同じ部屋で若い男女が二人、何も起こらないはずもなく
食事を終えた俺たちは、佐倉さん、いや倫が取った宿へと引っ込んだ。
道すがら、男たちが俺の倫に注目しているのを見かけた。やっぱり、俺の女は可愛いらしい。
宿の隣の風呂屋(湯船は汚くて使えたものじゃなかったが、湯は出たし石鹸が売ってた)で念入りの体を洗い、垢すりも頼んだ。
さ~て、上っちゃいますか、大人の階段。
風呂屋の前で倫を待って、二人で宿に入る。倫はこれからすることに照れがあるからか、全然違う話をしている。可愛いやつだな……。
「律くんは回復魔法が使えたから、回復魔導士だね」
回復魔導士? そういえば勇者がどうとかあの女神が言ってた気がしなくもないな。
「分かるの?」
「あれ? 魔導適性検査まだ受けてないの? 明日受けに行こっか! すぐ済むし」
「そうだね、朝ちょっとゆっくりしてから行こうか」
「あ、来たばっかりだもんね、無理しなくてもいいよ」
まぁ君のためなんだけどね。
おっとここでそれを言うのはマナー違反だな☆ 口にチャックだ。
「倫が大丈夫なら朝からでもいいけど」
「じゃあ朝から行こう!」
なんか今の会話、ちょっとカップルっぽくなかったか!? まぁ倫がいいなら、俺はいつでも大歓迎だけど?
「ところで、魔導適性検査ってなにやるの?」
「魔石っていう透明の石を握るだけだよ。えっとね、握って石が赤に変われば炎、青なら氷、黄色なら雷、緑の渦なら風、不純物ができたり形が変わったら土の攻撃魔導士、緑がかって暖かくなれば回復魔導士、色は変わらずに熱くなれば魔導戦士、冷たくなれば全魔法属性弱あり……勇者って括りになるんだって」
指を折り確認しながら、倫は宿屋の扉を開いた。当然だが全部木造で、漆喰だろう壁がいい感じだ。壁にかかっているのは蝋燭ではなく、淡く黄色に光る石だ。ごつごつした石が縄で束ねられて無造作にひっかけられている。
ファンタジーっぽくてちょっとアガる。
ファンタジー世界に転移させられるのは嫌だが、RPGをするのは好きだ。VRの購入も検討していたほどだ。
ほう、と息をつく俺の隣で、倫が笑った。
さて、今日のメインイベントである。
若い男女が二人、同じ部屋で何も起こらなはずがない。俺はすぐにでも事に及びたかったが、女の子にはムードや心の準備をする時間が必要だと聞いている。それに、夜はまだまだこれからだ。焦る必要はない。
そう、風俗ではなく! 普通の女の子で! 俺はDTを卒業するからだ!!
手汗で手がジメジメしてきたので、ズボンの尻部分で拭う。
「じゃあこっち、律くんはドア側のベッドでお願いします」
そう言って倫は、ドア側のベッドを指した。
「はい、窓側どうぞ」
まぁどっちに寝ても、明日の朝には同じベッドで寝てると思うけど。
「電気消してもいい?」
「ちょっと明かりあると嬉しいけど……」
「そう? じゃあ律くんの方ひとつだけつけとくね」
そんなに急がなくてもいいのに、可愛いやつめ。
そう言いながら彼女はローテーブルと椅子を扉の前に置いて、物干し竿を扉に斜めにひっかけた。手慣れた様子が哀愁を誘う。俺の存在が知れ渡るまでは、確かにそうしたほうがいいだろう。
それから倫は部屋の石を一つずつこつこつと拳で叩き、最後に自分の枕元の石を叩いて、部屋を暗くした。俺の枕元の石以外。ちょっとムーディーな感じになって非常に良い。
本当は電気が全部ついている方がいいんだけど……多分実際にやれば分かるだろう。多分。
俺がソワソワしていると、倫は自分の布団に潜り込んで言った。
「じゃあ、おやすみなさい、律くん」
ん?
随分勿体ぶるじゃないか。これはあれか、襲ってくださいということか。そういうのが好きならやぶさかではない。
俺は立ち上がって、倫のベッドの隣に立った。
「おそっちゃうぞ~がお~」
……。
「もしもーし? 倫? 倫ちゃん? ……さ、佐倉さーん?」
…………。
………………。
これ本気で寝てないか?
若い男女が同じ部屋で二人きりで何もないってことある? 俺の持ってる薄い本だと絶対に事に及んでたんだけど!!
だが俺がいくら待てども、彼女が夢の世界から帰ってくることはなかった。
空が白み始めたのをカーテン越しに知って、俺は泣いた。鼻水を垂らして泣いた。
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