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萩原律先生の、来世にご期待ください

 走り出した俺は、男に足を掴まれてあえなく石畳に倒れ込んだ。打ち付けた鼻が痛い。ギャルたちはめちゃくちゃ他人事なので「イタソー」「大丈夫ー? ギャハハ」と笑っている。


 ふざけやがってくそナードめ!! これがマジモンの中近世ヨーロッパが舞台だったら、俺もお前も地面に転がってる排泄物のせいで、病気になって死ぬところだぞ! そういうところだぞそばかす!!


 俺はありったけの怒りを込めて男を睨み付けた。


「嫌だって言ったろ! 第一、知り合いでもないのに頼みなんて聞けるわけないだろ!!」


 通りすがりじゃなくて知り合いに頼めよ、絶対めんどくさいことなのに!


「お願いします、もしダメだったら別の人にお願いしますから、お願いしますから!」


「嫌だ! ノー!! ノン! ナイン!!! とにかく、絶対絶対ダメだ。話も聞かん!」


「……オニーサン、美乳ビキニアーマー好き?」


「話を聞こうか」


 美乳なんて、最高のステータスだ。貧乳も好きだ。それは著しく崩れた形というものがまずもって存在しない(はず)だ。垂れることもない。その控えめな双丘には無限のロマンが詰まっていると言っても過言ではないのだ。だが至高は美乳といえる。程よい大きさ、張りのあるそれは気高さすら感じる。若々しさと甘酸っぱさ、両方兼ね備えているのが、美乳だ。全てがパーフェクトなのだ!


 その美乳を、無粋な鎧で隠してしまうのも一興。鎧が解かれたときにのみ、その女性性は姿を見せる。プライドの高さと気高さと清廉さを感じさせられる。


 だがビキニアーマーはどうだ。鎧という無粋なアイテムが、ビキニになるだけで、もう、どうしようもなくエッチなのだ。無骨さと美しさを兼ね備え、俺たちマニアの心を揺さぶる。高潔な鎧から一段俺たちに歩み寄ってくださる。それは乙女でありながら戦士であることを諦めない、青春の香りすら醸し出していると言っても過言ではない最強最高の防具なのだ。


 つまり、美乳ビキニアーマーは、超激レア美少女ガチャ最高レアと同じだ! 美乳ビキニアーマーなら顔が見られないくらい不細工でも構わない!!! もちろん美女なら殊更であるが!


「実は僕とビキニアーマーの子、戦士は、ここで魔物退治初期費用の申請をして、少し先の村を起点に魔法と武術を鍛えていたんだ。そしたら、戦士が妙な病気にかかってね……。僕は回復魔導士なんだけど、ヒールもデポイズも気休め程度にしか効かなかったんだ。で、今日王宮の図書館で調べ物をしていたんだけど……どうやら原因はとある魔物らしいんだ」


「あ、他当たってくれ。美乳ビキニアーマーは惜しいが、俺にはマジで無理だ」


「……君、勇者適性ありだろう? しかも魔導戦士も一緒にいるんだろう?」


「な、なぜそれを……」


 男はニタリ、と不気味な笑顔を浮かべた。


「君が断るなら、魔導戦士ちゃんに直接声をかけるよ! いやー残念だなぁ! 3年ぶりの勇者様がこーんなヘタレだったなんて! そんなヘタレだと一生童貞だよ?」


「だ、だだだれがⅮTじゃい!!」


「え、マジで童貞だったの? あー、うん。なんかゴメンね?」 


 こんなことに気づきたくなかったが、俺、めっちゃレスバ弱い―――……


 萩原律先生の、来世にご期待ください。


 だめだ、死んだところであの女神(あくま)にまたこっちに引きずり戻される。あの悪魔の微笑み、見るのは一度きりにしておきたい。そして、佐倉さんにこの男が声をかけたら絶対に俺が失望される。この男のゲス顔、間違いなく包み隠さず話すつもりだ。俺が繁華街で女の子を物色していたことも。俺がDTだということも。


 …それだけはダメだ!! 佐倉さんとノーチャンになってしまう!


「……ワカッタヨ。イイヨ」


 男がニヤニヤと笑っている。ぶ、ぶん殴りてぇ~……。


「ただし! うちの魔導戦士は疲れて寝てる! その村に行くのは明日だ。いいな?」


「うーん……本当は今すぐ行きたいけど、まぁ仕方ないか。夜の移動は危険だしね。じゃあ明日の朝宿屋に迎えに行くよ。僕はリヒトだ。それと、今日のところは大人しく宿に帰って寝といた方がいいよ。明日は超ハードだ」


「……わかったよ。俺は律だ」


 よろしく、と差し伸べられた手を、俺は思いっっきり握ってやった。


 


 諸君、2度目の爽やかな朝だ。俺はまたしても夢破れて清々しい朝を迎えている。あのボンクラそばかすのせいだ。そして、佐倉さんは昨晩も気持ちよく寝ていたので、件の話はまだできていない。


 断ってくれればいいが、おそらく彼女は断らないだろう。俺なんてただの男避けくらいにしておけばいいのに、昼も一緒に行動してくれるのは俺への好意からくるものじゃないくらい、流石の俺でも分かる。


 天然でいい子なんだ。彼女がいなくなったことは日本にとって国家的損失に違いない。


 宿でパンとスープを食べながら、俺はいつ相談するべきか悩んでいた。


「昨日は薬草を沢山買い取ってもらったから、金銭的に余裕があるよ。魔法を覚えるなら図書館でちょっと勉強でもいいね」


「そのことなんだけど……」


 いや、俺スライム一匹しか倒してないのに大丈夫か? やっぱり今からでも逃げるべきじゃないか。今日は二人とも早く起きられたし、今のうちにずらかろう、うん、そうしよう!


 そのとき、宿の入り口からカランコロンと恐ろしい音が聞こえた。


 長身のクソ回復魔導士が、俺たちを逃すものかと宿に入ってきたのだ。ウインク、ウインクウインク、しつこいな。ものもらいでもできたのか? まったく鬱陶しいそばかす野郎だ。


 仕方ない。謂れ無き誹謗中傷で俺の株を下げられても困る。誠に遺憾だが、彼女に話すとしよう。


「……実は昨日さ、この先の村で魔物にやられて病気になった人の仲間から、応援を頼まれたんだ」


「えっ、いつ?」


「夜…だけど安心して欲しい! ちょっと個人的な用事があって出ただけで、その間は女性の魔導士を雇って部屋の前で見張りしてもらってたから!」


 用事? と佐倉さんは不思議そうだ。ええ、ええ、あなたに必要な店はあんな時間には皆閉まってるからね! 仕方ないよね! ずっとそのまま純粋無垢な佐倉さんでいてね!


「そうなんだ……。で、その人はまだ大丈夫なの? あっ、こんなことしてる場合じゃないね! すぐに出発の準備しなくっちゃ!」


 ほらね、絶対に行く前提で話が進むと思った。


「律くん、すぐ準備しよう! 私は薬草や毒消し草を揃えるから、律くんはもう少し戦闘用の服を買いに行って来て!」


 そう言って佐倉さんは宿から飛び出していった。リヒトと目が合う。ニヤニヤと満面の笑みだ。こいつ、用事が済んだら絶対ぶん殴ってやる。


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