あくまで彼は「好きな子がいる」と言っただけ
「いやぁ、悪い悪い。うちのクラスに、消火器を暴発させた奴がいてさ」
「廊下に虎ロープが張ってあったのは、そのためだったのか」
「参ったよ。それで、話ってのは何だ?」
「ちょっと言いにくいんだけどさ。実は、好きな子がいるんだ」
「おっ、そういう系の話か。やるじゃねぇか!」
「声がデカイよ」
「すまんすまん。つい、興奮しちまった」
「で、もうすぐ卒業式だろう? だから、高校に進学して会えなくなる前に、思いを伝えておこうと」
「なるほど。それで、ラブレターでも書いたのか?」
「いや、文字だと感情が伝わらないと思って、直接言おうかなぁって」
「そうだな。読まずに捨てられたら、ショックだもんな。どこで告白するつもりなんだ?」
「色々考えたんだけど、飼育小屋前が一番だと思うんだ」
「待てよ。なんで、そんなクサくてウルサイところにするんだ。雌鶏がコッココッコ鳴いてるような場所だぞ?」
「駄目かな? ひと気が無いから、ちょうど良いかと思ったんだけど」
「奇を衒いすぎだ」
「そうかなぁ」
「そうだよ。まぁ、場所は考え直すとして、告白の言葉は考えてるのか?」
「もちろん。原稿を書いてきたから、読んでいくね」
「よし。聞いてやろう」
「本日は、お日柄も良く」
「待った。それは、仲人の挨拶だろ?」
「そんなことないよ。このあと、三つの袋の大切さについて語るから」
「結婚式確定じゃないか。前置きは端折って、サッと本題に入れ」
「入学してしばらく、なかなかクラスに馴染めなかった僕は、ふと昼休みに見かけた君の愛くるしい姿に一目惚れしました」
「いいね。イメージが膨らんできたぞ。そこでチャームポイントなんかを入れていこう」
「君のつぶらな瞳や、小さな口でキャベツを頬ばるところは、とてもキュートです」
「イメージが萎んだよ。変なところに惹かれたんだな。リスみたいな子なのか?」
「近いね。小動物系だよ」
「まったく。そんな可愛い子がいるなら、俺に紹介してくれても良かったじゃねぇか。水臭い奴め!」
「だって、君と友達になる前のことだったし、それに、僕より君に懐いて困るかもしれないと思って」
「馬鹿だな。この俺が、親友の彼女を横取りするような男に見えるか?」
「見える」
「見えるのかよ! 正直すぎるぞ」
「ゴメン。噓がつけない性格だから」
「それが、お前の良いところでもあるんだけどさ。それで、最後のシメは?」
「両手に人参を持って、オーケーなら右、駄目なら左を選んでもらうかと」
「待て待て。お前の彼女は馬か?」
「違うよ」
「わかってる。そういや、聞き忘れてたけど、その子の名前は?」
「豆大福ちゃん」
「兎じゃねぇか!」