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俺は面倒くさいことが嫌いだ

「律くん、大丈夫?」


「うん」


「顔色悪いよ? 体調悪いなら今日は宿でゆっくりしたら?」


「ううん、大丈夫。気にしないで……」


 朝である。


 そう爽やかな朝なのである。


 甘酸っぱくも、気だるくもない、清々しい朝なのだ!!


 どうしてこうなった? 俺が悪いのか? 佐倉さんが快眠できて、俺が寝不足なのは俺のせいなのか!?


 一緒の部屋に泊まると言ったさ、確かに大人の階段を上ると約束したわけではなかったさ。


 だが俺だって健全な16の男だ。俺が可哀相だとは思わないのか。


「佐倉さんは、昨日よく眠れた?」


 佐倉さんは俺の言葉を聞いて、お日様の如く眩い笑顔を俺に見せてくれた。


 笑顔が目に沁みるぜ。


「ええ、とっても! こっちに来てから初めて朝まで眠ったわ!」


 ……そっかぁ。


 それならいいかぁ……。


 心の汗で鼻水が出てきたが、穴あきグローブで事なきを得る。そういえば昨日これでジュース拭いたんだよな。よく考えたらめっちゃ汚いな、これ。


 俺たちは王宮に入ってすぐ、地下室への階段を降り、訓練をしている兵士たちを横目に『魔導適性検査会場』を目指した。地下にもやはり、あの石が吊るされているらしい。宿屋のものと違って白に近い色をしていてしかも大きいのは、ここが城だからだろう。


 佐倉さんにおとなしくついていくこと10分、ようやく俺たちは魔導適性検査会場に到着した。受付の女の子に言われるままに部屋に入る。


「すげー!」


 教室の大きさ位の部屋に、天井まで届く棚がいくつも設置されている。一つずつ丁寧に並べられた、ピンポン玉大の大きさの透明の石。


「適当に一つ取って、手で握るだけでいいよ」


 俺は一番手近にあった石を手に取り、左手に握りこむ。ひんやりした地下室にあるのに、石はなぜか常温で、なんか気持ち悪い。


「そういえば、佐倉さんの適性はなんて結果でたの?」


「私は魔導戦士だよ。武器を魔法で強化して戦うの」


 俺は頭の中にレイピアを持ってファンタジックな服を着た美男美女を想像した。めちゃくちゃカッコイイ。俺もマントを翻して、レイピアで戦いたい。いや、大剣を持ってドラゴンと対峙するのも……まて、そんなつもりでこっちに来たんじゃない。目的を忘れてはいけない。


 まて、手が冷たい。冷たいどころの騒ぎじゃないぞ。


 肘まで響く冷たさに、俺は慌てて石を手放した。


「つめっっったい!!!」


 最早ドライアイスのようい冷え切った石は、淡く発光したまま地面に転がった。


「しもやけになるわッッ!」


 涙目の俺は怒りのままに石を蹴飛ばそうとした。


 ところで俺は、高校1年のゴールデンウィーク頃から特に外に出ずに暮らしてきた。だって何でも通販で届くご時世だ、外出の必要はなかった。そんな人間が通常の人間のように動けるか、いや、動けるはずがない。


 俺は石に滑って、転び……


 ……そうになったところを佐倉さんが腕を掴んで支えてくれた。


 あったかくて、女の子なのに力強くて、何故か彼女が支えてくれたからもう大丈夫だと直感する。俺は女の子と触れ合ったのは幼稚園のお遊戯会以来だというのに妙に冷静で、振り返って彼女の顔を見た。


「大丈夫? びっくりしたねー」


「うん、ありがとう」


 佐倉さんは俺の足に蹴飛ばされた石を拾いに行き、ちょっと触れてから俺に向かって悪戯っぽく微笑んだ。


「ねぇ、これ、ジュースに入れたら冷たくておいしいかもね。勇者様」


 かっ……! 可愛すぎるだろ!


 俺は地面に膝をついて、この世に生を受けたことを感謝した。父親、母親(ヒステリーだし志望校に落ちた俺をゴミを見るような目で見ていたけど)二人のおかげで俺はこの世に生まれてくることが出来て感謝するよ。ほんのちょっと、足の小指の爪先に溜まった垢くらいは!


「ところで、勇者って何ができるの?」


 急に(もた)げた疑問で俺は我に返った。


「えっと、私も王宮の図書館で読んだだけなんだけどね」


 佐倉さんによると、勇者とは、全魔導の適性がある者を指すらしい。通常、攻撃魔導士は攻撃魔法と支援魔法、回復魔導士は回復魔法と支援魔法、魔導戦士は自身の強化や武器に魔法を纏わせるといった具合に習得できる魔法が決まっているが、勇者適性のあるものは、それら全ての種類のうち、条件の合う魔法のみを使うことができる。また、総ドラゴン製の防具などといった伝説級の武器も使用が可能だといわれている。そのため、勇者適性のある者は、魔王討伐の要として期待されている、とのことだった。


「それにね、勇者ってすっごくすっごく珍しいんだって! それに物語の主人公みたいでいいよね、勇者! きっと皆応援してくれるよ」


 俺は頭を抱えた。


 あのクソ女神(あくま)、俺をいたぶって楽しいのだろうか。今うっかり死んだらアイツに一言物申せる?


 俺は、そんなつもりじゃなかったんだ。そもそも魔王退治は嫌だと言ったんだ! それなのにあの女神(悪魔)は一体何の恨みがあって俺を魔王討伐へ行かせようとするのか。


 絶対もっとまともな人間がいるし、五種類もの病気を治すより、まともな人に頼んで勇者してもらった方が良かったんじゃないの!? 例えば佐倉さんとか、倫ちゃんとか、佐倉さんとか!! 


 いや待てよ。もしかしてアハーンなお店に行って「俺、勇者なんだよね☆」とか言ったら、女の子が大挙して押し寄せてくるんじゃないか。待て待て誘惑されるな俺! 当初の目標はどうした!


 勇者になんてなってみろ! 魔物と四六時中戦わなきゃいけないんだぞ! 女の子と遊ぶ時間が減るだろ。誰がそんなクソ面倒くさいことするか!


読んでいただいてありがとうございます!

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