。俺達は揃って荷馬車から立ち上がった。
「んじゃ、行ってきま「ちょっと待てや」ぐぺっ!?」
「セカイ!?」
杖を手に狼の群れに向かおうとした俺をマントの裾を掴んでおっさんが止めにかかり、思いっきり首が締まる。
俺の奇声に一足早く荷馬車から下りたレンが振り返り、ぎょっとした表情を浮かべ、俺の元へと戻ってくる。俺は締まった喉元を押さえておっさんを睨み付けた。
「ゲホゲホ…………何すんだ!」
「わざわざ殺りに行かなくていいっての」
そう言っておっさんは布にくるまれた俺の杖を指差す。
「そいつ、地面叩いて爆発起こせたろ?ちょっくら加減してあいつらを追っ払う程度にしてくんねぇか?」
「ええ……?」
つまりあれか?大きな音を立ててあの狼達を追っ払えと?杖を見て、群れを見て、再びおっさんを見ると、おっさんはこちらに親指を立ててくる。合ってるのか……。
「んじゃ、行ってきますわ…………はぁ…………」
「セ、セカイ……なんかすごく肩の力抜けてるけど…………」
「いや、なんか思ったよりショボいなーって思ってな……」
ため息をつきながら狼の群れへと向かって行き、俺が近付くと狼達が唸り声を上げる。
今一度大きなため息をつき、布から取り出した杖で地面を軽く叩く。
叩いた瞬間、パンッ!!と火薬が爆ぜる様な音と小さな爆発が起き、それを聞いた狼達は驚きのあまり飛び上がり、散り散りに森の中へと去っていった。
「おーう、お疲れさん」
おっさんが後ろから荷馬車を進ませながらそう言ってくる。じとっとした目を向けるも、大きな声で笑われてしまう。
「わはははは!!わりぃな、火薬の節約に使っちまってな!」
「いつもは追っ払うのに火薬を破裂させてると?」
「そういうこった!坊主が杖で爆発起こすのを昨日見てからな、火薬代の節約になるんじゃないかと思ったんだわ!」
おっさんとレンの会話が聞こえ、再び深いため息をつく。まさかのおどし玉代わりかよ…………。
再び荷馬車に乗り、肩を落とすと何か声をかけようとしていたレンを遮り、おっさんが俺の背中を叩いてくる。
「まあ、虫除けつけてる間似たようなことがあるからよ、そんときは頼むぜ坊主!」
そう言って笑いながら手綱を握り直す。それを見てどうとも言えない視線を向けてくるレン──おそらくこれ以上ないと励まそうとしたんだろう──に気付き、今日何度目か分からないため息をついた。
狼の群れに遭遇し、その後もちょくちょく嗅覚の鋭い魔物達が現れるが、その度に俺が杖で爆発を起こして追い払う。
それを何度か繰り返し、土だった地面が石畳へと変わり、蹄と車輪が石畳を叩く音が聞こえ出す。
「そろそろだな、坊主も杖をなおしていいぞ」
そう言っておっさんは天井のランタンを取り外しその火を吹き消し、椅子横の箱へとランタンを片付ける。
それを横目に視線を前に向けると、石造りの門が見えてきた。
「おっさん、あれが?」
「ああ、ゲルブの街の入口だ」
木々に包まれた森の中にそびえ立つ巨門。その先にフラームの様に明るいレンガ造りの建物が建ち並ぶ街が見える。あれがゲルブの街なのだろう。
そう思っている内に、俺達が乗った荷馬車は門を通りゲルブの街へと入った。
街の様子を見渡し、違和感を感じると俺の服の裾をレンが引っ張ってくる。
「ねえ、セカイ……ここって…………」
「ああ、シースよりも暗い」
パプルスでの旅で第1の目的地だったシースの村。ここゲルブと同じように森林に囲まれた土地だったが、村だったシースに対して街であるはずのゲルブは、明らかにシースよりも暗く感じる。
ただの曇り空でここまで変わるはずがない、やはりこの暗雲は何かしらの異常なんだ。
「20年前からの暗雲、ね…………」
20年という時間、おそらくこの異変を解決する手掛かりになるだろう言葉を1人呟いていると、荷馬車はゲルブの宿屋の前で止まる。
「さーてと、これからまた宿の倉庫に荷物を「おお!待っていたぞ」はい?」
おっさんが軽くのびをして次にやることを口にするとそれを遮るように誰かがおっさんに話しかける。声のした方向を向くと荷車を引いた中年の男がいた。
「あんた達に荷物を頼んだ者だ!すぐに荷物を積み込んでくれ!!」
「ま、待てよ!こういうのはちゃんと金を払ってからでな……!」
中年の男──本人曰く取引相手──が、俺達の後ろの2番の荷馬車から荷物を自分が持ってきた荷馬車に積み込もうとして、おっさんに抑えられて止められる。
「止めるな!!もう時間が……!」
(時間が?)
