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お嬢様の淑女教育?

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「いちにっさんしっ」


 か、考える暇も体力もない!?軍隊式(?)に苦しい息ながら、発声しながら走る。 淑女教育の合間を縫って、朝夕フィリスのトレーニングを、私とユーリは受けていた。


「声が小さい!!」


横を走るフィリスの激が飛ぶ。


「はい!フィリス軍曹!!いちにっさんしっ!」


 勝手に軍曹ってつけてしまった!だってこれ鬼軍曹のしごきだよ!


「おかぁ・・さま、はぁ、りー、ちぇ、はぁ、さま。ぼくもうだめ・・」

「ユーリ、限界と思ったら、そこを越えれば楽になる!いちにっさんしっ!」

「はぁ、はぁ、フィリス、さすが鬼だわ・・・はぁ、はぁ」


 マティアス様が来るまでの一ヶ月弱。何故か私とユーリは、館の回りをハイペースで走っていた、連日。あと、腕や握力を鍛えるため、一定時間ぶら下がる懸垂等もさせられていた。


 最初は私一人の予定だったが、『ずっと一緒に私の傍にいたいって言ったわよね。』とユーリの手を握って、『はい、リーチェ様、一緒に頑張ります。』と言わせ、なし崩しに参加にさせた。なんだか、手を握るとユーリの頬がピンクに染まったのがとても可愛かった。


 そんな癒しなど吹っ飛ぶくらいトレーニングは過酷になっていた。私はひたすら走って苦しい息の中、心の中で毒づく。


「どこが淑女教育なのよ、バリバリ軍隊系、体育会系教育じゃない・・・お父様の嘘つき・・・」


 最初のうち夜になればベッドで、筋肉痛の中お父様とフィリスへの怨嗟をうめいた。

 とはいえ、お父様は走り始めた当初、筋肉痛に顔をしかめる私の横で、フィリスに抗議した。軍隊のような走り込みなんて、公爵令嬢のすることではないからだ。


「私はアイリーテに護身術を教えて欲しいと言ったが、苦しそうなのにひたすら走らせるようなことを頼んだ覚えはない!」

「護身術に夢を持ちすぎですわ、公爵様。」


 フィリスが呆れたように、(かぶり)を振った。


「腕力も体力もない六歳の子供に、付け焼き刃の剣や体術を教えたらどうなると思います?半端な護身術を知ってると、気が大きくなります。そのせいで、変に立ち向かった結果、捕まったり殺されたりするリスクが上がるんです!子供にまず大事なのは走ること、逃げ回って隠れたり、大声で助けを呼ぶことが一番の護身術なんです。」


 フィリスの言葉には説得力がある。前世でも防犯ブザーや、逃げて近所の家に助けを求めることは教えても、変質者に立ち向かえなんて非現実的なことは言わなかった。六歳だと小学一年生、大人に勝てるはずもない。


「体力や全身の筋力がついてからなら、体術や剣術も生きてきます。まずは地道に走って、腕の力をつけて基礎トレーニングを積むのが一番大事ですわ。」


 お父様はフィリスに言い返すことはできなかった。


 私のお母様リリアーヌは、産後少しして刺客に襲われて命を落としている。本来なら私も兄ルーデルもその時命を落としていても不思議ではなかった。生きているのは一重にフィリスが乳母だったからである。彼女が片腕に赤子の私、自分の体の後ろに三歳のルーデルを庇い、剣をふるい傷だらけになりながら守ってくれたのだ。


 ちなみに、お母様のリリアーヌとお父様のサリアスは、身分差を越えた大恋愛だと聞く。リリアーヌと公爵家の公子だったサリアスの出会いは、異種族の集まる魔王の国への、命がけの聖伐(せいばつ)の戦場だった。


 だが、母リリアーヌは裕福とはいえ商家の娘。次期公爵との結婚をよく思わない人は多かった。お父様の妻の座を狙う人々や、次の公爵位を狙う親戚等、お母様や私たち子供がいなければと思う人が多すぎて、うちの館では刺客や毒は日常茶飯事だったらしい。


 お母様は美人ではあったがきつい雰囲気の顔だったため、公爵をたぶらかした悪女と陰口も公然とささやかれた。


 そのため、お母様が私を身籠った際に、ちょうど出産後で一時的に公爵家に身を寄せていたフィリスに、護衛兼産後の乳母の白羽の矢が立ったのだ。公爵自身が聖伐(せいばつ)があった時、参加していたフィリスの剣の腕を見せつけられたのもある。治癒魔法の力から動員されていたリリアーヌと、末端貴族の養子であるフィリスが友人だったのも大きかったのだ。


