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風俗か美少女か、それが問題だ

ヒロイン登場回です!

 王宮で手続きを終えて街に戻って、身支度をしていると良い具合に夕方になってきた。



 そう、とうとう俺の旅の最初にして最終の目標が達成されそうなのだ。



 靴や服を整える中でちゃんと店の場所も把握済み。値段もこっそり確認している。なんと金貨3枚だ。身支度に金貨4枚払ったから手持ちが足りなくなって慌てて口座から降ろした。


 しかし金は足りた。薬草とか俺には必要ないから、金は足りた! 薬草より風俗のほうが安いのはどうなんだろう……。冒険者がいる世界の価値観なんてそんなものか。まぁ冒険に出ることもないし、どうでもいいか。


 曲がり角から店を確認する。淡いピンクと紫の灯りが店から漏れ出しているというのに、どことなくラグジュアリーな雰囲気だ。


 思わず固唾を呑む。


 お父さん、お母さん、俺は今日、大人の階段をひとつ上ります!!


「あっ、その子捕まえて!!」


 どの子? と思う前に、俺と扉の間に何か猫くらいの大きさの生き物が通った。


 声のした方を見ると、女の子が一人、息を切らせて立っている。彼女は俺に駆け寄って微笑んだ。

 

 か、かわいい……。


「魔物退治屋さんですよね、どくどくウサギが街に入っちゃったので、一緒に捕まえてくれませんか?」


「どくどくウサギ?」


「はい、猫くらいの大きさで、被毛は紫です。倒しちゃって大丈夫なんで」


 お願いします、と両手を合わせる美少女。


 黒髪で色白、小柄で、慎ましい胸。


 断る理由がどこにある。こんなかわいい女の子に頼み事をされて誰が断れる。


 いや、この子を手伝うと風俗に行くという目的が達成できない。


 でも、風俗ならウサギを捕まえてからでいい。ウサギ一匹捕まえるくらい大したことないだろう。しかも、美少女に恩が売れる。


「い、いいですよ」


 美少女に恩を売りたい一心で俺は笑顔を浮かべる。


「ありがとうございます! 挟み撃ちにしちゃいましょう! 私はリンです。多分、あの建物の影に隠れています」


「はい」


 それだけ言葉を交わして、俺はできるだけ静かに歩き出した。


 ウサギの行った方向の様子を伺うと。彼女の言う通り、すぐ近くの建物の影にウサギが縮こまっている。リンが建物の後ろから回り込んできた。アイコンタクトを取って、足音を立てないようにウサギに近づく。ウサギと目が合った。


 ウサギって臆病な生き物じゃなかったっけ!?


 間一髪で襲い掛かってきたウサギの口にこん棒をねじ込む。猫大のウサギの脚力が想像以上にすさまじく、俺は背中から思い切り地面に倒れこんだ。


「いっっってぇ~~~!」


 俺、大絶叫。痛いし怖いし、ちびりそうになる。


 想定よりも30倍は凶暴な生き物らしい。もう俺駄目かも。ウサギに負けて死ぬかも。豹のようにこちらの様子を伺っているウサギに怯えながらこん棒を握りなおす。


 手が汗で滑った。


「下がって!」


 その声と共に俺は一歩後ろに飛びのく。俺とウサギの間に矢が突き刺さっていた。


 ウサギもヤバいけど矢もヤバいでしょ。


 一歩飛びのいたウサギと俺の間に、リンが滑り込んだ。手には弓矢を持っている。

 彼女は当然だと言わんばかりに矢をつがえてウサギに向かってもう一撃。ウサギの後ろ脚に刺さったというのに、ウサギは飛びかかってきた。


「いっ……!」


 鋭い爪がリンの腕をひっかいた。ほんの少し、血が飛び散る。


 そんなことされたら困るんだが! 俺が守ってもらえないじゃないか!


 本当に不本意だが、俺はこん棒をウサギに向かって振り下ろした。生き物を叩く感触に足が震えそうになる。


「くそ! 俺、動物虐待で捕まらない!? ねぇ!? これって俺のせいじゃないよね!? 大丈夫!?」


「大丈夫! 下がって!」


 リンはもう一度矢をつがえていた。痛いのか顔を歪ませて、手も震えている。


 そんな条件だというのに、リンの放った矢はウサギの脳天を打ち抜いていた。血のように真っ赤な目と目が合う。


 そして、恨みがましそうな眼をしたまま、ウサギは倒れ込んだ。


「し、死んだ……?」


「はい、とっても助かりました、ありがとうございます」


 CAWAII!!


 怪我をして痛いはずなのに、めちゃくちゃ彼女の笑顔は可愛い! かなり好みのタイプだ。腕に負った怪我が痛そうで手を伸ばしてしまう。リンの腕に手を近づけると、彼女は大人しく俺を見ている。え、もしかして、触っちゃっていい感じなのか。


 では遠慮なく、と手を近づけたとき。


 掌がほんのり温かく感じた。彼女の腕と自分の掌の間に小さな温かい風が巻き起こっているようなイメージが頭に浮かぶ。


「わっ、そんな、大したことないのにヒールなんて……!」


 みるみるうちに傷が小さくなって消える。確かに彼女が言った通り、腕の傷は血は出ていたけれど深い傷ではなかった。


 なるほど、俺は今魔法を使ったのか。


「……すげー、魔法だ。マジかぁ……」


 俺まだ30歳になってないんだけど。


 驚いていたように目を見開いていた彼女が、俺の言葉を聞いて破顔した。


「もしかして、登録したばかりですか? 私で良かったら色々説明しますよ。どうですか、お礼を兼ねて大通りの酒場で夕飯でも」


 そして彼女は笑顔のまま、死んだウサギの腹の中に手を突っ込んだ。その光景にすっかり夜の店に行く気が無くなった俺は、彼女に夕飯を奢ってもらうことにした。


 死んだらスライム状になるとか、そんなのいいよ! 怖いしなんか汚いし、手袋とかしようよ!! 病気になっちゃうよ!


読んでいただいてありがとうございます!

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