おっさんの拘束から逃れようともがき、切羽詰まったように口走る。それに疑問を抱いてると、馬の蹄の音が聞こえてきた。
「な、なんだ?ってうおっ!?」
「いいから早く!!」
おっさんが蹄の音に気を取られた隙をついて男が拘束から抜け出て、荷物を荷車へ詰め込み出す。
おっさんが再び止めようとするが、先程おっさんに抑えられていたとは思えないほどの力を発揮して荷物を移して行く。
走行しているうちに、馬の蹄の音がこちらに近付いてきた。
「キャプテン!一旦下がりますよ!」
「待てやこら!!まだ金受け取ってねぇんだぞ!!」
「そういう問題じゃないっす!」
キャラバンのメンバーが2人がかりでおっさんを引き摺り男から離れる。
それと同時に、俺達の荷馬車の後ろから鎧に身を包んだ兵士達──フラームの街でも出会った兵士達が現れた。
先頭を走る隊長が、俺達の騒ぎを目にして近寄ってくる。
「導妃様への寄進を募りに参ったのだが…………この騒ぎはなんだ?」
「い、いえ!なんでもございません……ささ、こちらが寄進の品です……」
隊長の問いに男は顔を青くしながら首を振り、荷馬車から積み込んだ荷物を乗せた荷台を兵士に差し出した。
「おいこら!!ちゃんと金払えや!!」
「キャプテン!ストップ!ストップ!」
「ここで問題起こしたら全部おじゃんっす!」
料金未払いの荷物を差し出されたことにおっさんを怒鳴り声をあげて、それを羽交い締めにする2人が抑え込む。
おっさんの様子を一目見て、隊長は鼻を鳴らすと男へと向き直る。
「今回は保留とするが、次は無いと思え」
「は、はっ!!」
「帰投するぞ!!」
隊長の指示の元、荷台を荷馬車へと積み込み再び来た道を引き返して行く。
その様子を見て男は深く息を吐いた。
「~~~~~っぶはっ!!…………おいあんた!!なに勝手してくれてんだ!!」
兵士と男のやり取りの間、口を押さえられていたおっさんが拘束から抜け出て、男へと向かって行く。男はおっさんへ向き直ると、その場で土下座をした。
「勝手な真似をして済まない!料金はすぐに払う!」
「いいから早く金持ってこいや!!軍相手じゃ商品取り返せるわけないんだよ!!」
土下座する男に向けておっさんが容赦なく罵声を浴びせる。ちゃんとした取引もする前に勝手に税に出されたら、怒鳴りたくなる気持ちは分からんでもないが、流石にこれは男が可愛そうになってきた。
「なあおっさん…………一旦落ち着こうぜ。あんたも、ちゃんと金払うんだったら早くした方がいいぜ?…………冒険者カードの料金滞納してる俺が言えた義理じゃねぇけど…………」
部外者である俺が割って入ったことで、クールダウンしたのかおっさんが鼻息を荒くしながらも深呼吸をして落ち着こうとする。
男も立ち上がり、改めておっさんに頭を下げた。
「済まない…………寄進の納期が迫り気が張っていたんだ。料金はちゃんと店に用意してある」
「フーッ…………フーッ…………本当だろうな?」
「ああ、証人を連れて来ても構わない」
そう言うと男は背を向けて歩き出す。おっさんも逃げるのではないかと疑い、抑えていたメンバーを引き連れ直ぐ様男の後を追いかけて行く。
俺達はその様子を見て、深くため息を吐いた。
「はあ…………一先ず馬車を動かさない?」
レンの呟きに賛同するように、馬車に乗ったメンバーが荷馬車を馬小屋へと進ます。
俺も手綱を引く形ではあるが、乗ってきた荷馬車を馬小屋へと誘導しようとして、肩に手を掛けられる。
振り返ると、2番の荷馬車に乗っていたメンバーの1人が俺から手綱を取り、荷馬車へと向かおうとする。
「馬はこっちでするからさ、君達は宿屋で説明の方を頼むよ」
「いいんすか?説明ならそちらの方が上手のはずですけど……」
キャラバンのメンバーなら彼もおそらく商人のはずだ。商人なら交渉事が上手いはずなのに、なぜ俺達に任すんだ?