 さらに、フィリスは元の実家とは絶縁しており、暗殺とか卑怯なことが嫌いで、金銭欲も権力とのしがらみもなかった。


 子供たちの命の恩人にして信頼できる腕の立つ護衛。そんな経緯から、お父様はフィリスの言うことに反論できなかったのだ。


 いつもならフィリス推しな私が、『公爵なんだから、使用人の乳母に負けないでよー!!』と、珍しくお父様を応援していた、しかし、ぐうたらしたい私の心の願いは叶うことはなかったのである。






 走り込みは一日目は館回りを一周から、二日目は二周、五周で一度止まる。十日でペースを上げる。次は二日に一周ずつ上げていって、今十周である。ちなみに、一周が体感的には館の前面が五十メートルくらいあるので、建物の奥行きを考えて、百五十~二百メートルを走っていると考えて欲しい。


 途中までは障害物を避け館周りを大きく一周していたので、もう少し距離はあったかもしれない。


 途中からは距離は縮んだが、障害物走になった。館の周りは縁石や石造のベンチ、外から見えないための生垣もある。手すりのあるバルコニーもあり、階段にツルツルの石床、仕上げに手すりも飛び越える。中庭の噴水周りはつまずきそうな隙間のある石畳。トレーニングの仕上げの今日は私は、低めではあるがヒールのある靴と、色が私の顔と合わないのでお蔵入り予定のドレス。変な場所を選んで走ると絶対飾りが引っ掛かって動けなくなるような、王太子殿下にも対せそうなフリルから宝石からがっつりついたドレスで走っていた。


 走るのに向かない靴で、怪我をしないように、速度は出しつつ慎重にやるようにと注意つきで。


 これはフィリス曰く、早く走るのが目的ではなく、令嬢のドレスとヒールが、いかに重く動きにくいかを体感させるためらしい。いくら鍛えても、何かあってもドレスと靴のせいで、抵抗も逃げることもできない令嬢が多いとか。身を持って知っていれば、それに合わせた対応ができるから、と。


 ちなみに、私だけ動きにくいのは不公平なので、一緒にトレーニングしているユーリも、男だがドレスとヒールを着て走っている。


 色々飾りのついたドレスの重さにユーリは驚き、地面すれすれの裾につまずき、不安定な靴にこける。ユーリはただでさえ私より体力がないのに、慣れない令嬢スタイルのせいであちこち傷だらけ、終わる頃には私よりはるかにボロボロになっていたのである。








 ちなみに、私が一ヶ月弱の期間に勉強させられたのは、走ることを始めとした筋トレだけではない。


 ちゃんとした淑女教育も平行して受けたのだ。まずは、徹底的に礼儀作法の練習で、完璧な姿勢や歩き方、お辞儀の仕方を延々練習させられた。

 また、貴族の令嬢の嗜みとして、礼儀として決まった話の運び方、美しく見えるお茶の飲み方、美味しい淹れ方、優雅な注ぎ方、お茶やお菓子の種類やマナー。

 さらに、量が多くて大変だったのは名前や年齢ばかり載った、貴族名鑑という分厚い本。それを丸ごと覚えさせられた。貴族たちの系図や、歴史、名前、家族構成や役職。国の中での立ち位置や勢力図、外交関係。急場のつめ込みなので、主要な貴族の分だけではあるが。

 合わせて会話のために、王国内の地理や気候、各地の領主に特産品、王国の歴史や主要人物等も覚えさせられた。


 これって六歳の令嬢が必要な知識なの?と思うつめ込みっぷりだったが、茶会は内輪のため外国語等のレッスンや書き取り、算術等の教養、当日必要のないダンスはいつもより時間を減らしてはもらえた。


 ちなみに、ユーリは私の従者やお兄様の腹心として、公爵家に仕える場合、12歳から王立学園に入ることになるからと、お父様公認で普段一緒に勉強することも多い。


 だから自分だけじゃ不公平だと言って、『ずっと一緒って言ったわよね』と、ユーリも一緒に全ての授業を受けてもらった。


 ユーリは文句も言わず、粛々と授業を受けて淑女としての礼儀や教養を一緒に学んだのだ。ユーリの頭は私よりは良かったせいで貴族名鑑も、読み始めるとすぐ眠くなる私と違い、悔しい程すらすらと覚えた。さらに、お辞儀などは男性用もを教えてもらっていたが、ユーリは淑女用まで完璧にマスターして、できない私が家庭教師に叱られる羽目となったのだった。


 ただ、この上に、フィリスのトレーニングだったので、はっきり言って毎日くたくたで、私は高笑う暇もなかった。


 この間はユーリも、ベッドでバタンキューだったのだろう。ほとんど私の寝室に来ることもなかったのは、おねえちゃん少しさびしい。


「ほっほっほっ、・・・眠い・・・何かあった気がするけど、また明日考えよう・・・グー・・・」


みたいな感じで私もベッドに入って、即意識が無くなり、気がつくと一ヶ月が経っていたのだ。そして、マティアス様とのお茶会の朝となっていたのである。

読んでいただきありがとうございました!

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