プロローグ:暖炉の前にて
時間が出来たので、新連載はじめました。
そして前作を放ったらかしているのは気持ちの整理のためです。
処刑人の話はいずれ描きます。
胸がズキズキと痛む。
不思議に思って、麻でできた薄い羽織ものを指でつまむ。胸のあたりを覗いてみても、目立った傷はない。
むしろ服をつまんでいる指や、手足のあちこちには擦り傷がある。
パチッと薪が弾ける音がして、僕は視線を上げた。
目の前に座る老婆は、枯れ葉のような手を組み、椅子を揺らしている。
落ち込んだ深いシワに影を落として、目に暖炉の炎を映しながら。
細く開けられた目には、暖炉ではない何かを見つめているように思えた。
僕もまた、暖炉を見る。
ゆらゆらと火は揺らめいていて、なんだか心を映しているような気がした。
そしてそんな暖炉の火を見つめていると、心が吸い取られてしまうかのような気もしてきた。
息をゆっくりと吐いて、椅子にもたれ掛かる。
ギシギシと心地よい音が部屋に響いた。
目を閉じた僕は考える。
『さて、どこから話そう』
これまでの不幸の、すべての始まりはどこだったのだろう。
父について行って、屋敷を出た時なのか。
おじさん達が出て行ってしまった時なのか。
僕の母が死んでしまったときからなのか。
それとも・・・。
もっと前から決められていて。
僕は決められた道のりを進んできただけなのだとしたら。
僕の人生は、今日始まったのかもしれないな。
気づけば、顔が笑っているのに気がついた。
そうして僕は目を開く。
これまでにあったことを、老婆へと語りだす。
言葉に詰まってしまうこともあれば、涙がこぼれる時もある。
それでも、言葉があふれだす。
老婆は一言も言わない。ゆらゆらと椅子に揺れられながら、僕の顔を眺めていた。
2020/8/25追記 描写を追加