「キャプテンほどじゃないけどさ、俺達だって結構気が立ってんだ。君達なら冷静に説明できそうだから頼んだよ」
そう言って彼は荷馬車へと乗り、馬を進ませる。レンの方を振り向くと、困ったような表情を浮かべながら苦笑している。
「セカイ、貧乏クジ掴まされちゃったね」
「言っとくがお前もだからな……?」
「うん、分かってる」
分かってるならそう言わないで欲しい、余計に肩の荷が重くなるから。肩を落としてため息を吐きながら、重い足取りで宿屋へと入っていった。
「いらっしゃいませ…………先程の騒ぎは貴方様方が原因でしょうか?」
「えーっと…………それがですね…………」
宿屋に入ると受付嬢がそう言って確認してくる。ここまで聞こえていたのか……。
出だしに言葉を濁しながらも、入り口前で起きた出来事をしっかりと話す。支払いもなしに荷物を持っていかれそうになったこと、その荷物が兵士達に持っていかれたこと、そしてキャプテンが持っていこうとした男と今話をつけていることを。
俺の話を聞いている途中、兵士の話が出てきたところで受付嬢は納得のいったような表情を浮かべる。
「ああ、花彩隊のことですね」
「「カサイタイ?」」
初めて聞いた言葉に、俺もレンも首を傾げる。隊って言ってるならあの兵士達のことなのか?
俺達の反応から、花彩隊について知らないことに気付いた受付嬢が説明してくれる。
「導妃様への寄進を、アマリーの各所から募る国王直下の部隊でして、導妃様が王宮へと召し上げられたのと同時に設立されたのです」
あの隊は国王直下の部隊だったのか…………それにしても…………。
「導妃、か…………」
「セカイ?」
先のフラームの街でアリスから聞いた、この国を思うようにしているという女王。そもそも導妃とは一体何者なんだ?
「すみません、そもそも導妃様ってどなたなんです?」
考えたら俺達はあまりにこの国について知らなすぎる。レンが教えてくれたのはあくまで国の特色だし、国で起きていることについては何も聞いていない。
国王直下の部隊がわざわざ彼女の為に存在しているとなると、女王か何かだろうが…………。
俺がそう考えながら聞くと、受付嬢は後ろの棚から2つの冊子を俺達に差し出してきた。
「導妃様については、こちらの冊子にて詳しく記されております。彼女こそ、このアマリーに光を取り戻す御方なのです」
受付嬢はそう言っているが、俺達にはそうは見えない。税とは言わず寄進と言うのも引っかかる。
手に取った冊子に記された文字を読もうとして、背後からの扉が開く音に身をすくませた。
「おーい、馬は預けてきたが、そっちはどうだー?」
俺達に表であったことを説明するよう指示したメンバーが、他のメンバーを引き連れて宿屋の中へと入ってくる。
それを見た受付嬢は俺達から視線をキャラバンへと向けて、一礼する。
「いらっしゃいませ。お話はこの2人から伺っております、部屋の準備を致しますので、少々お待ち下さい」
そう言って受付嬢はカウンターから奥へと去っていった。取り残された俺達にメンバーが近付いてきて、肩を叩く。
「悪いな、面倒くさい仕事任せて」
「い、いえ、大丈夫っす…………」
「なら良いさ、アマリーみたいにもう日が落ちるまで自由時間だからな、お前達も動いたらどうだ?」
その台詞に辺りを見回すと、俺達と話しているメンバー以外は既に居なくなっていた。
彼は俺達が手に持っている冊子に気付くと、おっさんと同じように俺の背中を叩いてくる。
「ちゃっかり冊子貰ってんじゃないか、準備万端ってか?じゃあまた夕方にな」
そう言うだけ言って宿屋から出て行ってしまい、俺は叩かれた背中を片手で擦り、レンも俺の背中を擦りながら苦笑いするしかできなかった。




