問題は悪役顔です
昨日の三本目のはずが最後の修正中に寝てしまいました。
すみません。
お父様の話が終わり、自室に帰って、私は鏡を見て我に帰った。縦ロールの赤い髪、きつくつり上がった眦、金に近い琥珀色の瞳、顔の造作は美しいものの、全体的に険のある悪役令嬢顔。
相変わらず悪役っぽい、高笑いが似合いそうだ、六歳なのに。
こんな私が王になるかもしれない人と婚約して、無事でいられるのだろうか?悪役令嬢の定番の末路として、無理矢理我が儘を通して王子様と婚約したけれど、最後は可憐な令嬢との真実の愛に目覚めた婚約者にフラれ、いじめたと言われ断罪される運命なのではないだろうか。
茶会での見合いと、その後を考えるとさすがに不安になってくる。
本当にマティアス様と仲良くなっていいのだろうか?いずれ、ロードクラインの国を背負って立つ王孫だ。
そんな時だ。キィー、ときしみ扉が開く音がした。
「リーチェ様一人怖いから、今日も一緒に寝ていい?」
そっと開けた扉の隙間からした、か細く儚げなその声に、私の悩みは吹っ飛んだ。
「ユーリ」
自分をリーチェと呼ぶのは乳兄弟のユーリだけだ。一歳の頃からそう呼ばれているらしい。私は半年遅れで生まれているので、その頃のことは伝聞でしかないが。最初アイリーテが長すぎて言えず、赤子らしくリーテと呼び出し、微妙に発音が間違ったまま愛称になったらしいのだ。
部屋に入ってきたユーリ、流れるような銀髪に廊下の明かりが反射して、天使の輪が見える気がするのは、幻か。可憐な幼児ユーリウスが現れた。ちなみに、白い肌、大きく潤んだ紫の瞳、どこから見ても超美少女ヒロインのユーリウスは男である。
「ほーっほっほっほっ、いいわよ、いいわよ。フィリスは今いないけど、入ってらっしゃい。怖いならお姉ちゃんにどーんと任せなさい。」
バンバンとベッドの自分の隣を叩き、来るように促す。毎日のように顔を合わせるが、ユーリのかわいい寝姿を想像してに自分でも顔が緩む。自分でもショタ属性は否定しきれない。
「リーチェ様、僕の方が年上でお兄ちゃんだよ!」
ぷうっとユーリが頬を膨らませた。
いやーん!可愛い!おばちゃんいえ、お姉ちゃんゴロンゴロン身悶えしちゃう!肉体年齢六歳、中身三十オーバーのため、美少年につい変なスイッチが入る。
普通は使用人の息子と、主人の娘が同じベッドで寝るなんて、絶対許されないだろう。お互い幼く、姉弟のように育ったこと。部屋の隅にお化けが見える的で泣いて怯える、極度の怖がりのユーリ。性別の枠を越えた外見美少女ぷりに、彼の七歳の誕生日迄という条件で黙認されていた。
ちなみに、ユーリの天使のようなイメージのせいか。前世で男性との付き合いがなかったせいか。身悶えするものの私も変な方向に妄想は働かず、すごくプラトニックである。変なあれやこれやの妄想はない、ないからね!と誰でもない何かに心の中で言い訳をする。純粋に可愛い動物や、弟みたいなアイドル、甥姪を愛でるような視線だと思ってほしい。
可愛いユーリと過ごせるのは、あと半年。純粋な目をした美少年をだっこしてモフっても、手つないで寝てもオッケーな、期限のある至福の時間。絶対手放したくはない!
肉体年齢は六歳なので、変態でもない!前世年齢なら一つ間違うと通報ものだけど!
フィリスが転職したからと言って、ユーリが夜寝る時に側にいれるとは限らないのだ。ここなら、ユーリが七歳になったら、私がしっかりして部屋に乳母をすぐ帰らせるようにすればいい。
だけど、と私は不安になる。私が色々考えてフィリスがここにいられるようにお父様と賭けをした。だがそれは、フィリスの出ていってもいいという態度もそうだが、ただの私の空回りじゃないかと不安になったのだ。
「ねえ、ユーリ」
まぁ、ユーリが夜ここに寝に来ている時点で、現時点では必要とされているとは思うのだが。それはあくまで、普段はユーリの母たるフィリスが、ここにいるからである。
「ユーリは私と、ううん、今の私とずっと一緒にいたい?」
冷静に振り返ってみれば三十才を越えた女性が、六歳の子供に聞くには情けない質問。ドンと構えて、年長者として心の拠りどころになるべきが、本末転倒だとは思う。
「今のリーチェ様?」
「えっと、ね。ちょっと前までは私、『おねーちゃん』とか言わなかったでしょ?もっと子供らしかった昔の私と、ちょっと変なのが今の私。」
「うーん、リーチェ様は変じゃないよ。今も昔も。」
ユーリは私の疑問に、こともなげに笑った。
「僕もリーチェ様も大きくなってる最中だから、成長したんじゃないかな?母さんも僕のこと、大きくなったから急に言い方が生意気になったねとか、日々変わってるって言われるよ。」
手を広げいっぱいいっぱい大きくなったことを、嬉しそうに表現し語るユーリ。
「あと、母さん言ってたんだ。リーチェ様は公爵令嬢だから、早く大人にならなきゃいけなくて、一生懸命努力してるけど一人じゃ寂しくて大変そうだって。」
フィリスがそんな風に心配して私を見ているなんて、私は知らなかった。
「リーチェ様からの質問の答え。一人で寂しくて大変なら、僕が手伝ったら楽にならない?だから、僕一生ずっとずっとリーチェ様をお手伝いするって決めてるんだ。多分お互い色々変わっても、それは変わらない。だから、リーチェ様、僕こそずっと傍にいてもいい?」
「もちろんよ、ユーリ。ずっと一緒にいてね。嬉しいわ。」
それは、子供同士のたわいもない約束のようなもの。三十才の尺度と、貴族という階級社会の中で測るなら、性別の違う平民の使用人と公爵令嬢がずっと一緒にいるなんて、夢物語に近いのは知っている。
それでも、この弟みたいなユーリともう少しだけ一緒にいて。その居場所は守ってやりたい。私はだから、がんばれるのだ。
「リーチェ様、おやすみなさい。」
「おやすみなさい、ユーリ。」
目の前でユーリが、にっこり笑って目を閉じた。安心したのかすぐ寝息が聞こえてくる。途端に私にも睡魔が押し寄せてきた。
難しいことはまた考えよう、明日にでも。まだお茶会まで一ヶ月あるのだから、それまでにきっといい考えが浮かぶことだろう。そう信じて私は目を閉じた。
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