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俺の後輩~ ナサニエル視点~

読みに来ていただきありがとうございます!

 俺には一年かちょっと遅れの後輩がいる。年にして二つ下で、暗号名は【ダブル】。

 他のところにもいるのかもしれないが、俺と奴は公爵の館を拠点としている同僚だ。


 公爵様や公子からはそいつは特別扱いをするように言われている。


『できうる限り、殺しをさせないように』


 それは特別な厳命だ。ちなみに俺は暗殺者からのスカウトだから、10才だがここに来る前から、生業としてやってきたので殺しを躊躇うことはない。スカウトの場面は公爵の暗殺未遂事件の場だ。慈善を目的とした孤児院訪問に際した暗殺未遂。本来なら家族とまとめて死罪になるはずだった俺は、変な話公爵や公子に腕を認められ、妹共々拾われた。妹は遠くに配属されたが、俺は公子の護衛として勉強期間を経て幼年学校に入った。


 館にいる面子は基本お嬢様を始めとした、公爵一家を守るためにいる。皆殺しも厭わないのが普通だ。そういう意味では今は遠くに妹がいることは、自分でも良かったと思える要素だ。殺しなんて慣れないと躊躇わなくならないし、慣れるまでは過酷で、初めての後は吐いたしずっとうなされ続けた。ちなみに公子も自衛のためとはいえ、自ら手を汚したことがある。

 だからこそダブルに対する特別扱いは、なんとなく納得がいかなかった。その扱いの理由を、統括する黒服の紳士に聞いてみたところ。


『特別な立場になる可能性があるから、手を汚させない』


と、言われた。接し始めて、その制限が加わった意味を俺は納得した。公爵一家に近く立場が特殊なのもある。だが、一番大きいのは公爵令嬢に対する気持ちだろう。


 また、ダブルは優秀だが、非常に近視眼的だ。事にアイリーテお嬢様に関しては。儚げで可憐な外見と裏腹に、激しく一つ箍が外れると止まらないタイプだ。俺は奴に殺しをさせない理由が分かった気がした。


『一度殺すと、歯止めがきかなくなるからか』


 なまじ才能と力があるだけに、大量虐殺も簡単に出来てしまうだろう。


 あと、ダブルは立ち位置については、非常に稀有なことにお嬢様の傍近くにいる。そんな立場にいる者に、殺しの嫌疑をかけられないというのはなんとなく納得する。いくら護衛として腕が良くても殺人しまくりでも困る。そして何よりお嬢様が望めば、単純な護衛以外の道もあるかもしれない。



 


 ダブルの感情の偏りは、王太子殿下のご子息マティアスとやらがが来る時とかは、それが顕著になる。彼が来る時は、ダブルは基本目に触れないところにいなければならない。


 ダブルのイラつきは半端じゃなかった。


 色々工作してダブルが女装して、その嫌いなマティアスを迎えている時は、俺は吹き出しそうになった。何故かがんばって、誘惑しているんだが、異様に固い。さらにあれだけ嫌々なのに、マティアスが気づいていないのがびっくりだった。


 ダブルのそんなやらかしのせいで、俺は幼年学校を二週間休んで、お嬢様とマティアスを警護をするメンバーに入った。



 マティアスとダブルが、二人でカップルよろしくボートに乗っている時は、さらにびっくりした。ボートに付けた魔法道具で盗聴していたのだが。

 あのマティアスっていうのが、にこにこ笑ってずーっとアイリーテお嬢様のことを話してるんだ。共通の話題がないのはわかる。一生懸命マティアスを持ち上げようとはしているが、所詮子供のダブルはお嬢様相手以外には、その辺りの話術はいまいちだった。だけど女を口説く時に、普通別の女の話題はタブーだろう?本音で口説かれたい訳じゃないだろうが、お嬢様の話題に最初嬉しげだったダブルも、最後は不安で顔がくもっていた。


 ついでに言うと、マティアスとアイリーテお嬢様の噛み合わない二人の会話は、笑いが止まらなくて隠れているのが大変だった。





 女装期間の最後、マティアスとダブルとが、二人っきりで庭で話していたことも俺は聞いていた。ダブルのドレスに一応聞くための魔法道具をつけておいたからだ。


 ダブルの魔法の才を知って、【ルチア】に王立学園に来るよう誘っていたのには驚いたが、真剣な気持ちなのかなとは秘密護衛の外野では納得した。だけど、本来ならそこでプロポーズのような将来の約束とか、付き合うとか色々続くべき方向性があるだろう。ダブルはそれを引き出したいのか一生懸命「一緒にいて嬉しい」とアピールをしている。愛の告白でもあれば、それを使ってマティアスとアイリーテお嬢様の距離を開けることができる。不意討ちの二人っきりだが、ダブルは随分頑張って、健気な少女を演じていた。


 そんなダブルにマティアスは、特大級の地雷を叩き込みやがった。


「あと、アイリーテ嬢が友達が少なくて寂しそうだから、王立学園ではルチア嬢に女子寮に入り、学友として側にいてあげて欲しいと思っているんだ。」


 おかしいだろう二人っきりならまず告白じゃないのか?ルチアが好きなんじゃないのか?マティアス様とやら、お前誰が好きなんだっけ?誰のことを気遣ってるんだ?


 アイリーテお嬢様に友達が少ないのは、公爵閣下の方針だ。だが、ダブルはそれを良いことに、お嬢様を占有する方向性で動いていた。出来れば自分のことだけを見て欲しい。身分差に邪魔される外に出て行かず自分のことだけを。ダブル自身も何故か外出が制限されていたせいもあり、世界はとても狭かった。


 マティアスのセリフはダブルの望むお嬢様との関係を、否定するに等しいものだった。自分のための願いではなく、アイリーテお嬢様のことを気遣っての言葉。ダブルが受けた衝撃は大きかったようだ、動揺が隠しきれていなかった。


 さらに、その後のセリフが酷かった。あれを言われては殺意が生まれても仕方ない。


 結局、自分の方を向かせ改めて告白なりを貰い、アイリーテお嬢様とマティアスに壁を作らせようとした、ダブルの目的は破れた。さらに、マティアスはお嬢様を大事に思い、気にかけているかもしれないという嫌な結果を引いちまった。自棄だったのか、マティアスに対する嫌がらせだったのか、結局王立学園への誘いもほぼ承諾しちまった。ダブルのあの回答じゃ、公爵閣下も否とは言えないだろう。


 マティアスを見送った後のダブルの荒れっぷりは酷かったよ。あれだけ猫被っていたお嬢様の前で本音をぶちまけちまうくらいに。お嬢様も子供だけど、大人な対応でダブルを静めちまったけど。あれもどうなんだろう?本気で家族としか思ってないなら随分罪作りだ。


 俺は二人がソファーで寝てしまってから、報告に行った。眠っている二人は別々の部屋に引き取られたよ。ダブルは人の気配ですぐ起きて自力で移動、お嬢様はぐっすり眠った状態で、フィリスに抱かれて運ばれていった。


 一緒に丸まって眠る二人を見たフィリス。特に自分の息子を見る目が、少し悲しんでいるように見えた。王族と平民の勝負なんて、普通は目に見えてるからな。


 まぁ、とりあえず雇い主一家や後輩のこれからどうなるか、のんびり外野で眺めていることにしよう。どういう結果になっても、俺が使いっぱしりなのは変わらないけど、な。

あと、二本と言いたいところですが、書いた量が多くて三本になってしまいました。

明後日から3日間連続更新して、年内終わりにいたします。

次も別視点が続きますが、サイドストーリーではなく、本編の補完的なものです。


また、読みに来ていただけると嬉しいですm(_ _)m

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